太陽より早く目が覚めてしまう。
こんな、朝とも呼べない朝を、何度繰り返しただろう。
もう一度眠れやしないかと布団の中でねばってみても、結局空が白んでくるころには諦めてもぞもぞと起き出す。
からっぽの胃がヒリヒリして、じっとしていられない。
コーヒーを入れながら、水道水で胃薬を飲み込む。
オレンジ色の豆電球を消して、窓からの白っぽいあかりの中、コーヒーをすする。
おい、胃薬、仕事しろよ、痛いじゃないか。
ウチにはテレビがない。
子どものころは、実家のバカでかいテレビを朝イチでつけてニュースをBGMにしていたけれど、今ではYouTubeかアプリでラジオを流している。聞き飽きた感染者数の数字をYouTubeでざっと流し見して、適当な洋楽まとめ動画に切り替えた。
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絶望から立ち直るのに、こんなにも時間がかかってしまった。
2017年から海外移住を考え始めて、2018年は実際にワーキングホリデーで海外に飛び込んで、2019年には海外移住のチャンスを手にして、2020年さらに準備を進めていく、はずだった。
元旦、めったに連絡もしない姉から届いた年賀状には「2月には3人目の出産予定です」とあった。
おめでとう、と一言LINEすれば、良き妹だろうか。
「あんたはいいね、好きなように好きなところに行けて」と、会うたびに言う姉の顔を思い出す。
どうしても、良き妹になる気が起きなかった。
姉だって、つらいのだと、想像はできる。
農家の長男に嫁ぎ、子どもを3人も持って、独身の私が羨ましくもなるだろう。
でもそれは、お互い様だ、とも思う。
結婚というものにずっと疑問を感じて、その違和感と正面から向き合って、リスクもデメリットも後悔もきっとあるだろうけれど私は、身軽なまま自由を大切に生きていきたいんだ、と自分の気持ちに嘘はつかなかった。
楽しそうな自由人に見えるだろうけど、そこに "生きづらさ" がないわけじゃない。
30歳を過ぎた独り身に、好き勝手にいろいろ言ってくる奴は多い。
やれ理想が高いだの、やれ難ありなんでしょだの、本当にみなさん好きですよね、そうやって年齢で判断するの。
眠れない夜にも朝にも、語りかける人は誰もいない。
それを、寂しい、と言う人もいる。
私も、寂しい、と感じることもある。
それを、酒なりコーヒーなりで飲み込む。
誰にも邪魔されずにいられるこの空間が、私が望んだ "自由" の証でもあるのだから。
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だいたい4年くらいか。
描いた理想の生活のために挑戦に挑戦を重ねて、すべてをかけた時間。
血反吐を吐くような体験もあった。身体や心の健康を多少犠牲にしたときだってあった。
つかんだと思えた未来は消えてしまったけれど。
嘆いて泣いてわめいて、しっかり悲しみ尽くした。しっかり供養した。
そろそろ、本来の私に戻ろう。
真っ白になった未来に、もう一度、描き始めよう。
胃薬を飲んでも、コーヒーを飲んでも、一緒に飲み込んだ寂しさのせいか、やっぱりヒリヒリするけれど。
それを抱えて生きていく覚悟は、失っていない。
私が選んだのは、自由、だから。
姉が羨むくらいの、自由な人生だから。
いくらでも新しく生き直せる。