場の空気が一気に静まった

「ルグド、魔人が新たに出現したということはその魔人を作り出した人間がいるということだぞ?その危険性から、これ以上魔人を作り出さないと条約で決まっている今、そのスグルという新兵が本当に魔人だった時、お前に謀反の疑いがあると上は判断しかねん」

「その通りだエヴノフ、だからこそ上の奴らにはスグルをただの一特攻隊員として報告していると同時にその素性の一切も好評してはいない、まぁもっとも、素性という素性は見つからなかったのだがな。」

坦々とした口調で話し合う2人だが、その内容は危険なソレそのものである
ルグドの秘書さえもこの会話を聞くことは許されていない

「なるほど、まぁお前の管轄内であれば、その少年が敵対したとて一瞬で方がつくことだろう。そこだけは安心できるな」

「任せておけ、ヤツは貴重な戦力になる」

「んじゃあよぉ!結局今回の議会で裁かれるのって、誰になるんだ?」

蚊帳の外にされていたせいで非常に退屈そうな間の抜けた顔でヴォルフが話に入ってくる
あと5分も放っておくと後々めんどくさいことになりそうだった

「そうだな、今回の犯人は…」

「どうする?ルグド、お前の自由にすればいい、議会の連中が目を通す資料など幾らでも俺がいじってやろう」

最高戦力ということは、現状、この世界においてその言葉を有する者はそれだけあらゆる権限においても強い立場にある
故にエヴノフは実質上第2支部の支部長と同等の権力を有する
議会の議決に意見することの許された数少ない人間の内の1人である

「そうだな…042にしよう」

「ほぉ、よりによってこいつか、第3支部に返すはずだったが、罪人としてココに置いとくつもりか?」

「そうだ、042は例によって人間に協力的な魔族だ、俺たち人間がスグルを調教するよりも、2人を1箇所に置いておく方が効果的だろう」

「ずいぶんとまぁ、優しくなったもんだねぇルグドさんよ!」

どことなく上機嫌にオレンジのツンツン頭が左右に揺れながら話しかけてくる
どうやらいつの間にか機嫌が良くなったらしい
全くつかみどころのない男である

「だがルグド、いくら不死とはいえ、042にもそれ相応の処罰が降る、議会の連中の中には魔族をただ嫌うのではなく執拗にいたぶる変態もいる」

「だがこれが最も収まりがいい。戦力も減らさず、上も満足する。コレしかないのだ」

もう決まったことに口を挟むな、
そう言っているようだった

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ボヤけているがそれは確かな記憶だった
血の海になった部屋の奥に細身の男…062ともう1人ドレス姿の女がいる
2人とも驚き、額に汗を浮かべながらこちらの様子を伺っていて…
……
いつの間にか映像は遠のいていき、再び暗い底へ沈んでいく
あぁ、心地いい…本当はもっと早く、もっと昔に…こんな温もりに浸っていたかったんだ…

けれど、少年にはそれが何の温もりだったのか、思い出す事ができなかった


それは突然だった
ゆっくりとした時間のなかで心地よさに浸っていたはずなのに
それが突然の痛みと共に一気に光の方向へ、上へと意識が持ち上げられ、覚醒する

「いって!」

ジワジワとそれでいて切り裂かれるような痛みが耳から脳に信号として流れ込んでくる
その時左隣から綺麗な女性の声が聞こえてきた

「あ、起きたみたいだね、スグル君」

聞き覚えのあるその声に反応して、すかさず声の聞こえた方を見る

「や!おはようスグル君 元気そうでボクは何よりだよ」

形の整った顔に笑顔を浮かべながら真っ白な少女、042は寝たきりの状態でそう言った

彼女の姿を見て安堵に浸るが、すぐに自分の状況に落ち込み始める

「あの、ココって…」

恐る恐る尋ねる

「そうだよ、ここは牢屋、また戻ってきちゃったみたいだね」

苦笑いを浮かべる少女にスグルも苦笑いで返した