「おい貴様、聞いているのか。」
ボーッとしていた。何が何だかわからない。
強大な悪魔の手にかけられ、死んだとおもっていたのに、気がつくとそこは第六支部の地下牢で、
魔族嫌いの看守に人間であるはずの自分を魔族だと蔑まれ、さらには、今まさに自分は目の前のルグドと名乗る男によって'特攻隊'なる部隊にいれられることになったと宣告を受けている。
「まぁいい、じきに分かるさ。アランとりあえずそいつを牢から出して連れてこい。」
男は落ち着いた、冷たい声でそういうと、七三分けの看守、アランという名前らしい。
彼によって牢屋の鍵が解かれた。
「いいかクソ魔族。テメェ何か悪事を働いてみろ、今度は即座に首を刎ねてその体を炎で消し炭になるまで焼いてやる」
アランは牢から出たスグルを頭から睨みつけてそう言うと帽子の男の前まで乱暴にスグルを押し出した。
するとルグドは帽子の端を摘んで少し上げるとスグルの目をマジマジと観察し始めた。
「よく見ると貴様…いや、無いな…」
何かを考えていたのか、顎をスリスリと撫でると、無言のまま階段に振り向き上がっていく。
「おい貴様、そんなにその地下牢が気に入ったのか?」
「…」
付いて来いという意味だったらしい。
さっきまで背筋を伸ばし横に立っていたアランは、既に自分の椅子に腰掛けて楽にしていた。
そんなアランの後ろに扉があるのに気づいたのはその時だった。
”なんの扉だろうか”
ぼーっと立っているスグルに気づいて、
「おい!クソ魔族!まだ居たのかテメェ!さっさと準責任者どのに付いていけ!ボケボケしてんじゃねーぞ!」
怒鳴り散らされて我に帰ると、
もうだいぶ上に上がってしまったであろうルグドという男を追うことしにた。
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おもった以上に長い階段だった。
幸い、ルグドがゆっくり歩いていたため、すぐに追いつくことができた。
暗い石造りの階段は、壁に埋め込まれている明かりでぼんやりと照らされている。魔力の篭った石なのだろうか、その照明からは熱を感じなかった。
階段自体の作りは螺旋状にできていて、横幅は大体2メートル弱程あるだろうか、ひんやりとしてあまり気持ちのいいものでは無かった。
「あの、特攻隊って、僕はなんで…」
「無駄口を叩くな。すぐに貴様の世話係に合わせてやる。詳しくはそいつから聞くんだな。」
そのやり取りの直後、階段が終わったのだろう、外の明かりが、暗い地下に慣れてしまった眼球に鋭くささる。
目を瞑り、神経が強張ると、「うっ…」と小さく声が漏れた。
「おい貴様、こいつが貴様の世話役だ。」
そう言われてゆっくりと瞼を開くと、そこにいたのは緑色の澄んだ瞳に白い肌、綺麗な白い髪をした女だった。
身長は160くらいに見えた。165センチのスグルとあまり変わらない。
歳はスグルと同じくらいだろう、首のあたりまで伸びたその髪はボブヘアーと言うのだろうか、頭の上のところに小さくアホ毛があるのが可愛らしく見えた。
「よろしくね、ボクが今日から貴方の担当の042です。」
042と名乗る白いボクっ娘はその整った顔で優しく話しかけてきたのだった。
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ルグドは2人を会わせると、「俺は忙しい」と一言の後、スタスタとどこかへ消えてしまった。
「あの、ゼ、042?さん?」
「ん?なぁに?」
どこか弟に対する優しい姉のような返しだった。
その整った見た目で話しかけられるだけでほとんどの男はトキメいてしまうだろう。
「あ、貴女は、何者なんですか?」
直視できなかった。女性経験があるとすれば、母と話すか、学校のクラス委員会などで事務的な話を女子と少し交わしたくらいしか無いスグルにとって、それはしかたのないことだった。
「ボクも魔族だよ。君と同じね、まぁ種族自体は君とは違うのだけど、」
「僕は魔族なんかじゃない!僕は人間だよ!」
咄嗟に否定する。
すると少女は少し俯くと
「ボク達魔族だって、人と仲良くなりたい奴らだっているんだよ。そんなに嫌わないでよ。それに、君も魔族、、なんだよ?」
ハッとなった。
目の前の少女を傷つけてしまったことに気づくのが遅かった。
「あ、あの。ごめんなさい。」
「んーん、大丈夫、人から言われるのは慣れてるから、見た所君は後天的に魔族になってしまったみたいだね、元は人間だったせいでだいぶ混乱しているようだけれどね、」
042は優しく哀れむようにそう言った。
「僕が魔族だとか、そうじゃないとか、それはもう後でいいよ。」
「人は魔族に対して冷たい人が多いわ、特に魔族に対する恨みを持ってる人が9割を占めているこの支部では、辛いことが沢山ある。。だから、何かあったらボクが君を助けるよ」
042はそう言うとまた優しく笑った
「じゃあ説明を始めるね?君が配属される特攻隊の事を、アンデットってボク達を呼んでくる人もいるかな、」