「そうだ、'願いの使徒'だ、ここで引かなければ部隊が全滅するぞ」

雨の中で魔女以外の敵の存在を察知したエヴノフが支部で待機しているルグドに危機を伝えた

その時、指輪の通信越しでルグドは眉をひそめて腕を組んで椅子にもたれていた

”願いの使徒か…いつかはやつと対峙することになると思っていたが、向こうからでむいてくるとはな…何が目的だ?”

「エヴノフ、聞こえるか?'願いの使徒'は恐らく今回も高みの見物だろう、もしも襲ってきた場合は即座に緊急用のゲートを開き、第六支部に帰還しろ、兵が戻るまでは貴様が食い止めろ。」

「…」

通信越しに沈黙が伝わってきた
そして数秒後

「了解した…」

小さく返事が返ってきた

第2支部最高戦力であるエヴノフが引き腰になっているのはいつものことである
戦闘において絶大な殲滅能力を持ちながらにして、無表情な見た目に対して臆病とも言えるほどの慎重さを兼ね備えているからこその最高戦力だ

だが、兵士として、戦士として存在する彼にとって指揮官の命令ば絶対である、故に逆らうことができない
そして、エヴノフにはその命令を確実に実現させることができるだけの能力があった

「エヴノフ、死ぬなよ」

ルグドの呟いた言葉には親愛のような、それでいて友情のような、それでいて冷たいような感情が込められていた

そして、それは'願いの使徒'という存在の危険性を示す言葉でもあった

………………………………………………………

「ヴォルフさん…いったい何がおこってるんですか…」

「そりゃおめぇ、魔女が攻めて来てるに決まってんだろ?」

震えるスグルの声に当たり前だというふうにヴォルフが返す

「魔女…それは分かります。でも何で人間が僕らを…」

「闇の魔女の力だ、大戦の時以来だが…奴は人を人形に変えて操る力がある。当時、今よりも発達していなかったにしても、闇の魔女による被害は一個大隊の壊滅という大被害だった恐らく、ここら一帯は既に元人間の人形だらけだろうよ」

その言葉からはヴォルフのどくとくな訛りが、いつの間にか消え去り、なぜだろう、どこか高揚しているように聞こえてならなかった