イチロー「三分間待ってやる。……バルス!!! グワーッがガガガがー」
ジロー 「……いったい何やってんだ?」
イチロー「バルス!! って言ったらそりゃ『天空の城 ラピュタ』でしょ。あの地~平線~」
ジロー 「『ラピュタ』か、そういえば『ラピュタ』って本編の中で数分見れば全体を理解できるシーンがあるって知ってた?」
イチロー「ふぇ? そんなシーンあったか?」
ジロー 「それはズバリ! オープニングだ」
(オープニング動画は一番下に乗せてあります。)
ジロー「シータが飛行船から落ちるシーン直後からオープニングは始まる。
真っ暗から白くタイトルが出てくる。そして周りのレリーフがうきあがってくる。ここからラピュタの歴史が語られるんだ。今回は今まであまりやられたことのないカット毎に見てみよう。」
ジロー 「まずカット毎に説明する前にね重要なポイントを言っておきたい。アニメって絵をコマ撮りして、それを連続して表示させるんだけど、その1カットごとに絵をかいてると思う?」
イチロー「最近はCGとかあるからちがうだろうけど、基本そうなんじゃね?」
ジロー 「実はそれは間違いなんだ。1カット毎描くのはさすがに手間がかかりすぎるから止め絵とかの技法を使って、効率化するときも多いんだ。あと重要なのは今作では風や火などの自然物は1カット毎、人物はだいたい3カット毎に書かれているんだ。」
イチロー「へー。なんだ全部に全部、力をいれてかいてるわけではないのかよ。」
ジロー 「でも、その巧妙な手抜きに気づかなかっただろ?」
イチロー「た、確かに……」
ジロー 「それができるのが宮崎さんのすごいところなんだよ。
でだ、オープニング初めのカットにある女神は1カット毎に動いてるんだ。」
イチロー「あっ、ということは女神は自然物として描いてるんだ。これは比喩表現か!。」
ジロー 「そのとおり。女神=自然の恵み(大地の母)である風の力を示してるんだ。」
ジロー 「このカットは前カットの風を使って風車を動かしている。人は自然の力を借りて火を起こしてるんだ。その火でかまどをたき、生活している。」
イチロー「だから前カットは女神なのか……。」
ジロー 「そう、女神に象徴したほうが監督の意図もしっかりしてくるね。」
ジロー 「ここで一気に雰囲気が変わるんだ。」
イチロー「うん、なんか機械とかが出てきて産業的になった。」
ジロー 「大きな風車からパースダウンしていって、下のほうにたくさんの歯車が回ってるのが見える。すごく産業的になった。でもここではまだ風の力で動く風車だし、鉄製じゃなくて木製だってこともポイント。」
イチロー「風の力で動く風車って意味が重複してるよ。」
ジロー 「そこは見逃しといてくれよ……ちなみに風車のデザインは全部違うよ。」
ジロー 「次カットはおそらく前カットの続きだね。さらに下層部に視点がシフトしてる。」
イチロー「この機械の作りスゲーな。クモみたいでユニークなのに中の構造むき出しで俺ら視聴者に的確に理解させてくる。」
ジロー 「いいとこ目つけたね。この機械かっこいいよね。それにこれ以降の機械は鉄製なんだ。」
イチロー「周りの光ってる石がいい味出してる。これダイヤかな? 青白いし」
ジロー 「これね、飛行石だよ。飛行石ははじめ地中にあったんだ。空飛ぶ石は人が掘り出したことによって発見されたんだよ。空飛ぶ夢は上の空じゃなくて下の地中にあったんだね。」
イチロー「これ飛行石だったのか。……バルス(ボソッ)」
ジロー 「次カットは産業化がどんどん進行してる。もはや、風の力はかりず、火力によって歯車を動かしている。風と火はそのまんま自然と産業の対比になってるね。」
イチロー「空とか真っ黒じゃん。産業をおもいっきり醜く書いてる感じか。」
ジロー 「それにね、よくみるとアリみたいに動いてる黒い点が見えるでしょ。これ人間だよ。」
イチロー「こんなちちゃいのがか。全然気づかなかった。」
イチロー「あれなんか明るくなった。」
ジロー 「ここのカットは初めての飛行機が出てくるカットだね。ここがなんでか一転して雰囲気が明るいのは人が空を飛ぶことができたことへの賛美だと思うんだ。」
イチロー「なるほど、宮崎さん飛行機好きだしね。」
ジロー 「飛行機が好きだから紅の豚も風立ちぬも作ったんだよ。でも、そんなきれいな飛行機も一方では火の力=人工の力で空を汚染するんだ。下から黒い煙が出てるでしょ。」
イチロー「確かに……」
ジロー 「それにね、真ん中に映ってる人達は富裕層なんだ。でなきゃ初めて飛行機なんて乗れるはずがない。そう考えると、前カットのアリみたいに小さい人々は奴隷層だったんじゃないかって想像できる。前カットとの対比はこのオープニングでも多いしね。」
イチロー「そうだとすると、飛行機は美しくも呪われた夢だね。」
ジロー 「次は完全に汚いシーン。そこらじゅうで黒い煙が出まくって、プロペラも回しまくってる。」
イチロー「このプロペラのためにどれだけ火を起こしてるんだ。
ジロー 「飛行機が空を埋め尽くしてる。あんだけ空気を汚したからいられなくなったんだな。
ジロー 「このシーンで飛行機の後ろに島が見えるでしょ。」
イチロー「ああ、空飛ぶ島ね。」
ジロー 「これね、空飛ぶ島じゃなくてバベルの塔のような存在だと思うんだ」
イチロー「えっなんで?」
ジロー 「次のカットで大きくラピュタが映るんだけどおそらくラピュタが初めての空中都市だと思うんだ。ラピュタは国だし、造りが大掛かりな以上権力が必要だからそれ以前はない気がするんだ。それと、空飛ぶ島が微妙に雲に隠れてて浮いているとは断定できないこともきになる。」
イチロー「うーん、それは微妙な推理だな。」
ジロー 「でも次カットにラピュタが出てくる理由がよくわかなくなるんだ。おそらく考えるにパターンとして1、小さい飛行都市→ラピュタ 2、ラピュタ→小さい空中都市が考えるんだ。1、のように一見見えるんだけどだったらラピュタの次カットのたくさんの空中都市をラピュタの前カットにおいてあるはずだと思うんだ。ラピュタは作るには相当の経済力が必要&上に飛行機がたくさん群がってるってことはラピュタはほかの空中都市より大きな力を持っていると思うんだ。」
イチロー「そこまで言うんならそうなんじゃないんすか。」
ジロー 「次2カットは両方とも空中都市後映るわけなんだけど。注目したいのが2つめのカットだ。」
イチロー「あっまた地上にアリがいる。」
ジロー 「アリじゃなくて人ね。完全に空に生活の場を移したわけじゃなくて地上にも人がいるってことが重要なんだ。」
イチロー「なんで?」
ジロー 「後のカットでわかるよ。」
ジロー 「空中都市に押し寄せる黒い雲、これは実は最初の風の女神と同じ構図で同じ方向から吹いてくるんだ。」
イチロー「それって……」
ジロー 「この暗雲は神の鉄槌と考えることができるってこと女神は具現化してたけど暗雲は具現化してない。それはあいまいにしたかったんだろうな。」
イチロー「なるほど、こんなの気づかねーよな」
ジロー 「次カットは前カットの延長線だね。黒い稲妻は神の鉄槌。」
イチロー「このシーンね、稲妻以外は止め絵なんだ。物が崩れる作画は大変だからかなぁ。」
イチロー「落ちた空中都市か。アリがその中からうじゃうじゃ出るな。」
ジロー 「結局、人は大地から離れては生きられない。自然の一部として生きるのが人なんだ。
全は一、一は全だね。」
イチロー「文明に対する警鐘なわけか。」
ジロー 「もっと言うとさっきのバベルの塔のカットはそこら辺の話と密接にリンクしてる。イカロス、バベルの塔は限界があった。それらの神話を乗り越えるためにラピュタは作らる、だけど結果同じ運命をたどることになる……」
イチロー「その話は分かったから……」
イチロー「あれ、女神シーンに戻った。」
ジロー 「そうなんだ。循環してるんだ。今までのはラピュタの歴史、そして次カットをみてもわかるんだけど。これからは今なんだ。ラピュタの歴史は繰り返される。そういう暗示がある。」
ジロー 「最終カット、これは初めのカットとは少し違うんだ。」
イチロー「風車も構図も一緒だけどシータが映ってるし、牛も映ってる。これがなにか?」
ジロー 「初めのシーンでは風車が動かしているのは火で、次シーンでは排水として風車を使っている。時代は繰り返すって言っても完全に一緒なわけじゃないんだ。今は自然とともに生きている。」
イチロー「じゃあいいじゃん。宮崎さん自然好きだし。」
ジロー 「それだと、物語にならないだろ。ラピュタの歴史は繰り返すとすると、また産業の時代になる。それは本編と完全にリンクしてるね。」
イチロー「あっ確かに。シータとパズーが自然側でムスカが産業側なのか。」
ジロー 「だからこのオープニングは物語全体を示しているっていうすごいオープニングなんだ。この作品は今度は産業の時代になるはず。でもそのなかで覚えているべきことを伝えたかったのかもしれないね。」