※父は今は元気です。なにか誰かの励ましになればいいな。
7月28,29日。
父が幻覚を見るようになりました。
29日には、発言の半分くらいが、ありもしないことでした。
でもふだんと同じ会話のトーンで妙なリアリティがあるぶん、
聞いてる方はおなかの底が冷えびえとします。
床にグラスがいっぱい転がってゆれてるね、風が強いのかね? とか(グラスなんかないし、室内)
ふとんに新聞紙がいっぱいくっついてとれない、と、ずっとはがそうとしていたり。
また、妄言も言うようになって。
ずっと寝たきりなのに
「さっき家の庭でびわの木が切られて燃えてたけど、業者に頼んだの?」
「おれの携帯とかお財布、ショルダーバッグにいれといたんだけど、
こないだのお祭の日に知らない人が入ってきたろ、
その時に盗まれちゃったみたいなんだよ」
「トイレに出たら、すぐそこにきれいなおうちがあったの。
入ってみると玄関すぐんとこにもうベッドがあるんだよ。
知らないお宅なのにおれ入っちゃってさあ、家の人も出てきてあわてちゃったんだけど
その人たちが「いいんですよ、ここも病院ですから」て言うんだよね。
六畳くらいあって、けっこう立派なお部屋なんだけど、そういうわけでそこがおれの病室になったわけです。
あれほんとに知らないうちだったら今頃大変だよな、ははは」
などなど
きわめつけは
「さっき先生がみえたとき、あそこの天井にさ、うわーって虫の大群がいたの。
でも先生は「虫はいません」なんて言うんだよな。
で、そのあとに言ったことがまた、ふるっててさ、
「脳になんらかの炎症が出てるときはそういうのがみえることがあるんですよ」なんて言うんだよ。
おっかしくてさあ」
と爆笑する父。
私・弟・母、「……はは」とあいづち笑いをしつつ、涙こらえきれず。
脳炎でぐぐってみても
いったん昏睡までいってしまってからの回復率は
1/3といわずもっともっと低いみたいで
気休めになる材料はどこにも見つからない。
絶望。
これか? 絶望。
まだなんかあるのか?
たしかに私はこないだ祈りながら
もしも重い後遺症が残っても、神様にぜいたく言わない、
ぜったい「あの時死んでいた方がましだったのでは」とか思わない、
と心に誓いましたが
よくばってごめんねほんと、
でも今から急に優しくしたって、それを感じることもできないなんて、
くやしくてくやしくて、
くやしくてくやしくて。
なんとかたのむよ。
お父さんは不器用で愚かな人間だけど
正義に反することはなんにもしてこなかったんだよ。
お経の現代語訳を読んでたら
「病とか死とかの表層的な苦しみに惑わされない心を……」みたいなことが書いてあって
う、そうだけど、ちょ、これだけお願い。
たのむよほんと。
のりこえらんないよ。