1.要旨
本書は、現行の$CO_2$排出削減に偏重した環境政策に対し、熱力学的および気象学的観点から再評価を行うものである。
エネルギー収支比(EROI)の分析により、現在の工学的プロセス(CCU等)および系統安定化を伴う再生可能エネルギーが、社会の維持閾値を下回るエネルギー多消費に陥っていることを示す。
気温上昇の要因において、1970年以降主に先進国で行われた環境政策の効果により、大気中の汚染物質(エアロゾル)が減少した。これに伴う日射量増加(ブライトニング)の寄与率を算定し、単一のCO2要因モデルの限界を指摘する。
解決策として、炭素吸収能、保水機能、雨水調整機能に長けた広葉樹主体の混交林(フランス型)への転換による負のエントロピー創出を提案し、実効性の高い解決策を提示する。
2.はじめに
2-1. 本書の目的
本書では、補助金事業で見られる物理学的非効率性を排し、森林の多面的機能とエネルギー収支を統合した新たな評価基準を確立することを目的とする。
2-2. 全球平均モデルの限界
地球規模の気候変動に対し、全球平均モデルに基づく一律の解決策が提示されているが、これらは各国の物理的・地理的特性を反映していない。
2-3. 自然法則との乖離
物理学の基本法則である熱力学第二法則に基づけば、有効エネルギーの喪失(エントロピーの増大)を伴う対策は、社会の持続可能性を根本から損なうものである。
3.現状
3-1. エネルギー収支の質的劣化
化石燃料のEROI(約30)に対し、蓄電池や系統調整を含む太陽光発電のBuffered EROI(システム全体の収支比)は3.9まで低下し、文明維持に必要な閾値(7〜10)を割り込んでいる。
3-2. 森林機能の低下
産業革命以降(1750年頃から)、世界の森林面積は約60億haから約40億haへと2/3に減少した。さらに、日本を含む東アジアでは、ドイツ流の効率重視な針葉樹メインの植林が主流となったことで、炭素吸収能、保水機能、雨水調整機能等が低下している。
4.課題
4-1. 工学的プロセスのエントロピー
大気中の希薄なCO2(0.04%)を有価物に転換するCCU(Carbon Capture and Utilization)技術は、濃縮および還元プロセスで多大な外部エネルギーを必要とし、システム全体で熱力学的に負の収支(EROI < 1)となる。
4-2. チャンピオンデータと実データとの乖離
関係省庁の広報資料等において、日照条件の良い砂漠地帯や系統連携が容易な平原部で得られた高効率データ(チャンピオンデータ)が使用され、山岳島国である日本の地理的制約(高コストな造成、独立系統による調整コスト)が過小評価されている。
4-3. 針葉樹林の物理的限界
単一の針葉樹林は広葉樹に比べ、根系が浅く保水機能が低い。また、葉面積指数の特性から蒸散による冷却能力(潜熱輸送)が限定的であり、激甚化する気象災害や熱入力増大に対する国土の防御力が不足している。
5.気温上昇の各要因、寄与率
5-1. 全天日射量増加(ブライトニング)の影響
過去50年間の環境政策によるエアロゾル(硫酸塩等)の減少は、雲の凝結核を減らし、下層雲のアルベド効果を低下させた。その結果、地表面に到達する日射量が増大(ブライトニング現象)した。
5-2. 要因分析と寄与率
先進国と周辺海域における近年の昇温において、直接的なCO2の温室効果だけでなく、日射量増(短波放射の入力増)が30%〜50%程度の寄与を持つことが複数の観測データ(Wild et al., 2012)から示唆されている。全球一律ではCO2が最大要因とされるが、各国別において要因と寄与率は一律とは言い難い。
5-3. 土地利用変化に伴う水サイクルの断絶と乾燥化
乾燥化は、大気中のCO2濃度上昇によって直接引き起こされるものではなく、森林伐採や都市化といった土地利用変化による植生喪失が主因である。森林は生物ポンプとして水分を大気へ放出し、空中を流れる川を形成するが、伐採はこの生物ポンプを停止させ、降雨パターンの変化と地表の乾燥を招く。植生を失った地表面は潜熱冷却ができなくなり、太陽エネルギーが顕熱(温度上昇)へと転換され、さらなる乾燥化の悪循環を生む。
6.気温上昇抑制の解決策
6-1. フランス型広葉樹主体の混交林への転換
広葉樹の深い根系は土壌中に団粒構造を形成し、高い保水力と多様な生態系を維持する。これは針葉樹単一林に比べ、土壌への炭素固定密度および長期的安定性に優れる。また、旺盛な蒸散作用を利用して日射エネルギーを潜熱として上空へ移動させ、工学投資不要の太陽エネルギー駆動型「負のエントロピー装置」となる。
6-2. バイオ炭(Biochar)による土壌機能強化
広葉樹林化の過程で発生する未利用バイオマスをバイオ炭化し、土壌へ還流させる。バイオ炭の多孔質構造は水分保持能力を飛躍的に向上させ、干害に対するレジリエンスを生む。また、CO2を固形状態で数百年〜数千年にわたり地中に隔離する。現在、熱分解温度の精密管理や安定性指標(H/C比)の確立により、LCA(ライフサイクル評価)を通じた定量的な機能証明が進められている。
7.結論
脱炭素政策は、単一のCO2排出量管理から、地域的なエネルギー収支および熱収支の管理へと移行すべきである。
物理学的に非効率な工学的CCUや森林破壊を伴う再エネ普及は、社会の有効エネルギーを奪い、国土の熱的脆弱性を高める。
日本が取るべき最善の戦略は、フランス流の広葉樹林化とバイオ炭を主軸に据え、外部ソース(太陽)を直接かつ生態学的に利用することで、低エントロピーな社会構造を再構築することである。
[参考文献]
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Weißbach, D., et al. (2013). Energy intensities, EROIs and energy payback times of electricity generation options. Energy, 52.
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Wild, M. (2009). Global dimming and brightening: A review. J. Geophys. Res. Atmos., 114.
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Wild, M. (2012). Enlightening Global Dimming and Brightening. Bull. Amer. Meteor. Soc., 93.
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Ellison, D., et al. (2017). Trees, forests and water: Cool insights for a hot world. Glob. Environ. Change, 43.
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Hall, C. A. S., et al. (2014). The Energy Return on Investment Threshold. Energy Policy, 64.
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FAO (2020). Global Forest Resources Assessment 2020.
[付録:算出根拠およびシミュレーション]
1. システムEROIシミュレーションの変数根拠
日本の孤立系統特性と気象条件を反映した以下の設定値は、先行研究および国内実績に基づく。
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設備利用率(13%): 経産省統計による国内PV実績値(13〜15%)を採用。温度上昇損失や日本の平均日照時間を反映
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蓄電要求率(60%): 需要曲線(ダックカーブ)との乖離から、ベースロード化に必須となるバッファ割合を算出
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蓄電往復効率(75%): 揚水発電の総合効率および蓄電池システムの自己消費(冷却・変電)を含む実効値
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インフラ負荷係数(1.2): 日本特有の急峻な地形への造成に伴う土木エネルギー負荷を加算
2. 計算結果と物理的妥当性
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Unbuffered EROI(12~18): 境界条件を設備単体に限定した場合の数値であり、推進派の根拠
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Buffered EROI(2.3~3.1): 安定電源として社会へ提供する全工程を算入した数値
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妥当性の評価: 批判的意見(将来技術への期待)を取り入れたとしても、日本の地理的条件下ではEROIは5~6を越えず、文明維持閾値(7〜10)に届かない。一方、維持エネルギーをほぼ要さない森林(広葉樹林)の物理的収支は圧倒的に黒字であり、投資効率において工学的プロセスを凌駕する。