コトノハ通信  カウンセラーの日々の想い

コトノハ通信  カウンセラーの日々の想い

吉祥寺で女性専門のカウンセリングルームを開いています。
 日々のこと、好きな映画、芝居、文楽、そして猫の話など思いつくまま綴ります。


 ギリシア出身の監督の初めての作品と言うことです。
突然の記憶喪失症患者が蔓延する世界、という設定です。

ある中年の男がバスの中で寝て居るところを運転手に起こされます。
男はどこから来てどこに行きたいのか、自分の名前も覚えていませんでした。記憶喪失になっていたのです。

男は病院に収容されます。
 多くの患者の中には家族が迎えに来てくれる人も多いのですが、その男のところには誰も来ません。
そのままでは男はずっと病院で暮らすことになります。

主治医に勧められたのは「新しい自分になるプログラム」男はそれを受け入れます。

 男は決められたアパートに住みながら毎日送られてくるテープを聴き、そこで支持されるままにミッションをこなします。
それは
 自転車に乗ってみる
 仮装パーティーに行き、誰かと話す。
 少し離れたところまでドライブに行く。
 ホラー映画をみる。 などなど。
それが本当に何の役に立つのかと首を傾げたくなるようなものばかりです。実にありふれたことばかりです。

それでも男は律儀にひとつひとつこなしていきます。実行した証拠としてポラロイド写真に記録を残します。
そのようすはどこかしらユーモラスでもありますが、男の「新しい人生を生きたい」という切実な気持ちも感じさせるところです。

 男はいつか同じようにミッションをこなす若い女性と知り合い、行動を共にするようになります。

 少しずつ彼女との関係が親密になってきた頃、男に新しいミッションが課せられます。それは死の近い人を世話し、亡くなったときに葬儀に参列し遺族と共に過ごすこと。

 男は余命幾ばくもない老人と話すようになり、そして、、、。

 人が生きていくという事は何気ない日常をこなしていくこと、新しい人生を生きると言うことも、特別なことをするのではなく誰もがするようなことをひとつひとつこなす、日常の連続であること。
 辛い出来事があったとしても、日常生活をひとつひとつこなしていくことが生きていく上で大事なことだということ。この作品は生きることの辛さも愛しさも伝えているように思います。

 画面は常にブルーグレイの静謐な色合い、淡々とした語り口、説明はほとんどないにもか関わらず、男の心情が無理なく静かに観る者に伝わってくる素敵な作品でした。