ツカサは考え込んでいた。
大人でも悩むというか、なかなか判断が難しい問題だった。
昨日の話だが、おじいちゃんが小さな魚を釣ってきた。
ツカサにはそれがどうか分からなかったが、
錦鯉らしい。
確かに金色だし、普通の魚ではなさそうだ。
体長5センチほどだが、鯉らしい。
元気にタライの中を泳いでいる。
ツカサはこれまで、こんな小さな鯉は見たことが無かったし、
金色の鯉も初めてだった。
でも、ツカサが悩んでいるのは、
この鯉が高く売れるのかどうかということだった。
おじいちゃんは、
「錦鯉は1匹何百万もするヤツもおるんじゃ」
と、言っていた。
「でも、鯉を育てて商売をしてる人は、
鯉が小さい内にキレイに模様が出るかどうか分かるんじゃ、
高く売れる鯉しか育てんのじゃ」
とも、言っていた。
「この鯉はどっちなんじゃ・・・」
ツカサはもう1時間も鯉を眺めているが、全然分からなかった。
だって、こんなにじっくり鯉を見ること自体が初めてだったから。
おじいちゃんが他の魚をさばいて、浮き袋を持ってきて、
「ツカサ、これが浮き袋ゆうんじゃ。これで魚はういとんじゃ」
「おじいちゃん、この鯉も捌くん?」
「その鯉は、食べんよ。また川に返しちゃろう」
「でも、高いかもしれんのじゃろ?」
「ツカサは高いと思うか?」
「わからん」
「わしもわからん。生まれた時から価値があるのは一握りじゃ、
生きていく内に、価値が出るんじゃ。」
「じゃあ、大きくなったら、また釣る」
「そうするかの~」
あの時はおじいちゃんが言っていることはよく分からなかった。
ツカサは思った。
あの錦鯉が今も生きているなら、今度は、こちらが聞いてみたい。
「あれから、二十年。俺に価値が少しは出たかな?」