暗い暗い森の中
曇ガラスの窓辺に
一人佇む魔法使い

幼い頃　眠る前にせがんだ
不思議な物語
魔法使いはその力で
姿を変え　お姫様を眠らせたり
シンデレラを舞踏会へと送り出す

そんな魔法使いは
大概が長生きで　嫌われ者で
自らも独りで生きようとしてばかりだった
本当はみんなを愛しているのに

怖がらせるなら近づかないよ
望みがあるなら叶えてあげよう
私の力を使っておくれ？
なんでも叶えてあげる

だから…私を独りにしないでおくれ

お昼と夕暮れの間
1日でいちばん明るいはずの時間に
暗い暗い森の中
曇ガラスの窓辺に座り
毎日、毎日こうして外を眺める

あの子は困ってないかしら
あの王様は悪さをしないか
お腹を空かせた子はいないかしら

大丈夫　私がなんでも叶えてあげる
怯えないで怖いことなどしないから
私にすべてお任せなさい

暗い暗い森の中
曇ガラスの窓の向こう

魔法使いが流す泪は
皺だらけの頬を伝い
薄汚れた服に流れ
痩せ細った手の甲にも
パタパタと落ちた

ああ　優しい魔法使い
何でも叶えるその力を
自分のためには使わないのかい？

すると魔法使いはこう答えた

独りになんてなるもんじゃないよ
寂しくて　辛くて　
楽しいことなんかありゃしない

どんなに良いことがあっても
たとえば悲しいことがあっても

それを話す相手が居なきゃ
全部同じさ

なら話せばいいじゃない
みんなのためにこの力を使って欲しいって
みんなのことが愛しくてしょうがないんだって

バカを言っちゃいけないよ
私には願いを叶えることしか出来ないんだ
力を持つ者は怖れられていなければ

さもなくば禍の種が放たれて
いくつもの悲しみが降り注ぐのさ

そう言ってまた魔法使いは
窓の外を眺める

優しい優しい魔法使い
曇ガラスの窓の向こう
今日も一人　そっと佇む

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魔法使いの御話