……私なんかで、いいんですか?
獅童家は代々伝わる老舗の和菓子本舗。
家系に産まれたからには、幼少時から和菓子細工の基礎を叩き込まれる定めかつ、製菓学校にも入って基礎も学ばなければならない故に根を上げる者も少なくは無い。
しかし獅童家の娘の1人であるウタは和菓子を作成するのは嫌いでは無く、逆に稀に見る才能の持ち主として周囲から賞賛され、全国和菓子製作大会では優勝するなど次期当主としての器は持っているのだが……本人は兄のカナデに譲ると言って居る。
「あたしでは無く、兄さんの方が何十倍も才能が上です。なのにお母様はどうしてあたしを推薦して居るのですか」
「兄はウタより劣っている、それだけの事です」
「しかし兄さんは日本だけでは無く、世界大会まで出て居るのです。なのに何故あたしが次期当主なのですか?」
「獅童家は昔から実力主義なのです。例え世界に出たとしても、結果を出せなければ凡人と一緒」
考えたら兄は世界大会まで行ったけれど、結果は思わしく無かった。
だから母はあたしに求めて居るんだ。出来損ないの兄より実績のあるあたしを推薦して居るのを。
ある日の出来事。
家の近くに高層ビルが建設されるのを知って土地を使用したいと立ち退き要求を出したのである。父は代々続く土地である場所だから無理と告げたが相手も引かなかった。
「何度言ったら分かる。断固お断りさせて貰う」
「困るんですよねぇ、高層ビルの契約をして居る方も多い。近くに住んでいる人は既に了承済みで残るは貴方達だけなのですよ」
陰から覗いていたウタは契約会社の人間が知って居るカードを持ち、不気味な笑みを浮かべて居たのを目撃。
「あれはバトルスピリッツ……でもどうして契約会社の人が!?」
実は仕事の合間を縫ってウタもバトルスピリッツをやっており、GROUND of RoRoでもアバターを製作している。
「では、バトルスピリッツでのシャドウバトルで貴方が勝利したら手を引きます。ですが敗北したら大人しく土地を渡して頂きましょう」
「そんな物は知らぬ! 要求は飲めん!!」
「おやおや……シャドウバトルでの戦いに拒否権はございませんよ?」
その瞬間、ウタが父と契約会社の人間の合間に割り込んで両手を塞ぐように広げて叫んだ。
「ウタ!?」
「突然失礼致します、父はバトルスピリッツを知らない為私が代わりに戦うのは駄目でしょうか」
ため息を吐き、黒スーツの男が呆れつつ呟く。
「本来ならばそうとも行かないでしょうが……良いでしょう、どうせ結果は揺るがないのですから。シャドウゲートオープン、界放。さぁ始めましょう」
空間に亀裂が走りウタと契約会社の人間が吸い込まれた。
「……ウタよ、そこまで思ってくれて居たのか」
意図しない形でシャドウバトルで戦う事になったウタであるが彼女は一般ランカーで、ランクはSと非常に高い故に結果は分かりきって居た。
「威勢を切った割には大した事無いわねぇ」
「馬鹿な、こんな小娘に負けては成らぬと言うのに……!」
スティクス。ウタのアバターでありGROUND of RoRoで戦う姿。
普段と全く違い、紫色のパーティードレスに身を包んで紫色のデッキに汎用パーツを入れて戦う。
美しい美貌から見えるは咲き誇る薔薇。
しかし茎に生えた棘に刺されたら最後、麻痺の毒で身動きが取れずに散る。
「アーッハハハハハハハ! 争いの女神エリスよ、相手を嬲りなさい!!」
スティクスが勝利し契約は破棄され自分の力で居場所を守った。
両親は帰って来たウタを抱き締めて、涙を流したと言う。
一方、ジャッジで同席していた黒髪でローブを着た男が呟く。
「……まさか、彼女は一般ランカーなのにシャドウランカーに戦いを挑まれると思わなかったよ。ルール破りはシャドウにおいては一切許されない。相応の処罰は取らせて頂くよ」
その後契約会社がどうなったのかは誰にも分からないまま、闇に葬り去られたと言う。
さらにとある日の事。
ウタは用事で出掛けた際にポスターを見かける。
「カードショップ黒の巣スタッフ募集中?」
ウタが事情を両親に話すと、居場所を守ってくれた事がきっかけでバトルスピリッツを知り、副業として働く事を許してくれた。
「君が獅童ウタさんだね? 初めまして、店主を務める戸川ナナミです」
実家の和菓子店とカードショップのスタッフは相反する存在なのだが、果たして。