lilly



実は、もともと、女流作家のミステリは、面白いとは思ってもあまり好きになれない。

なんとなく、濃密なユリの花の薫りが纏わりつくような重たさや、顔にかかった蜘蛛の巣のような鬱陶しさを感じてしまうから。
女性ならではの濃やかな目線で、凝りに凝ったトリックは、ごてごてと着飾った大女優の厚化粧を想いおこしてしまう。

いまや、ミステリの重鎮的存在となった、皆川博子の初期作品である。
初期作品だから、皆川博子独自の華麗な不気味さといったものはあまりない。

勿論、「光源氏殺人事件」という、まるで土曜ワイド劇場のドラマになりそうな(もしかしたら、なったのだろうか?)タイトルに惹かれて読んでみた。

サブタイトルは、

「幻の源氏物語に隠された謎に纏わる禁断の恋と錯綜した人間関係の愛憎、いま明かされる出生の秘密とは!?」 (ぐた作成)に決まってる♪(笑)

二重三重どころか、十重二十重にもめぐらされた布石には感心するけれど(疲)、回りくどい説明や偶然の出来事によって話が進む点もあり、やはり初期作品としての粗が目立つ。
幻の巻、「雲隠」の謎や、変体仮名に托した暗号など、発想としては面白いけれど、手が込みすぎて不自然な感じ。

なによりうんざりしてしまうのは、冒頭から始まる親戚関係の煩雑さである。
父のいとこだの、父の姉が父のいとこの最初の奥さんだの、先妻の嫡男だの後妻だの。。。「殺してやる!」って、本をブン投げたくなったけど(笑)、源氏物語が出てくるまではと思って我慢して読んだ。

ここさえクリアしてしまえば(笑)、まあまあ面白いかもしれない。

ラストの一行は、なんとも謎めいている。

しかし残念ながら、源氏物語に題材をとってはいるものの、源氏の名を冠した他の多くの現代小説同様、期待はずれの感が否めない。

皆川 博子
光源氏殺人事件