「今日は帰って!何も、あなたと話すことなんかないんだから!」
「・・・・・・わかりました・・・・・・明日・・・・・また来ます・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
女性は、おもいっきり、玄関のドアを閉めた。
ジェスは、彼女のマンションの青いドアを、しばらくの間、見つめていた。
「・・・・・・・・・まだ・・・・・・・・そこにいるの・・・・・・?」
玄関のドア越しに、女性の瞳が、ジェスの顔を覗いた。
「・・・・・・・・・今日は、帰らないと決めました・・・・リリー少尉のこと・・・・少し話しませんか・・・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・少しだけで・・・・いいんです・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
女性は、何も言わず、手をつかって、部屋に入っていいという合図を、ジェスに示した。
「・・・・・ありがとうございます・・・・・・」
ジェスは、女性に会釈をすると、ゆっくりと、リビングに足を踏み入れた。
「・・・・・・・・リリー少尉は・・・・・・戦死しました・・・・・・・・」
ジェスは、女性の顔を見ることもなく、テーブルの上に置かれた、紅茶のカップを、見続けていた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・それで・・・・・この・・・・・・遺族・軍人年金のことで・・・・・・・」
「・・・・・・・ちょっとまって!・・・・」
「・・・・・・・なんですか・・・・・・?」
女性の大きな声に、ジェスは、少し言葉を待った。
「・・・・・・・何でいきなり、年金の話になるの・・・・・?そんなこと・・・・・直ぐに考えられるわけ・・・・・ないじゃない・・・・・」
女性は、大きなお腹をさすりながら、ジェスに詰め寄った。
「・・・・・・・・ジェス少尉は・・・・・自分が死んだときに・・・・・残されたあなたと2人の赤ん坊のために、遺族年金があなたたちに支払われる手続きをしました・・・・」
「・・・・・・・・・・・まだ・・・・・・籍に入ってない・・・・・・・・・」
「・・・・・事実婚として・・・・・あなたは法律的には、リリー少尉の妻に当たります・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・お子さんも、生まれた時から・・・・・子供の加算がつきます・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・遺書も・・・・・・もってきました・・・・・・・」
ジェスは、ポケットから、彼女あての遺書を、年金の書類の横に置いた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・人間は不老不死ではありません。死を回避したわけでもありません。いつか・・・・必ず・・・・・・誰ひとりの例外もなく・・・・・・死にます・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・きつい言い方かもしれませんが・・・・・あなたがリリーの死を受け入れられないのは・・・・わかります・・・・・が・・・・・いつか・・・・・死を受け入れなければならないんです。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・そのための準備を・・・・・・私は・・・・・・・あなたに・・・・・今・・・・・提案しています・・・・・・赤ん坊とあなたは・・・・・これからも・・・・・生きていかなければいけないのですから・・・・・・」
「・・・・・・・・そのための・・・・・・・年金・・・・・・・・・・」
「・・・・・・そうです・・・・遺書も・・・軍人というのは・・・・戦う前に必ず遺書を書くんです・・・・・・死と共存して生きていますから・・・・・」
「・・・・・・・・・・・すいません・・・・・・・・」
女性は、ジェスに、ゆっくりと頭をさげた。
「・・・・・・・あやまらなくていいです・・・・・僕もちょっと冷たい言い方でした」
「・・・・・・・わたしも・・・・・・・自分のことしか・・・・・考えていませんでした。」
2人は、お互いに頭をさげて、そして、少し笑っていた。
今日も、雲ひとつない、青い空が、マンションの窓の向こうに、広がっていた。
「・・・・・・・大人なんですね・・・・・ジェスさんって・・・・・恋人さんとか・・・いるんですか・・・・?」
「・・・・・・・・・・これから・・・・・・つくるんですよ・・・・・・・」
「・・・・・・・・いらっしゃ・・・・・・・・あっ・・・・・・・・・・」
キャバクラの店のドアを開けて、入ってきた男の顔を見て、アリサは、短く言葉を切った。
見覚えのある顔が、少し痩せて、色黒になって、帰ってきた。
「・・・・・店長・・・・・・・・アリサ嬢開いてる・・・・?いや・・・・・・彼女じゃなきゃだめなんだ・・・・・今日は・・・・・・・」
ジェスの眼に、横にいた店長は、何も言わず、アリサ嬢の開いたテーブルを指差した。
「・・・・・・ありがとう・・・・・・・・・」
ジェスは、まっすぐ、アリサ嬢のテーブルに向かった。
彼女は、真っ赤なドレスに身を包んで、そこに、座っていた。
「・・・・・・・・・ひさしぶり・・・・・・」
アリサは、席についた、ジェスに、水を注いだ。
「・・・・・・・・ああ・・・・・・・ありがとう・・・・・・」
ジェスは、その水を、ゆっくりと、喉に流し込んだ。
「・・・・・・・・リリー少尉は、一緒じゃないの・・・・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・んっ・・・・・?」
「・・・・・・・それは・・・・あとではなすよ・・・・・それよりも・・・・・」
ジェスは、アリサの眼を、じっと見た。
「・・・・・・・・彼氏と・・・・・別れたんだって・・・・・・・?」
「・・・・・どうして・・・・?」
「・・・・・・・・・何でも知ってるよ・・・・・・・君のことなら・・・・・」
「・・・・・・・まあね・・・・・最近別れたの・・・・・・もともと浮気性だったし・・・・」
アリサは、自分の手を、どうとでもなく、弄(いじ)っていた。
「・・・・・・・そうか・・・・・・・・そうか・・・・・・」
ジェスは、白い歯を見せた。
「・・・・・・・・なんか・・・・・うれしそう・・・・・」
「・・・・・・・・そう・・・・?そうみえる・・・・?」
ジェスは、水を、一気に飲み干した。
「・・・・・今日は、何のお酒にする・・・・・・?何か頼もうか・・・・?」
「・・・・・・これ・・・・・・・」
ジェスは、右胸のポケットから、小さな紙をアリサに渡した。
「・・・・・・・えっ・・・・・・」
「・・・・・・俺の携帯番号と・・・・・メールアドレス・・・・・・」
「・・・・・・・えっ・・?」
「・・・・・今度・・・・・・飯でも一緒に行かないか・・・・・?」
「・・・・・・・・・・・そうゆうのって・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・さびしいんだろ・・・・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
アリサは、自分の手を、もじもじさせていた。
「・・・・・・・・・・・・・・あんた・・・・・・・何度目よ・・・・・連絡先渡すの・・・・」
「・・・・・・・・・5回目くらいかな・・・・・・・忘れたけど・・・・」
「・・・・・・・・キャバクラで連絡先渡すの・・・・・禁止なの・・・・知ってるでしょ・・・?」
アリサも、白い歯を見せた。
「・・・・・・・知ってるけど・・・・店長も言ってたぜ・・・・?連邦軍に、恩を売っておくのは、商売として当然だってさ・・・・・」
「・・・・・・・・あんたは別なんだけど・・・・・・どうせ出世できなんでしょ?」
「・・・・・・さあ・・・・・・・どうかな・・・・・・?」
店は、男と女の熱気で、溢れていた。
「・・・・・・・・・・・・・・行こうぜ・・・・・・なっ・・・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・うん・・・・・・わかった・・・・・・」
アリサは、ジェスのその、小さい紙を、細い指で受け取った。
「・・・・・・・ほんと!?」
「・・・・・・・今、うんって言ったでしょ?」
「・・・・・・・いや・・・・・絶対断られるとおもったから・・・・・信じられなくて・・・・やった!!・・・・」
「・・・・・・大きい声出さないの!他の客に迷惑じゃない!」
「・・・・・・・店長!俺やったよ!」
「・・・・・・ちょっと、どこに行くの!」
「お客さん!注文は!?」
ジェスは、スキップをしながら、キャバクラのドアを開いて、夜の街に消えていった。
ジェスの眼に、夜の街のネオンの光は、ダイヤモンドのように光り輝いて見えた。
つまらない日常の世界は、何も、変わってはいない。
変わったのは、ジェスの中の、世界 だった。
「俺は、昔のどうしようもない 自分自身を、超えることができたぞおおおおおおお!!!」
何もない、つまらない日常は、自分の行動で、自分の手で、変えられることを
ジェスは、今、知ったのだった。
小説 一年戦争終結 ~それから~
おしまい。