ガン×ソード

――タキシードは、舞う。
復讐者と少女の、再生と執着の話。

 テーマは決して軽くないのに、実に爽やかな風が心のなかにいつまでも居残る。この作品はそんな稀有な痛快娯楽作品なんですよね。
 序盤から終盤までにかけて、丹念に張られた伏線も、中盤から終盤にかけての怒濤の展開もよくできているの一言です。何一つとして要らない話がないアニメです。
 好きなアニメは限りなく有りますが、序盤から終盤まで心臓が絡めとられるように夢中になって、見たアニメはこの作品で最初で最後かもしれません(腐らない目で見てましたしね)私の一番好きなアニメです。

あらすじは以下。
 結婚前に鍵爪の男に、婚約者エレナを殺されたヴァン(童貞)は、ある日、同じ鍵爪の男に兄を拐われた少女――ウェンディと出会う。ひょんなことで邂逅した二人は、互いに鍵爪の男を追うこととなる。一人は、兄と再会する希望を見つめて。一人は、絶望を見つめながら、復讐を遂げるため。

 まあ、ぶっちゃけてしまうとですね。主人公であるヴァンが「エレナ(婚約者)を殺した鍵爪の男ぶっころおおおす!! エレナアアア!!」って言いながら、その邪魔をする鍵爪の男の組織の人間を片っ端からヨロイ(ロボット)でぶっ殺すロボットアニメです。分かりやすい。

 主人公であるヴァンってお世辞にも美形と言えるタイプではないです。しかも、基本的に自分の復讐が一番で、それ以外のことに頓着のない人間です。もう一人の主人公であるウェンディのことも四話になるまで名前を覚えてませんでした。なんて主人公やねん。

 でも、格好いいんですよね。自分の信念を全く変えずに復讐を遂げようとするところが、その剥き出しの、理性では片付けられない熱情がかっこいいんですよ。

 復讐は悪い、何も生まれない。そういう意見も確かに正論だなーと思うのです。大概の人ってのはやられたことをやり返したいなんて言えず、口を閉ざしてしまう。振り上げた拳を自身の腰に結局ぶら下げざるを得ないわけです。誰かを大事にして、自分の言いたいことを圧し殺す。その器用な生き方がきっと世の中を平穏無事に送っていける秘訣なんだろうなーと。

 理性と常識と平穏で縛られて、器用に渡っていかなきゃいけない世界で人は生きているから、この物語は逆に人の心をいやと言うほど打つのだろうと思います。

 復讐に囚われて、がむしゃらに自分の道を行く男。そんな愚かしいまでの不器用さやひたむきさが、誰かの心のヒーローになる。正論を振りかざして、人々の幸せを祈る誰かよりも、ただ一人を愛するバカな男の生き方の方が強く、格好いい。そう謳うアニメが一つくらい有ってもいいなと思います。

 牙を忘れた、優しい人にこそ見てほしい、笑えて泣けて燃え上がる痛快娯楽アニメです。

★★★★★