近年、児童・生徒の健康に関する問題が多様化・深刻化し、成長期の運動器(※1・) スポーツ傷害(外傷・障害)の問題もその一つです。
小児期の運動器疾患を理解するには、発達段階の心身(特に運動器)の特徴と遭遇する運動器疾患について知ることが必要です。
現代の問題の傾向として、身体の二極化が挙げられます。
子どもの運動器は未発達なのですが過度に運動をさせたり、誤った運動方法でトレーニングなどを実施し「スポーツ傷害」を引き起すケースが報告されています。
一方で基本的な運動能力の低下が指摘されています。
発育段階でこういった運動機能の低下を指摘された子供達は大人になっても運動不足になりやすくなります。
過剰な運動、運動不測は共に、ロコモティブシンドロームへつながりやすいと考えられます。
【子供達に何が起こっているのか】
昭和60年頃をピークとして減少し、現在は危機的状態になっています。
日本臨床整形外科学会は、就学時から小学 5 年生になるまでの間に、運動器疾 患や運動器機能不全を起こす者が急増していると警告しています。
子どもたちの体型が「肥満や「高身長ながらも痩せ型」へと変化している要因には、内的因子(遺伝など)と外的因子(環境、生活習慣や運動習慣など)があります。
外的因子としては、発育発達を無視した運動、同一運動の繰り返しや多様性の少ない運動の実施や不規則な生活習 慣(食生活、睡眠など)、柔軟性、筋力、バランス力の低下や運動時間の減少などが背景として挙げられます。
十分な運動を行わずに学童期に運動器機能不全になると、運動の苦手な子ども になります。そのまま年齢を重ねると大人になっても運動を苦手とし、ロコモ対策の必 要な年齢層に達しても、十分な運動を行えず要介護になるリスクが高まります。
各自治体は2007年あたりから調査、検診を始め対策として体力向上プランなどを導入しています。
その結果、全般的に体力が全国平均を上回るようになり、このことから日頃からの継続的な運動が重要であることは言うまでもなく、幼少期より適切な運動習慣を身につけさせましょうと学会や行政は警鐘しています。
ですが子供達のこういった問題は社会が作ってしまった弊害です。
昨今子供達の忙しさときたら大人並み。学校に塾に習い事。その上運動までもカリキュラムとして組まれては遊ぶ時間がそれこそなくなってしまいます。
子供達が子供同士で外で遊べる時間と環境を作る社会の取り組みも早急に必要ではないかと思います。
最近では子供だけでなくハイハイのできない乳児すらいます。
生活環境が狭いのでハイハイもできないといいます。
学校帰りに石けりをするなど中年世代では皆経験したことですが、交通の発達で子供が外で走り回ったり、帰り道で石けりすらできなくなってしまいました。
この問題の背景(原因)でよく言われるのが外遊び、運動遊びの不足。
「時間・空間・仲間」の「三間の減少」です。
● 時間の減少
放課後は習い事や学習塾に通う子供が多く、自由に遊べる時間が少なくなりました。
また、治安面から夜暗くなるまで子供だけで遊ぶということも今ではなかなかありません。
● 空間の減少
かつての子供たちは、路地裏や空き地などで思う存分遊ぶことができましたが、そういったスペースは少なくなりました。
住宅地の公園ではボール遊びを禁止するなど制約も多く、気軽に体を動かせる空間が減っています。
● 仲間の減少
少子化の影響で、兄弟姉妹や同級生など、一緒に遊ぶ仲間が減っていることも大きな原因です。
また、人間関係も昔に比べ希薄になり、ガキ大将が学年の違う子供たちを引き連れて大勢で遊ぶような光景もほとんど見られなくなりました。
スポーツをしていたら大丈夫???
こうした子供の運動機能障害において、運動不足の子供にリスクが高いというのはわかりやすいと思います。
しかし、スポーツ系の習い事をしている子供たちでも同様の問題を抱えていることがあります。
宮崎県で行われた調査では、一日7時間以上運動している子供にも運動器の動きに問題があるケースが見られました。
一つのスポーツだけを長時間していると、特定の部分の筋肉だけ発達しすぎてしまって柔軟性が失われたり、全身のバランスが悪くなってしまったりすることがあります。
スポーツ界ではよく知られていることですが、大人になって優れたスポーツ選手になっている人たちはバランスの良いスポーツ教育を受けていたか、子供のころ複数のスポーツをしていたという経験があります。多様なバランスのとれたアクティビティが運動能力を高める結果となっています。
幼少期に外で子供同士で遊ぶという行為が重要なのは、運動のバランスが良くなるからです。
時には怪我をするような危険な場所へ行くこともあるでしょうし、毎日同じ遊びはしません。
鬼ごっこ、缶蹴り、木登り、かくれんぼ。
多彩な子供の遊びにはバランスよく運動能力を身につける要素が沢山あるのです。
とはいえ、社会のせいと言って世の中を責めても早急に対策が実行されるわけではありませんので家庭での対策がまずは重要になってくるでしょう。
運動の習慣
では、どのような運動をするのが良いのでしょうか。
●特定の部位や筋肉を酷使しないもの
●全身をバランスよく動かす、さまざまな動作が含まれたもの
●持久力がつくもの
上の項目に気をつけて運動を選択すると良いでしょう。
個人的にはやはりなんとか子供同士で遊べる機会を作ることを忘れてほしくはありません。
運動だけでなく、人との接し方や危険回避能力の習得、また、遊びを工夫するなどすると脳の発育にも良いからです。
どうしてもそう言った環境を作ってあげるのが難しい場合には、サッカーなど良いかもしれません。
集団のスポーツですし、走り回ったり、ボールを追うことで反応する能力や予測することを養えますし、蹴るという動作は以外に色々な能力が必要です。
異変を見つけることが大切
文科省も真剣に乗り出してきたこの問題。
自治体、学校での検査が義務化されつつありますが、せっかく検査がされても家庭と学校の連携がうまくいかないと子供達への早期治療に結びつきません。
行政は運動器検診を効率的に実施したり、障害チェックシートなどを家庭に配布し親御さんがテストを実施し子供の発育を確認することが必要です。
早いうちに発見し、予防につなげるケアが児童の健全な発育に必要な時代に入りました。
以下島根の学校で家庭に配布された問診票サンプル