温泉ビジネスに陰りが見えている。

アンケート調査で行きたい旅行の種類を聞くと7割もの人が温泉旅行と答えるのに、実際に行くのはグルメ旅行。

この拝見には温泉業界への不信感がありました。

渋谷区での温泉施設爆発。

04年の白骨温泉(長野県)で入浴剤を入れてお湯に色を付けていた問題や全国で水道水を温泉と偽るなどの不正が明らかになり、不信が高まりました。

結果、温泉施設への規制強化がされ、不景気も後押し温泉業界が低迷。

 

観光客を集められるため、90年代には市町村などが盛んに温泉を掘りました。

湯量が少ないのにお湯をくみ上げ過ぎるなどの無理な開発で、井戸が枯れてしまったケースは珍しくないといいます。

古い歴史を持つ温泉地でも、温泉施設が増え過ぎて1軒当たりの湯量が減ったり、成分が真水から海水に変わってしまったりしたケースがあったという。それでも経営を続けるには、お湯を施設内で循環させたり、水道水などを混ぜたりする不正が始まりました。

その苦い経験じゃら自治組織が温泉や共有林、文化などを守る取り組みを行なっています。

村も条例をつくり外部資本も含め、事実上新しい井戸を掘れないよう規制して、“守ることが開発”という民意を形成しました。

生まれたままの新鮮な湯は老化を防ぐ作用が強いことが研究でも明らかになっている。

野沢の湯では豊富で、旅館や共同浴場はほぼ全て、お湯を循環させない“源泉かけ流し”。

長時間空気に触れたり、消毒用の塩素を入れたりすると、この作用は失われるため温泉の持つ“力量”に応じて浴槽をつくる取り組みなども始めています。

共同で天然資源を使う場合、自由競争に任せると市場原理がうまく機能しないことがある。例えば複数の漁師が池で漁をする場合、できるだけ利益を上げようと魚を捕る「フリーライダー(ただ乗り)」が発生。個々の漁師にとっては「合理的」な行動だが、結果として資源が枯渇し、みんなが損をする。

温泉は地下の様子が見えないので問題は複座苦になります。

そこに最近さらなる問題が浮上しました。

地熱ビジネスです。

日本の主要な温泉地は火山地域に分布している。地熱発電所は大量の熱エネルギーを必要とするので火山地域の地下1千~3千メートルの深部熱水貯留層の200度前後の熱水を生産井で大量に湧出させて発電している。温泉法は地中から湧出する25度以上の温水を温泉と定義する。すなわち、地下で生じた温水は地下にある時を熱水、地表に出たら温泉と名称を区分している。従って、深部熱水は温泉の源なので、地熱発電所と主要温泉地とは競合関係にある。

 

 しかも、地熱発電所は使用熱量が箱根や草津などの大温泉地の温泉熱量と同等か、さらに数倍も多く、温泉湧出に影響を及ぼすことが予想される。

 

温泉枯渇や水蒸気爆発などがニュージランドやフィリピンの地熱発電所の近くで起きている。日本でも霧島(鹿児島県)の噴気地帯の消滅、黒川(熊本県)や会津西山(福島県)の温泉の減衰や小さな地震が近傍の地熱発電の稼働開始と時期を同じくして起きている。

 

日本の地熱発電所は1966年に岩手県松川で稼働してから97年までに北海道から鹿児島まで全国17カ所で稼働している。

 

 地熱発電所はいずれも稼働開始後、発電能力が経年的に低下している。発電量は97年から2012年の15年間に平均して30%減少し、湧出する熱水と蒸気とともに温度も低下している。

 

 深部熱水貯留層の熱水は数千年から数10万年かけて少しずつ蓄積されている。再生可能エネルギーとは太陽熱や風力のように「消費するより速い速度で再び補給されるような自然から得られるエネルギー」と説明されている。

地熱発電の発電量減少や熱水の温度低下は貯留層の熱水使用量が貯留層への周辺地層からの水量や熱量の補給量を上回り、貯留層の蓄積熱水(化石熱資源ともいう)まで使用していることによる貯留層熱水の減少(枯渇化)と推定される。従って、大量の熱水を必要とする地熱発電は再生可能エネルギーの使用とはいえない。

 

水貯留層の熱水は地表までの上昇過程で一部が蒸気となり、その噴出力(沸騰中のヤカンの蒸気を想像してほしい)でタービンを駆動して発電をしている。地表での割合は蒸気が約30%、熱水が70%。発電後の蒸気は多くが大気中に放出され、失われる。熱水は猛毒のヒ素を環境基準の10~5千倍も含んでいる。フィリピンでは河川への地熱発電の熱水排水で子供ら多数の死亡事故が報告されている。

 

 地熱発電の熱水は河川排水や浴用にもできないので還元井で地下に戻(還元)している。また、噴出で低温化した熱水の地下還元は噴出による貯留層の熱水不足を補うためでもある。

 

 還元熱水にはまだ問題がある。湧出した熱水は温度と圧力の低下によって溶存成分の一部が結晶となり、管や流入する地下の地層のすき間を閉塞させる。そこで地下還元を容易にするために熱水から結晶が出ないように硫酸が添加されている。しかし、硫酸は鉄をも溶かすように硫酸で酸性化した還元水が岩石地層を変質させ、また、地下水の汚染ともなっている。この汚染された低温水は地下環境を変えると共に低温化や近くの浅部温泉層への混入も予想される。

 

 温泉は素裸での入浴や飲んだり、医療にも利用するので、地上に出たものを地下に戻すことを一般的に禁じている。これらのことから温泉地と地下環境も変える地熱発電所との共存は熱水の利用と資源保全の面からも不可能と考えられる。

 

国は地熱発電をさらに3倍から5倍にしようと計画し、2015年度予算で掘削などの調査費に80億円を拠出している。温泉関連の予算はほぼゼロ。

福島復興政策パッケージ

温泉には補助金がないのでこの問題に大きな声が上がらない。

 温泉利用がすでに限界に達しているので、地熱発電を倍にするだけでも各地で温泉枯渇が予想される。それに5倍にしても総電力の1%に過ぎず、大義名分の二酸化炭素削減の寄与率は極めて小さい。それにもかかわらず、全国の温泉地は大打撃を受けるだろう。

 

 日本の温泉の総熱量は石油で換算すると1年間に約500万トン、原油輸入量の約3%に相当する。日本人は地熱資源を古代から温泉としてよく利用している。

 

 地熱発電推進者は日本が世界第3位の地熱大国なのに熱資源量の45分の1しか利用していないとし、地熱発電に力を入れている火山国のフィリピン、インドネシア、アイスランドなどの例を挙げる。しかし、その世界第3位の地熱資源量とは再生可能エネルギーではなく、大部分が貯留されている化石熱資源量だ。また外国では温泉をほとんど利用しないので外国の例は比較にならない。

 

 そして、時々、地熱発電に反対するのは、温泉地域や温泉関係者のエゴだとか非国民との声が聞かれる。その時に思うのは、その方は温泉入浴をしないのだろうかと。例えエゴだとしても、温泉地があり温泉施設があるが故に温泉に入浴できるのだ。日本の総人口とほぼ同じ年間約1億3千万人の宿泊が示しているように、多くの日本人や訪日外国人観光客が楽しみ、女将などによるおもてなしを受け、そして保養の場ともなっている。

 

 温泉はその宿泊施設数が1万3千、温泉利用の公衆浴場数が約8千、土産物店や交通関係、それに宿泊客と日帰り客で年間3億人食分以上の食料の米、魚、肉、野菜などの生産、浴衣や敷布などのクリーニング、庭や建物の施設、旅行や温泉情報会社関連らを加えると100万人に達するであろう雇用と数兆円の広域な地域の産業経済を支えている。そのため電気も利用しているが、温泉好きをエゴとか非国民と言えるであろうか。

 

 温泉は発電に劣らず公益性を有している。無人化もできる地熱発電所が温泉地を危機的状況にしてまでの価値があるとは考えられない。

 

 政府は21世紀の日本を観光立国、そして地方創生を掲げている。日本の温泉の文化と産業は世界でも誇れるものだ。日本の温泉は日本人のみならず訪日外国人観光客にも人気の筆頭で、観光と地方創生の要でもある。温泉の保全と地熱発電の地熱開発には上記のことも検討が不可欠だ。