「コレステロール=悪いもの」。だから、摂らないようにしているという人は多いのではないだろうか。しかし、この認識は大きな誤りだという。管理栄養士の大柳珠美氏に、コレステロールについての誤解を解説してもらった。

1.コレステロールは人間にとって必須の物質

生活習慣病の元凶と思われているコレステロール。実は、人間のからだを維持するために必要不可欠であるという。生命現象の根幹をなす細胞膜は、コレステロールが原料。女性ホルモンや骨粗しょう症との関連で話題のビタミンDの前駆物質(前の段階の物質)の材料もコレステロールだ。このため、女性が閉経後にコレステロールの数値が上がるのは生理的な現象といえる。そのほか、複雑な細胞膜の形状維持と情報伝達のスピードなど、コレステロールは脳にとっても欠かすことができない。コレステロールが人間の健康維持に大きな役割を果たしていることを、まずは認識する必要がある。

2.卵や魚卵を控えることは無意味

からだの中のコレステロールは、80%前後が主に肝臓でつくられている。生命維持に必須のコレステロールは肝臓で必要に応じて生産量が調整されており、卵を1、2個食べても食べなくても関係ないとも言える。たこやいか、いくらやたらこなどの魚卵、煮干しなどは、コレステロールを多く含むため敬遠されがちだ。しかし、たこやいかはコレステロールが原因となる胆石症を予防するほか、糖尿病を予防・改善するはたらきのあるタウリンというアミノ酸の一種をたくさん含んでいるし、魚卵や煮干しには細胞の新陳代謝を活発にして老化を防ぐ核酸が豊富。食材から摂ってもからだに影響の少ないコレステロールを控えるということは、多くの大切な栄養素を控えることになってしまう。家族性高コレステロール血症以外では、むやみな食事制限はたんぱく質不足を引き起こしかねないので注意したい。

3.LDLコレステロールは悪玉ではない

一般的に、LDLコレステロールは悪玉、HDLコレステロールは善玉、といわれるためか、悪玉は悪く善玉はよいコレステロールといった誤解が少なくないが、生命現象の根幹をなすコレステロールにはそもそも悪も善もなく、どちらも不可欠なものである。LDLコレステロールには、体内でつくられたコレステロールを組織に運ぶ重要なはたらきがあり、HDLコレステロールには、体内であまったコレステロールを回収して肝臓に運び、再利用する重要なはたらきがある。問題なのは、真の悪玉である酸化LDLコレステロールだ。酸化LDLコレステロールは血管壁に付着し、動脈硬化を引き起こすことがわかってきた。悪玉コレステロールとは、LDLコレステロールではなく、酸化LDLコレステロールであることを知っておきたい。

4.LDLコレステロールを真の悪玉にしないコツ

HDLコレステロールが低く、中性脂肪が高いと真の悪玉である酸化LDLコレステロールが増えてくるといわれている。中性脂肪とは脂っこい料理だけではなく、ご飯やパン、麺などの糖質を摂ることでも増加するので、主食を抜いたり、少なくしたりして調整したい。一方、卵や魚介類、肉類には、たんぱく質やビタミン、ミネラルが豊富なので、刺身、焼きもの、少量の油でのソテーなど、油を控えるように工夫して取り入れよう。食パンや菓子パン、焼き菓子などに使われることの多いマーガリンやショートニング、ファストフードや出来合いの総菜などの揚げ油もできるだけ控えたいもの。食事の総エネルギーを減らし、ウォーキングなどの軽い運動を継続的に行っていくと効果的だ。

5.低コレステロール血症の方が危険!?

高いとよくないと考えられてきたコレステロールだが、最近では、むしろ低コレステロールの方がリスクが高いという研究結果が発表されるようになってきた。そのひとつが「日本人はLDLコレステロールと中性脂肪の高い方が長生きする」というもの(※1)。「コレステロールの値が低い人は、うつの症状を発現するケースが実に多い」。「高コレステロール血症と診断された人のなかで、投薬によるコレステロール低下治療を受けた人と受けなかった人を比較したデータでは、投薬治療を受けていた人において自殺や事故死が多いという報告も少なくない」(※2)という指摘もある。低コレステロール血症では死亡率がやや高くなるともいわれている。動物性食品をあまり摂らない人、たんぱく質の摂取が少ない人は、コレステロールの不足に注意してほしい。