三十キロ圏内に九十六万人と、国内最多の周辺人口を抱える日本原子力発電東海第二原発(茨城県東海村)。茨城県は今月、住民の避難計画を決めるが、五十二万人もの県外避難者の行き先は決まっていない。高齢者らの避難に必要なバスも足りない。計画ができたとしても、実効性には大きな疑問が残る。 (林容史)

◆不完全

 「極めて不完全」「これでオーケーとは言えない」。二月中旬、市民団体との意見交換の場で、茨城県防災・危機管理局の田中豊明局長は、県の避難計画を自らこう評した。

 県は専門家の意見を参考に計画づくりを進め、当初は二〇一三年度中にまとめる予定だったが、あまりの課題の多さに難航を重ねてきた。

 計画案では、九十六万人のうち四十四万人は県内の三十市町村の公共施設などに収容し、五十二万人は福島、栃木、群馬、埼玉、千葉の近隣五県に避難することになっている。だが、他県との協議は始まったばかりで、受け入れ態勢が整うどころか、相手の意向もまだ分からない状態だ。

 県庁がある水戸市も一五年度中の策定を目指すが、行き先が未定の県外避難者は人口のほぼ半数の十三万人。市危機管理室の小林良導室長は「市民に聞かれ、『まだ決まっていない』では理解してもらえない」と、県に早急な対応を求める。小林室長は「福島の原発事故を目の当たりにした市民はよーいドンで逃げるだろう。こちらが決めたとおりにやるのは不可能」と、避難計画の限界も認めている。

◆想定不足

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 専門家からは、避難先に予定している施設も被災することや、主要な避難ルートとされている高速道路が通行止めになること、さらには原発事故と自然災害が同時に発生することなどが十分に想定されていないと何度も指摘された。

 住民が放射性物質で汚染されたかどうかを調べるスクリーニングの手順や、甲状腺に放射性ヨウ素がたまるのを防ぐ安定ヨウ素剤の配布方法なども示せていない状況だ。

 県庁そのものが原発から二十キロの位置にあり、事故時には県の災害対策本部そのものの移転が迫られそうだが、まだ移転先も決まっていない。

 病人や高齢者など社会的弱者の避難も困難を極めそうだ。県は昨年、三十キロ圏の病院や社会福祉施設に対し、要配慮者の避難方法などを調査。回答した三百七施設のうち、避難先を確保していたのは一割にも満たないわずか二十六施設だった。全員避難には、新たに五十人乗りバス三百七十九台、福祉車両千九百五十五台、救急車千八百九台が必要と試算したが、これほどの数の車両を手配することは極めて難しい。在宅の要配慮者の把握と避難も課題として浮上している。

◆危惧

 避難計画にはこれほど問題点が多いのに、県が計画を決めようとすることに、住民からは危惧する声も出ている。避難計画の策定は原発再稼働の一つの条件となっていて、再稼働への動きが進んでしまいかねないからだ。

 県は計画を継続的に見直すと強調し、立地する東海村の山田修村長は「避難計画の策定と再稼働は、まったく別だ」という。再稼働しなくても、原発内に核燃料がある限り、重大事故が起きる可能性はあり、住民を安全に避難させる計画を練っておく必要はある。

 計画がきちんと機能するには、住民が理解し、信頼することも欠かせない。