長崎は九日、被爆から六十九年の原爆の日を迎えた。長崎市の平和公園で営まれた原爆犠牲者慰霊平和祈念式典で、被爆者代表の城台(じょうだい)美弥子さん(75)は、集団的自衛権の行使を容認した閣議決定を「憲法を踏みにじる暴挙」と批判した。用意した原稿にはなかった表現で、「出席した政治家たちを見て、黙っていられなかった」と振り返った。安倍晋三首相は式典後、被爆者団体との面談で閣議決定の撤回を求められたが、「国民の命と幸せな暮らしを守り抜く責任がある」とかわした。広島に続いて長崎でも、被災地の思いに応えることはなかった。

 「今、進められている集団的自衛権の行使容認は、日本国憲法を踏みにじる暴挙です」

 田上富久(たうえとみひさ)市長の平和宣言に続き、「平和への誓い」を読み上げる城台さんの表情は厳しかった。

 「日本国憲法を踏みにじる暴挙」のくだりは、事前に書いた原稿では「武力で国民の平和を作ると言っていませんか」となっていた。差し替えは、読み上げる直前に決意した。待機席で登壇を待っている時、来賓席に座る安倍晋三首相ら政治家たちの姿が目に入ったのがきっかけだった。

 「憲法をないがしろにする政治家たちを見て、怒りがこみあげました」。式典後、やむにやまれぬ思いをぶつけた理由を打ち明けた。

 一九四七年五月の憲法施行直後に発行された「あたらしい憲法のはなし」という教科書がある。城台さんは子どもの頃に読んで感動した。「憲法の素晴らしさが理解できた」。憲法を守りたい気持ちは強い。

 六歳の時に爆心地から二・四キロ南東へ離れた自宅で被爆した。山が爆風と熱線を遮り、奇跡的に無傷で、家族も全員助かった。だが、同級生や友人たちは成人後にがんや心臓、脳疾患などで次々と命を落とした。

 平和祈念式典に向け、遺族会メンバーから「平和への誓い」を読んでほしいと頼まれたのは昨年十二月。被爆者の中で比較的若い自分の責務と引き受け、原稿を書き進めた。

 そして迎えた本番。「暴挙」の部分に続いて、「日本が戦争できるようになり、武力で守ろうと言うのですか」と問いかけた。これも、原稿にはないアドリブだった。

 式典後の城台さんは、穏やかさを取り戻していた。「政治家の皆さんに、今日のことを少しでも覚えていてほしいという気持ちもあります」と振り返った。 (小松田健一)

◆「平和への誓い」抜粋

 今、進められている集団的自衛権の行使容認は、日本国憲法を踏みにじる暴挙です。日本が戦争できるようになり、武力で守ろうと言うのですか。武器製造、武器輸出は戦争への道です。いったん戦争が始まると、戦争は戦争を呼びます。歴史が証明しているではないですか。日本の未来を担う若者や子どもたちを脅かさないでください。