インターネット上の個人情報の削除を求める「忘れられる権利」をめぐり、欧州で画期的な判決が出た。
 欧州連合(EU)司法裁判所は13日、ユーザーの個人情報が含まれたリンクをインターネットの検索結果から削除するよう要請があった場合、グーグルやその他検索エンジンにはそれを実行する責任があるとの判断を示した。

 今回の裁判はスペイン人の男性が、グーグルの検索結果が自身のプライバシー権を侵害していると訴えたもの。98年に男性の所有不動産が競売にかけられたことが新聞で報じられたが、今でも男性の名前をグーグルで検索すると当該記事へのリンクがトップに現れるためだ。

 裁判官は次のように述べた。「もし個人の名前で検索し、検索結果が当該個人の情報を含んだウェブページへのリンクを表示したら、そのデータ主体が検索企業に連絡し、企業側が彼の要求に応じなかった場合は所轄官庁に相談し、一定の条件の下で検索結果からリンクを削除してもらうことができる」
 今回の判決で影響を受けるのは、グーグルなどの検索エンジンの検索結果のみだが、EUがどれほど積極的に忘れられる権利を守ろうとしているかも表している。忘れられる権利には、多くの異論もある。EUの熱心さを考えると忘れられる権利を拡大解釈して、政府の気に入らな個人の意見まで削除してしまいかねない。

「忘れられること」を強制する難しさ

 もう一つ大きな問題がある。ネットに一度掲載されたコンテンツを完全に削除するのはほぼ不可能ということだ。世界中のネット利用者が、法的命令の下で削除が実行される前に、インターネット情報のアクセス自由な記録をつくることができる。

 実際、人々が誤った安心感を持つ可能性もある。もしグーグルやBing(ビング)から何かを削除したら、ほとんどの人はそれを見られなくなるだろう。しかしまだネット上には存在し、関心のある人なら発見できるかもしれない。

 人々はやがて、忘れられる権利の次の段階に進みたがるだろう。コンテンツ削除の要求だ。

 欧州ネットワーク情報セキュリティー庁(ENISA)の12年の報告書は、忘れられる権利を厳格に施行した場合の問題点を指摘している。報告書が発表されると、国家安全保障局(NSA)の元顧問スチュアート・ベーカーはこう書いた。「ENISAは問う。カップルの写真について、一方の人物が忘れてほしいと思い、もう一方はそう思わなかったら、政府は『忘れられること』をどう強制するのか? それに、誰がデータを見たり、保存したのかが分からないのに、どうやってデータを見つけ出し、「忘れられる」ようにできるのか?」

イメージコントロールに悪用される?

 EU司法裁判所の判決はそこまで極端ではないが、いつか問題になりそうなことは明らかだ。今回浮き彫りになったのは、「プライバシー保護」と「自由なインターネット/言論の自由」の間の葛藤だ。例えばもしあなたがニュースで報じられた事件の被害者だったら、いつまでもその事件と関連付けられたり、何年も後に事件のことを思い出させられるのは嫌だろう。これが、自分の名前の検索結果についてある程度の権限を持つことの、説得力のある理由だ。

 一方で、この法的手段が悪用される可能性もある。自分の評判を下げる嫌な記事が掲載された後で、イメージをコントロールをするためプライバシー権を侵害していると主張して検索結果を削除させようとする政治家もいるだろう。その時、それを認めるか否かの「一定の条件」をどう決めるのか。

 グーグルの広報担当アル・バーニーは、ウォールストリート・ジャーナル紙の取材にこう答えている。「検索エンジンとオンラインメディアの発行元にとって残念な判決だ」。