安全に関わる大事な情報が隠される、集会での質問が処罰対象に、プライバシーが侵害される…。特定秘密保護法が施行されると市民生活にどんな影響があるのか。国会審議を踏まえ、日弁連秘密保全法制対策本部事務局長の清水勉弁護士の助言を受けて考えてみた。

▼核燃料輸送

 森雅子内閣府特命担当相は「テロ防止のため警察が実施する原発の警備計画は秘密指定される」と明言。原発から運び出す使用済み核燃料の搬送ルートが秘密になる可能性がある。

 【ケースA】使用済み核燃料を積んだトラックが走行中、車十台が絡む玉突き事故に巻き込まれた。トラックを含む数台が横転し死傷者も発生。テレビは生中継で事故を報じたが、使用済み核燃料については触れなかった。警察が積載物を明らかにしなかったためだ。

 事故現場には警察官や消防署員だけでなく、電力会社社員や防護服姿の自衛官も。「何かが爆発するのか」「危険物があるのか」。詰め寄る周辺住民に、警察は「理由は言えないが、すぐに避難してください」と答えるだけだった。

▼元官僚の告白

 同法では秘密を漏らした公務員らに加え、知ろうとした市民も処罰対象になる。森担当相は「秘密を『取得するかもしれない』と認識しつつ、不正アクセスを行う場合には不正取得罪になる場合がある」と答弁した。

 【ケースB】市民団体Xは「元防衛官僚の告白」と題した集会を開催。元官僚は在職時、内容を詳しく吟味せず、多くの情報を特定秘密に指定していたと明かした。具体的な秘密の内容は語らなかったが、参加者の女性に「どんな情報を指定したのか」と何度も尋ねられ、具体例を挙げた。

 捜査当局は数日後、漏えい容疑で元官僚を逮捕。漏えいの共謀、教唆の疑いでXの代表と質問者の女性も逮捕した。

 起訴されても具体的な秘密は公表されず、女性の起訴状には「防衛分野の特定秘密に指定される●●●を取得する目的で、元防衛官僚の漏えいを教唆した」と記された。公判でも、検察側は秘密の内容を明らかにせず、秘密指定の手続きや理由などを説明する「外形立証」で臨んだ。

▼適性評価

 秘密を扱えるかどうかを判断する「適性評価」では公務員だけでなく、秘密に関わる市民も調べる。犯罪歴や酒癖、精神的疾患、借金などの状況…。政府は「信用調査機関や病院にも情報を照会する場合がある。(照会を受けたら)回答する義務がある」と言う。

 【ケースC】精密なねじをつくる町工場社長のYさんは、自衛隊航空機の製造に関わることになった。かつて経営が苦しかったときには、精神的に落ち込んで「うつ病かも」と近所の医者の診察を受けたこともあった。

 この医者に「政府の調査と言って、Yさんのことを聞きに来た。すまないけど、あのときのことを話したよ」と明かされ驚くと同時に背筋が寒くなった。

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 清水弁護士は「国民にとって切実な情報が隠され、関心を持って当然の内容にアクセスするのもはばかられる。個人情報も強引に集められる。国民のさまざまな権利が著しく制限され、抑圧された社会になってしまうのではないか」と危ぶむ。