あの時代に戻してはいけない。ドラマ「3年B組金八先生」などを手掛けた脚本家の小山内美江子さん(83)は、特定秘密保護法の成立に深い危機感を抱く。思春期を戦時下で過ごした経験から、自由にものが言えず、若者が戦争に駆り出されるような世の中の再来を恐れている。そのために「みんなで声を上げ続けよう」と呼び掛ける。 

 二日、国会近くで開かれた反対集会。参加した小山内さんは「私は何も言えない時代を経験してきた。ものを思うこと、ものを話すことを止められたら人間は人間でなくなってしまう」と訴えた。四日、国会を取り囲んだ「人間の鎖」にも車いすで駆け付けた。

 十五歳で終戦を迎えた。戦時中は動員されて軍需工場で働き、兵器の部品づくりに携わった。「当時は『お嬢ちゃん、何をつくってるの?』と周囲に聞かれても、答えてはいけなかった。答えたら罪になる世の中だった。私は何の兵器を造っているかも知らなかったけど」と振り返る。

 だからこそ秘密保護法の怖さが分かる。「戦争に向かっていることが分かるような大切な情報でも、秘密にされてしまう。こんな法律ができる世の中になるとは思わなかった」と嘆く。

 「3年B組金八先生」には、海の向こうでは戦争で傷ついている子どもたちがいる、と先生が生徒たちに語り掛けるシーンがある。小山内さんは「戦争を知らない若者たちに、そういう世界もあるんだと伝えたかった」。軍需工場で働いていた自分が「戦争に関わってしまったのではないか」との苦い思いもあるからだ。

 ヨルダンなどで難民支援をした際、現地の若者から「日本に、戦争をしないと宣言する憲法があるのは素晴らしい」と言われた。「海外には表現の自由がない国もある。今回のような法律ができるのは、日本人が今の憲法のありがたみを分かっていないからじゃないか」と疑問が湧いてくる。

 法律は成立した。だが、小山内さんは力を込める。「全てが決まったから駄目だと思ったら私たちの負け。これからも戦争に向かう流れに抗して、声を上げていくしかない。『それは違う』と言い続けなければ」

東京新聞