特定秘密保護法案が衆院で審議中だ。やりとりを通じて法の詳細が次第に明らかになってきた。この中で、森雅子内閣府特命担当相(参院本県選挙区)が「テロ防止のために警察が実施する原発警備計画は指定される」との認識を示した。警備計画に関わる事項は範囲が広い。解釈次第で拡大しないか。多くの情報が「秘密」として隠される懸念を拭い切れない。東京電力福島第一原発事故以降、一層の情報開示を求める県民の要望に逆行する。 
 法案は、政府が防衛や外交などの分野で「漏えいすると安全保障に著しく支障を与える恐れがある」情報を「特定秘密」に指定し、公務員の漏えいには最高10年の懲役刑を科す-としている。特定秘密は、テロ防止や特定有害活動の防止にも及ぶ。指定は行政機関の長が担い、半永久的な「封印」さえ可能となる。 
 原発施設には核物質が大量に存在する。テロなどの標的になりかねない「危険な場所」であるのは疑いなく、厳重な警戒態勢が以前から敷かれている。「治外法権」的な状態を指摘する声さえあるほどだ。だからこそ問題点を含めた状況が示されなければ、住民は安心して暮らせない。 
 県議会は先月9日、法案に対し「慎重な対応を求める」とする首相、衆参両院議長宛ての意見書を全会一致で可決した。原発の安全性に関わる問題や住民の安全に関する情報が「特定秘密」に指定される可能性がある-との懸念からだ。意見書は「重要なのは徹底した情報公開を推進すること」と強調している。 
 原発事故では、緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)の試算結果がすぐ公表されず、県民が無用の被ばくをした経験を持つ。森担当相は「SPEEDIの情報は対象外」とした。ただ、こうした情報が必要になるのは重大事故が起きた際だろう。緊急時に隠すこと自体が問題だ。 
 特定原子力施設となった福島第一原発をはじめ、各地にある原発の施設・設備の配置や作業員の出入り、仕事の内容などは警備上、重要な項目になろう。同時に、原発の様子を知る基本でもある。法案は、特定秘密の漏えいや取得を働き掛ける行為も処罰対象とする。報道機関の取材はもちろん、原発への賛成、反対を問わず市民が実態や運用を探ろうとしたりすれば、法に触れる可能性も出よう。 
 原発事故の完全収束までには時間がかかり、紆余[うよ]曲折が予想される。トラブルや事故が闇に葬られる事態を招いてはならない。(鈴木 久)