マーク・ギャリソン from NewsWeek

「最近飲んだビールの中で最悪だったのは、ブルックリン・ブルワリーのペナントエール55だ」。

 そんなことを言ったら、友人は仰天するだろう。私は10年近くこの醸造所の近所に住み、ペナントエールをこよなく愛する地ビールの大ファンなのだ。

 しかし、確かに最近飲んだペナントエールにはいつもの魅力がなかった。感じられるのは炭酸の泡だけ。一口すすって、がっくりきた。

 おいしいビールがなぜこんなひどいありさまに? 古かったのか、つぎ方が悪かったのか? グラスが汚れていたのか?

 いや、冷え過ぎていたのだ。

「あら」をごまかすための戦略

 ビールの品ぞろえはなかなかの店だったのに、キンキンに冷やしたペナントエールを霜付きジョッキで出してきた。店側は善意でやったのだろうが、地ビールをそんな状態で飲むのは無意味だし、罰当たりですらある。

 常温のグラスに変えてもらい、待つことしばし。やがてビールは冷えに打ち勝った。だがこの店で地ビールに初めて挑戦した客だったら、なぜ高い金を払ってまずいビールを飲むのかと首をかしげただろう。

 適温が4度以下というビールで、飲む価値のある物はない。ダブルインディア・ペールエールやビタービールなど苦みの強いタイプは、12~13度が最もうまい。なのに地ビールが売りのバーでさえ、氷のように冷やして出していることがほとんどだ。

 なぜこんな習慣ができたのか。上質な地ビールは冷やし過ぎると風味が飛んでしまうが、味気ない大量生産品は冷やすことで「あら」がごまかせる。だからバドワイザーやミラーの広告は、霜付きジョッキや雪山、ビキニ姿の美女だらけなのだ。

 飲料コンサルタントのスー・ラングスタッフが、私が飲んだペナントエールがまずかった理由を説明してくれた。低温では香りの主成分が揮発しない、つまりフルーティーだったりフローラルだったりという、作り手が意図した独特な香りが封じ込められてしまうのだという。

 一方で、冷やせば炭酸の刺激が強まるから、味の薄い大量生産品には好都合。大手は自社製品の風味のなさを自覚しているからこそ、冷たさを強調して売っているのだ。

霜付きジョッキよりワイングラスで

 ワインや蒸留酒の世界では、物によって適温が異なることは常識だ。高級ブランデーをオン・ザ・ロックで注文する客を見たら新米バーテンダーだって、金をドブに捨てていると思うだろう。だがビールに関しては、そうした知識が広まらない。

 一部のメーカーは、ビールはとことん冷やすものという先入観を変えようとしている。彼らは、ピルスナーに代表されるライトなタイプは4~7度、やや濃厚なアンバーやボックビールは少し温度を上げ、インペリアルスタウトなどのヘビー級は10~13度で飲むことを勧めている。