2016年新譜CDTop10プラス | 自然と音楽の森

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洋楽の楽しさ、素晴らしさを綴ってゆきます。

20161231CD


 大晦日。
 その年に良かった新譜CDをまとめて紹介する記事です。
 洋楽中心ですがクラシックの新譜もあります。

 長いので早速。



【特別枠】 哀悼


 2016年はこんな年でしたという記録と記憶の意味も込め、もちろん哀悼の意を表するために、今年亡くなられた3人のCDから先に話します。


 ★1人目 デヴィッド・ボウイ

 ★(BLACK STAR)
 David Bowie
 (2016)

 デヴィッド・ボウイの死の知らせは、僕のリアルタイムでは、フレディ・マーキュリーと同じ、いやそれ以上の衝撃でした。
 フレディの場合は病気であることを公表して割と早くに亡くなったというショックでしたが、でも事前に知ってはいたから、あまりの早さに驚いたという部分が大きかったような気が。対してボウイは新作を1週間前に出したばかり、病気のことはまったく知らなかっただけに、衝撃は大き過ぎた。
 後からネットや本で見ると、ボウイは自分の死を悟った上で、この録音に臨んでいたようですね。
 ボウイは最期までボウイらしく演出していたという。
 それは決して悪い意味ではなく、そういう不世出の人だったと。

 ところでこのアルバム、実は昨日10か月ぶりに聴きました。
 ボウイが命を懸けてまで作ったアルバムに対して、僕はだんだんと身構えてしまい、軽々しく聴いていいものなのかと自問自答した挙句、自信がなくなり聴かなくなったのでした。
 10か月ぶりに聴いて、素晴らしい。
 もうそのように身構えるのはやめ、もう少し気軽に、は無理でも聴く機会を増やしてゆく方がボウイも喜んでくれるのではないか。
 昨日、ようやくそう思うに至った、ということを白状しておきます。




 ★2人目 プリンス

 HITNRUN PHASE TWO
 Prince
 (2016)

 プリンスの死は、衝撃というよりも、なぜ、どうしてという納得できないという思いが強かった、今でも。
 ボウイの場合は遺作があのような内容だっただけに、亡くなったことが実感できるのですが、
 プリンスは正直いまだに死んだことが信じられない。
 Warnerに復帰してからのプリンスは期待通りの作品を聴かせてくれていましたが、今年も、亡くなってから出ました。
 これがまたポップもポップでとっても聴きやすい1枚。
 この明るさ、まあ当然といえば当然ですがボウイとは正反対、死などまるで予感させないとにかく楽しいアルバム。
 それだけ余計に死が悲しくなり、信じられなくもなりました。
 プリンスはアルバム何百枚分の録音ストックがあるそうですが、でも、今年のアルバムは当然彼自身の意志だとして、それ以降については正面から受け止めて聴こうと思えるか。
 手を加えないのであれば正真正銘プリンスではあるけれど、そうか、プリンスの場合は中途半端なデモ状態ではなく、出来上がったもののストックも多そうだから期待できるかな。
 しかしそのようにリリースが続くと、僕はいったいいつになったらプリンスの死を現実のものとして受け止められるのだろうか。
 受け止めなくてもいいのかもしれないけれど。

 ベストチューンは9曲目Screwdriver
 異様なまでのポップさの中、"I'm your driver, you're my screw"と恥じらうように歌うプリンスに不覚にも胸がきゅんとしてしまった。
 これを聴くと、もうこの世にいないとは信じられないですね。




3人目 ニコラウス・アーノンクール

 BEETHOVEN : SYMPHONY NO.4 & NO.5
 Nikolaus Harnoncout
 Concertus Musicus Wien
 (2016)


 BEETHOVEN : MISSA SOLEMNIS
 Nikolaus Harnoncourt (condt.)
 Concentus Musicus Wien
 (2016)

僕がいちばん好きな指揮者、ニコラウス・アーノンクール。
古楽器演奏での評価を受けて大指揮者になった人ですが、サステインが短く切れがいい古楽器演奏の方法論をモダン楽器にも活用して独特の音を聴かせる人でした。
ただ、その音の響きは審美的或いは耽美的ではなく、カラヤンやバーンスタインといった大指揮者たちの音に慣れた人にはともすれば「汚い」と捉えられかねない音なのです。
実は僕も、アーノンクールのブラームスはロマンが足りなくてもう少し浸れる音で聴きたい、と思います。
しかし一方で、作曲された当時はこのように演奏され、このように聴かれていたであろうことを想像させてくれるという点ではむしろ新鮮な響きでもあります。

今回2枚あるのは、1枚が生前、もう1枚が死後に出たものだから。
どちらもベートーヴェンですが、前者が交響曲、後者がミサ曲。

交響曲第4番と第5番の組み合わせですが、これを買ってライナーノーツには、交響曲全集を予定していたが完結することが出来ず今回の2曲で終わりになる、と書かれていたのを読んで、正直不安になりました。
それがあっての訃報だったので、ああそうだったか、と。
86歳だから天寿をまっとうしたといえるでしょうし、僕としてもそれなりの覚悟があったのでショックは一瞬で収まりましたが、やはり寂しさがじわじわとこみ上げてきました。

交響曲第4番は舞踏会のような雰囲気の明るい曲ですが、

そして出来としては史上最高と言われる交響曲第5番。
その通り、美に流されると聴き逃してしまいがちな構築性、テクスチャーが目に見えるように分かり、説得力という点では僕が今まで聴いた5番では最高でした。

死後に出た「荘厳ミサ曲」は本当の最後の録音。
最後の録音がミサ曲というのは、うん、やっぱり、予感というよりは準備をしていたのかなと思ってしまう。
リリース情報を知った時、やっぱりか、と思いました。
アーノンクールの死は、もちろん残念だしショックだけど、今までほんとうにありがとう、ただこれだけを贈りたいです。
ちなみにこの曲は書籍「ベートーヴェンの交響曲」において指揮者の金聖玉さんが「もっと日本でも注目されていい曲」として紹介されていたということを付記しておきます。



そして通常のTop10に入ります。


☆1位 スティング

57TH & 9TH
Sting
(2016)

アルバム記事はこちらをご覧ください。

もうほんと、スティングがロックに戻ってきた。
このフレーズを何回使ったか分からない。
それだけで嬉しいのです。
もちろんスティングらしい音楽で。
しかも小難しいことをあまり言わなくなってすっきり(笑)。
結局僕はスティングに思い入れが強いんだなあ。

僕が選ぶベストチューンは9曲目Inshallah
祈りは世界に通じるのだろうか。
スティングが戻ってきたことを最も強く印象づけられる曲。
こういう歌を歌って欲しかったのです、はい。
これは小難しい路線の歌といえばそうですが、でも、願いの部分がより素直に表現されるようになったと感じました。



☆2位 ジェフ・ベック

LOUD HAILER
Jeff Beck
(2016)

アルバム記事はこちらをご覧ください。

ジェフ・ベックというとインストゥルメンタル主体のクロスオーバーな音楽を聴かせる人というイメージがありますが、今作はR&Bに根ざした本格的ロックを、不良っぽいイメージで聴かせていることに驚きました。
その実は英国の男女2人組バンド、ボーンズ Bonesをジェフが「乗っ取って」作ったものだという。
経緯は分かりましたが、ジェフより若い人たちがこのような古臭いロックをやるというのも驚きの部分。
おまけにみんな歌としていい曲ばかりでついつい口ずさむ。
正直、作品だけの評価ではスティングより上なのですが、とにかくスティングが嬉しかったので、ジェフさん申し訳ない、2位ということにさせていただきました。

ベストチューンは9曲目The Ballad Of The Jersey Wives
哀愁を帯びた重たいR&B、ほとんどハードロックといっていい、途中で"Bang bang"と弾けるのにはぞくぞくっときますね。




☆3位 マッドクラッチ

2
MUDCRUTCH
(2016)

アルバム記事はこちらをご覧ください。

トム・ペティ、マイク・キャンベル、ベンモント・テンチのトム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズのメンバーが、バンド結成以前に組んでいたマッドクラッチ。
そのメンバーが再集結して「新作」を作ったのが8年前。
今回はその2作目となりますが、まあ大筋トム・ペティの音。
だから僕が気に入らないはずがないですね。
このアルバムを聴いて強く感じるのは、「自分たちが懐かしみながら音楽を作る感覚が強い」、ということ。
トム達本体のようなロック的はったりが強い曲ではなく、趣味の世界を高めた余裕のある演奏と曲を聴かせてくれます。

ところで、マッドクラッチに目をつけてトム・ペティに英才教育を施しバンドとして再デビューさせて大成功に導いた人。
レオン・ラッセルも今年亡くなりましたね。
レオンの作品は紹介しなかった代わりにここでR.I.P.

ベストチューンは2曲目Dreams Of Flying
トムらしい憂いを帯びたマイナー調のアップテンポの曲。
しみてきますよ。




☆4位 レディ・ガガ

JOANNE
Lady GaGa
(2016)

 レディ・ガガの新作は今まで一度もここで触れてきていないので、いきなり4位というのはいささか驚かれるかもしれない。
 そう、僕自身、洋楽で今年一番の驚きがレディ・ガガの新作でした。
 このアルバムは素晴らしい、そしてすごい!
 僕には(というかガガ様を聴いたことがない多くの人はおそらく)ダンサブルな今風の曲というイメージがあっただけに、70年代ロックのざらっとした感覚があるのがまず意外。
 よく聴くとリズムは今風なんだけど、うん、そう感じる。
 しかしでは、70年代にこんなような人がいただろうかと考えると、いないんです、似たような人、女性歌手は思い浮ばないし、ガガ様が誰それの真似をしているとも思えない。
 と一度結論が出そうになったところでふと気が付いた。
 ジョニ・ミッチェルだ。
 僕はジョニ・ミッチェルは数年前に真面目に聴き始めて70年代のは愛聴盤は数枚あるけれど他は一応抑えているというくらいで偉そうなことはいえないのですが、音楽としての「音のざらつき感」がジョニ・ミッチェルに近い。
 簡単にいえばジョニ・ミッチェルの音をハードにした感じ。
 そう考えると僕の頭の中ではつながりました。
 でもガガ様は1986年生まれだから、70年代ロックはリアルタイムで経験していないどころかまだ生まれていない。
 もちろん幼少時代にレコード、いや彼女ならCDだろうな、CDで聴いた経験は彼女の中で積み重なってはいるとは思うけれど、でも決して彼女のリアルタイムではない。
 でも一方で、CDの時代になり70年代ロックが見直されるようになったのは僕の経験としても言えることえすが、ガガ様は見直される過程をリアルタイムで経験していた、とは言えますね。
 音楽をやる上で1970年代には尊敬のまなざしを向ける。
 そこに行き着いたと考えるとこの音は納得できます。
 (もしかして、ジョニにエールを送っているのかもしれない)。

 このアルバムのもうひとつの驚きが彼女の「神々しさ」。
 オーラがある、当たり前だあれだけの人だから、でもそれ以上に、ガガ様の歌う姿や歌声には「神々しさ」がある。
 しかもそれが嫌みではなく納得させられてしまう。
 やっぱりこういう人だったかと肯定的に見直すことになる。
 トニー・ベネットとの共演などでガガ様がほんとうに歌が上手いのは分かっていますが、その上でそこを推し進めたのが今回の歌声。
 1曲目 からもうその声にぞくぞくっときてしまう。
 シングルにもなったPerfect Illusionはダンサブルなビートに何かが降りてきて憑りついたかのような恐ろしさすら感じる。
 そう、黒魔術の宴のような怪しい雰囲気、それこそ70年代的な。
 ソフトな曲もあるけれどそれもソフトな中に芯が通っている。
 すごい人だ、と、僕はようやく思うようになりました。
 このアルバムはほんとうに好きです。
 衝撃を受けた、見方が変わったという点で、元々大好きなノラ・ジョーンズより上に持ってきました。
 もしかして後日もう一度記事にして全曲の話をするかも、というくらいに気に入っています。

 ベストチューンは11曲目Angel Down
 まさに神々しさが降臨してきたスケールの大きな曲。
 そして感情の琴線に触れまくる歌メロ、歌い方。




☆5位 ヴァン・モリソン

 KEEP ME SINGING
 Van Morrison
 (2016)
 
 アルバム記事はこちらをご覧ください。

 あれだけヴァン・モリソンヴァン・モリソンと言い回っているのに5位というのは低いじゃないか、と思われることでしょう。
 まあこれを1位にするとデキレースになってしまうというのはあるのですが、他にひとつ明確な理由があります。
 上位4枚はすべて「いい方に期待を裏切ってくれた」アルバム。
 スティングはずっとロックではない作品で交わされ続けていて、どうせ今回もと思いかけたところでロックに戻ったとの情報が。
 ジェフ・ベックもしっかりとしたR&Bルーツの歌物のロックを聴かせてくれたというのは予想外だった。
 マッドクラッチは出ること自体予想していなかった。
 レディ・ガガは上に詳しく書いた通り。
 それに対してヴァン・モリソンは「安定の1枚」。
 きっとこんな音を聴かせてくれるだろうと事前に予想した、ほぼその通りの音を高いクオリティで聴かせてくれた。
 だから作品に対しては不満も何もない、大満足。
 ただ、ロック音楽という枠で見るとやはり予想外の出来事があるというのは見逃せない要素でもあるのです。

 ベストチューンは表題曲Keep Me Singing
 和やかなようで気持ちが盛り上がっている。
 派手ではないけれど強く印象に残る。
 これがヴァン・モリソンの味ですよ。




【2017年1月2日 追加補足】

☆6位タイ ボニー・レイット

DIG IN DEEP
Bonnie Raitt
(2016)

2016年大晦日の時点で大切な1枚を忘れていました!
ボニー・レイットの新譜、これが素晴らしかった。
正直この前作SLIPSTREAMが期待値より下そこそこだったので、あまり多くを望まずに聴いたところ、よかった。
これを忘れるなんて、新年早々大いに反省です。
このアルバムはポップで軽やかで心地よい響きの中にもスワンプ感覚が息づいている。
幾つになっても(失礼!)キュートなボニーの声にお得意のブルージーなギターを突き刺してゆく。
良い意味で昔から変わらない彼女の音楽ですが、タイトルにあるように軽やかな響きというだけでは表せない深み、ちょっとしたかげりのようなものが絶妙にまぶされている。

ベストチューンは変化球ですが2曲目Need You Tonight
インエクセスのカヴァーですが、この曲がスワンプになるなんて、リアルタイムで経験した者には夢のようです。




☆6位 ノラ・ジョーンズ

 THE DAY BREAKS
 Norah Jones
 (2016)

 前作ではポップな音で遊んだ(溺れた?)ノラ・ジョーンズ。
 今回はジャズっぽい音楽に帰ってきたというのが売り。
 その通りですね。
 ある意味1作目3作目よりジャズっぽいかも。
 (2作目はカントリーっぽさが少し強かった)。
 1曲目からけだるいアンニュイさ満開で攻めてきますが、ジャズっぽい中にもポップな歌メロのセンスがきらりと光る。
 だからスタンダードを歌ったような古臭さ(いい意味)ではなく、あくまでも今の時代を生きる人の歌声として響いてくる。
 かなりいいと思います。
 これは独立した記事を上げるつもりなので今回は短く終わります。

 ベストチューンは3曲目Flipside
 ベースに引っ張られたアップテンポのマイナー調の曲。
 悲壮感があるようで突き放しているようで男女の仲の複雑さが想像される曲。




☆7位 ボブ・ディラン

 FALLEN ANGELS
 Bob Dylan
 (2016)

 ボブ・ディランのスタンダード路線第2弾。
 今のディランの気持ちがどこに向いているかが分かりますが、これを聴いて僕はこう思いました。
 「ディランさん、もう好きにして、こっちはついていくだけ!」
 ディランは基本的に今歌いたい歌を歌いたい風に歌うだけ。
 実はそれは昔からまったく変わっていない。
 歌う対象としての曲のえり好みが時代により違うだけ。
 それがオリジナルかスタンダードかも関係ない。
 四捨五入してついに80の男がいまだに気持ちを失っていない。
 もうそれだけで素晴らしいのではないですかね。
 弟が行った東京公演では「枯葉」も歌ったそうですが、こうなったら次は何を歌ってくれるか楽しみでしょうがないですね。
 今作はハワイアンっぽいアレンジの曲が多いのがポイントですが、クリスマスアルバムにもあった、ディランは密かに好きなんですね。

 ベストチューンは5曲目Skylark。
 「ひばり」、ですね、ディランの歌い方はほのぼのとしていい。

 ところで今年はボブ・ディランがノーベル文学賞を授与され、授賞式に出席するかどうか、一般の人まで巻き込んで話題になりましたね。
 僕はそれ関係の記事の書き込みを興味深く読んでいましたが、やはりというか少なくとも日本においては、ボブ・ディランは「風に吹かれて」のイメージが強烈であり、それしかない、ということが見えてきました。
 ディランを批判する人の話が特に面白かったですね。
 僕は一応ファンですが、ディランのことはよくは知らない。
 本を著している萩原健太さんもディランという人は分からないという。
 でも少なくとも僕は、何も知らないでイメージだけで批判をする人よりはディランという人を知っているつもりではあります。
 どんなことを知っているかというと、分からない人である、ということ。
 それが、今回の顛末と「風に吹かれて」のイメージだけで批判にまでなってしまうというのが、なんというか、恐い世の中ですね。
 でも実際、ボブ・ディランという人は分からないですね。
 だから僕は面白くてファンでもあるのです。
 もちろん音楽が素晴らしいというのは言うまでもないことですが。




☆8位 グレゴリー・ポーター

 TAKE ME TO THE ALLEY
 Gregory Porter
 (2016)
 
 グレゴリー・ポーターはまあ、ジャズヴォーカルなのでしょうけど、実際はR&Bシンガーという方がよりしっくりきます。
 ジャズヴォーカルは本来、歌い手が気持ちよく歌い、その姿と声を好きな人が聴いて気持ちよくなるものなのでしょう。
 不特定多数の人に向けた良い意味でも良くない意味でも無機質なメッセージを含んだポップソングとは違う。
 だから本来は歌い手がより近しく感じられる小さい会場で映える。
 僕は逆、はじまりがビートルズという人間だから、より多くの人が聴くポップソングから自分だけの思いを見つけ出すのが好きなので、最初はこの人、このアルバムに戸惑いました。
 でも、買った以上は何回も繰り返し聴くわけで、聴いてゆくうちに僕もこの人がより好きになって来たのを感じました。
 そうなると不思議なもので、それまでは曲もまあまあというくらいに感じていたのが、これいい、こっちの曲もいいじゃん、となりました。
 やはりじわじわと魅力が伝わるのはただのポップソングではない、でもその上で売れなければならないのだから大変でしょうけど、こういう人が売れるようになったのはやっぱり、90年代以降、音楽を聴く人の趣味がより多様化したことを感じますね。
 じっくりと向かい合いたい音楽を求めている人にはおすすめですが、CDを1から数回聴いて判断する人には向いていません。
 じっくりと聴き込みたい1枚ですね。

 ベストチューンは5曲目Consequence Of Love
 明るいようで少し裏に入っていく歌メロが絶品。




☆9位 エレーヌ・グリモー

 Water
 Helene Grimaud
 (2016)

 フランスのピアニスト、エレーヌ・グリモー。
 僕が「グリモー様」と言うようになって初めて新譜が出ました。
 ところが。
 今回の「アルバム」は、水をテーマにとった古今東西作曲家の短い曲の間をニティン・ソーニー作曲のパッセージでつなぐというもの。
 取り上げられているのは順に、ベリオ、武満徹、フォーレ、ラヴェル、アルベニス、リスト、ヤナーチェク、ドビュッシー。
 それぞれの曲はまさにみずみずしくて素晴らしい。
 つなぎの曲を入れ「アルバム」として聴かせるアイディアもいい。
 でも、そう言えるのは多分、僕がファンだから。
 特に旧来のクラシックファンは、それぞれの曲を楽しみたいのでは。
 グリモーはクラシックの枠を超えて「アルバム」として聴かせようと考えている、と僕は以前何度か書きましたが、今回はそれがより具体的な形となって表されたものといえるでしょう。
 まさに体を流れる水の如く次から次へと曲が流れていく様はBGM的に流しておくにはとてもいいCDだと思いますが、それはもしかして「アルバム」としてはほめていないかもしれない。
 評価というのは大袈裟だけど、何といっていいか難しいCDです、正直。
 ただ、彼女がやりたかったことはこうだったんだと僕の中で証明できたのは、ファンとしては嬉しくもあります。
 それにしてもジャケットの写真はまさに水のごとくみずみずしく、若くてかわいらしい雰囲気に撮れていますね。
 やっぱり大好きです、はい(笑)。




☆10位 ブルーノ・マーズ

 24K MAGIC
 Bruno Mars
 (2016)

 最後はブルーノ・マーズの新譜をねじ込みました。
 11月に出て買ったものですが、すぐにクリスマスアルバムしか聴かなくなって、12月26日まで ひと月ほど聴きませんでした。
 だからよく分かっているかと言うと実は自信がないのですが、でも期待もしていたし、今年出たアルバムとして取り上げないわけにはゆかないので「ねじ込んだ」というわけ。
 前作UNORTHODOX JUKEBOXでは、僕には懐かし1980年代テイストのポップソングを聴かせてくれましたが、今作は一転して1990年代「ポストラップ・ヒップホップ」ど真ん中
という音。
 幼少の頃から聴きなじんだ音なのでしょうけど、僕には「新しい」と感じられる音でした。
 まあそうですよね今や押しも押されもせぬトップスターだから、古い年代の音にこだわり続けるわけにはゆかないでしょうし。
 その影響なのか、今作は1曲1曲が強いという感じではなく、通して聴くとファンクグルーヴが盛り上がるという感じがします。
 つまり1曲1曲の印象はやや薄い。
 まあ曲そのものに凝るのが1980年代の特徴だったので、そこから脱するとやはりこうはなるでしょうね。
 決してつまらないというのではない、ついつい聴きたくなる強いグルーヴ感がありますが、要は好き好きということ。
 それにしても前作とこれだけ違ったテイストのアルバムを作るのは彼が勢いに乗り自信に満ちている証拠でしょうね。
 ジャケットの派手な衣装とポーズも嫌みではない。
 むしろよくそこまで大物になってくれたと感謝したいくらい。
 ただ、僕の趣味とはちょっとばかり違うのですが・・・(笑)。

 ベストチューンは3曲目Perm
 これがもう思いっきりJBファンク。
 影響を受けた以上にパクリの心配があるほど(笑)。
 今これができるのも俺だけだ、という自負を感じますね。



 次点に
 エリック・クラプトンI STILL DO、
 ポール・サイモンSTRANGER TO STRANGER
 を挙げておきます。





 ところで。
 12月にクリスマスアルバムばかり聴いていたあおりで、12月に買った以下の3枚はまともに聴くことができず、来年回しとさせていただくことにしました。

●ローリング・ストーンズ

BLUE & LONESOME
Rolling Stones
(2016)



●アリシア・キーズ

HERE
Alicia Keys
(2016)


●ニール・ヤング

PEACE TRAIL
Neil Young
(2016)



これらには敢えて触れないで次にゆきます。





最後に大型リイシュー盤も3点さらりと。


☆ポール・マッカートニー

 PURE McCARTNEY
 Paul McCartney
 (2016)

 ポール・マッカートニーのUniversal初のベスト盤、それまでポールのベスト盤が出回っていないという異常事態で、これが出た意味は大きかった。
 今回は、それまでのベスト盤には入っていなかった曲を聴き直して新たな発見があったことも楽しかったですね。
 同じ曲でも聴き方聴かれ方で解釈は違ってくる。
 これもまた音楽の興味深いところです。

 このアルバムについては記事を2つほど上げました。
 ご興味がある方は
 こちらと
 こちらを
 ご覧ください。




☆ヴァン・モリソン

 ...IT'S TOO LATE TO STOP NOW...
 Van Morrison
 (1974)

 ヴァン・モリソンは過去の音源の版権がSONY/BMGに移行。
 ベスト盤ESSENTIALに続いてライヴ盤のこれがリイシュー盤として再発されました。
 しかも続編或いは補完の意味合いをもつDVD付き豪華版2、3、4が出た。
 ファンには嬉しい年となりました。

 詳しくはこちらの記事をご覧ください。




☆エマーソン弦楽四重奏団

 EMERSON STRING QUARTET:COMPLETE RECORDINGS ON DG
 Emerson String Quartet

 エマーソン弦楽四重奏団がドイツグラモフォンに残した音源がCD52枚組のボックスセットとしてリリースされました。
 彼らは現在SONY CLASSICALと契約をしているので、これはまあ「卒業アルバム」みたいなものでしょうか。
 僕は彼らの大ファンで、少しずつ集めていたところにこれが出たので買い求めました。
 10セットくらいだぶったのですがそれでも安いし、何より中古で安く探す手間が省けましたからね。
 この中ではグリーグやシベリウスなど「北欧もの」の1枚、ベートーヴェン弦楽四重奏全曲、ショスタコーヴィチ全曲、ハイドン選集、メンデルスゾーンが僕は気に入っているしできもいいと思います。
 通しで聴くと後期の方が好きかな、前期はまだ自信に満ちたという感じではなく探求心が勝っている感じがする。
 これは一生かけて聴いてゆく愛聴盤です。





 本年も当BLOGにお付き合いいただきありがとうございます。

 2017年、来年もよろしくお願いします。

 皆様よいお年をお迎えください