Lady Madonna ザ・ビートルズ | 自然と音楽の森

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洋楽の楽しさ、素晴らしさを綴ってゆきます。



 ◎Lady Madonna
 ▼レディ・マドンナ
 ☆The Beatles
 ★ザ・ビートルズ
 released in 1968
 2016/11/11

 
 ビートルズの曲の記事です。

 Lady Madonnaは、僕が中学2年の夏休みにNHK-FMで録音したビートルズの90分カセットテープに入っていました。
 つまり、僕が最初期に接したビートルズの1曲。


 ではまず曲から。





 Lady Madonna
 The Beatles
 (1968)


 Lady Madonnaは、1968年2月3日と6日に録音されました。
 ジョン・レノンとジョージ・ハリスンは2月15日にインドに旅立ちおよそ2か月間瞑想を行うことになっており、留守の間にシングルレコードで発売する曲として録音したのがこの曲でした。

 『ビートルズ・レコーディング・セッションズ』を著したマーク・ルーウィソンはその本の中でこの曲についてこんなことを書いています。

***

 今日ではどういうわけかビートルズ研究家に軽視されがちだが、Lady Madonnaはビートルズの会心作で、
 彼らが1968年にリリースしたたった2枚のシングルの1枚目だ。
 発売後1週間でアメリカでは100万枚以上、英国でも25万枚以上を売り上げた。

***

 そうなんです「軽視されがち」、それは僕も感じていました。
 でも、この本から20年以上経った今はどうなんだろう。
 最近のライヴでも演奏しているし、評価というか人気は20年前より高くなっているかもしれない。
 僕はずっと大好きでしたけどね。


 この曲についてのジョンの思いのようなものを、『ジョン・レノン・プレイボーイ・インタビュー』より引用します。

***

 ポール。
 ピアノがいい。
 曲そのものは何の役にも立つもんじゃない。
 歌詞のことでいくらか助けたけど、自慢できるものじゃないね。

***

 曲自体はジョンも好きそうだと僕は感じます。
 でも、「何の役にも立たない」というのは、そうですね、まあ「売るために作った曲」以上ではないということかな。
 歌詞は面白いけれど、メッセージソングとはまた違うし。
 逆にいえば、聴いていて楽しければそれでいいというポップソングの本質を生のまま表現した、ということかもしれない。


 歌詞について先に話すと、これは、凋落傾向にあった当時の英国とエリザベス女王を風刺したもの。
 "Did you think that money was heaven sent"
 「お金は天国から送られるものだとも思っているのかい?」
 と言う歌詞は税金が高いことの皮肉でもあるでしょうね。
 ポールは後にHer Majestyでもエリザベス女王を皮肉っていますが、結局のところ好きなのでしょね。
 4人の中では最も英国人らしい人だと思うし。

 歌詞で面白いのは、土曜日だけ出てこないんですよね。
 金曜日にスーツケースなしで訪れる
 日曜日の朝に尼さんのように這いずり回る
 月曜日は子供たちが靴ひもを結ぶ練習をしなければならない
 火曜日の午後は終わらない
 水曜日は朝刊が来ない
 木曜日はストッキングの穴を補修しなければならない

 土曜日は1日中遊んでいたのかな。
 まあ、七曜日で3つずつのパートが2回だとひとつ余るから、どこかを落とさなければならないのは分かります。

 引用した歌詞では、Lady Madonnaさんが世間知らずであることが示唆されています。
 ストッキングの穴を補修するというのは、お金を使うところが違うと言いたいのか、逆でそういうことをして節約してほしいという思いか、いずれにせよ「もったいない」としてほめてはいないですよね。
 何かやることがちぐはくだ、と。





 サウンドの話。

 この曲はとにかくピアノの音が印象的ですよね。
 「安っぽい」、そうですね、エンジニアのジェフ・エマリックは、ピアノの録音に苦労し、「最終的にはわざと安っぽいマイクを使い、コンプレッサーとリミッターを大量にかけた」と話していますが、なるほど。
 でもその「安っぽさ」が曲のイメージ付けとしてはうまくいったのでしょう。


 余談、このイントロのピアノが、僕が高校時代に読みふけっていた『ザ・ビートルズ・サウンド』という本に載っていたので覚えて、高校の音楽の授業の前に遊びで弾いたことがあります。
 だめでしたね、僕はピアノはまるで才能がないとその時に思い、それが今までずっと続いています。
 だからこの曲は僕にピアノを諦めさせた憎き曲、か(笑)。
 フレーズ的には簡単らしいのですが、僕も実は、この齢にしてまだピアノが弾けるようになりたいと密かに思っているので、その時には最初に弾いてみようかなと。


 ポールのベースもよく動いていて楽しいし凄いですね。
 他のギターは添え物程度でほとんど目立たないのですが、ギター弾き人間にとってはそこが少々マイナスポイント。
 入っているんですけどね、でもソロはないし。
 そういえばこの曲をギターで弾いて歌ったことがない、だからコード進行もうろ覚えでいまいち自信がない。
 ギターでコード切るだけというのもなんだかつまらないし。

 ポールのヴォーカルはエルヴィス・プレスリーの真似をしてみた、といったものだと少ししてから知りました。
 なるほど、ね。
 でも、ビートルズが「誰それっぽい」というのもあまりない、そこも「安っぽい」につながる部分かもしれない。

 話は「安っぽい」に戻り、僕は、中学2年の時にNHK-FMでビートルズの曲だけ拾い集めた90分カセットテープを最初に聴いていましたが、この曲もその中にありました。
 僕は最初から、この曲だけ妙に作りが「安っぽい」と感じたものでした。
 いわゆる「後期」の曲としてはアレンジが練られておらず、アイディア一発勝負で押し通したみたいな感じ。
 ピアノの音色の「安っぽさ」のみならず、曲の流れが簡単だし、ポールも歌い方がラフというかふざけているし、「ブーブー紙コーラス」なんて子どもじみているし、2分くらいですっと終わってしまうしで、おまけに僕の90分カセットテープでその前後に入っていたのがAll You Need Is LoveとHey Judeときたからには、余計にそのアレンジの「安っぽさ」が気になりました。

 「ブーブー紙コーラス」とは間奏の部分で、僕は中学時代に「ブーブー紙」を口にあてて歌っていたものだと何かで読みました。
 でも、マーク・ルーウィソンの本には、紙を使ったとは書かれておらず、口を突っ張らせただけとのこと。

 ちなみにその「ブーブー紙」、古い岩波文庫などを包んでいるあの紙で、正式には「パラフィン紙」ということを、大学時代に書店でバイトするようになって知りました。
 爾来僕は、「パラフィン紙」に包まれた本を見ると反射的にLady Madonnaが頭の中に流れてくるようになりました。
 ほんとうは違うのかもしれないけれど、もうこのイメージは払拭できそうにありません(笑)。

 後にビルボード誌シングルチャートで1位になったビートルズの曲のリストを見てこの曲がないことを知り、あ、やっぱりこの安っぽさだからと妙に納得したものでした。
 
 軽視されがちと書かれていたのは、真剣さが足りない、ユーモアに走りすぎている、という部分はあるかと思います。
 なんか真面目にこれが好きって言えない曲、そんな感じかな。
 ビートルズを聴くありがたみが足りない曲なのかもしれない。

 しかし、安っぽいのが悪いとは言っていない。
 逆に僕は、この曲でビートルズの面白さ奥深さを知りました。
 そしてこのユーモア感覚が僕に合うんだとも思ったものでした。
 最初のカセットテープに入っていてよかった、NHKに感謝ですね。
 そうじゃなければ、眉間にしわを寄せながら愛を説く人々、と、ビートルズを誤解していたかもしれないし(笑)。

 この曲はだからビートルズで最も気軽に聴ける曲のひとつです。
 アルバム『1』にも入っているし、それは車でよくかけますが、この曲はいつも何度か繰り返して聴きます。
 『1』の話をすれば、この曲の軽さが逆に次のHey Judeを引き立てているようで、編集も見事ですね。
 といってまあ、順番に並べただけなのですが。

 そう、これはビートルズがアップルを作る前の最後のシングル。
 でも、そこを軽く流してしまうのもビートルズらしいのか。
 しかし僕は、『1』で聴いていても、これと次のHey Judeではまるで違って聴こえてきます。


 さて、ビートルズ解散後のライヴを2点ほど。




 Lady Madonna
 Paul McCartney & Wings
 (1976)

 ポール・マッカートニー&ウィングス時代のライヴ映画『ロック・ショー』からのものですね。

 そう、『ロック・ショー』はレコード3枚組のライヴ盤WINGS OVER AMERICAに添った内容ですが、そのライヴでポールは、解散後初めてビートルズの曲を歌った。
 その5曲の1曲がこれだったんですよね。
 それはきっと、ビートルズを深刻に受け止め過ぎないで、というメッセージがあったのではないかと僕は思います。

 それにしてもこの映像のポール、なんだか一生懸命にピアノを弾いているようで面白いですね。
 ポールに「一生懸命」という言葉は似合わない、だから余計に。



 もうひとつ、2012年のライヴ映像も。




 Lady Madonna
 Paul McCartney
 (2012)

 2013年と2015年の来日公演につながる映像で嬉しいですね。
 メロトロンのようなピアノを弾いているし。

 イントロのピアノのスウィング感、遊びがまたいいですね。
 ほんとはレコードでもそこまでやりたかったのだろうし、曲の本質としてもそこまで遊ぶ方がいいと思うのですが、そうするとビートルズにしてはおふざけが過ぎると、ジョージ・マーティン先生に言われたのでしょうね。

 コンサートでこの曲、どうだったかな、まあ受けていたかな。
 僕は演奏してくれて非常に嬉しかったです。
 ライヴにはとっても合う曲だとも思いましたね。
 曲自体も、この安っぽさも、すべて。
 そこが意外といえば意外な発見でしたが、ビートルズを聴いて30年以上、まだまだそういう発見はあるものなんですね。

 正式に数えたことはないけれど、僕はこのLady Madonna、ビートルズの213曲で好きな上位40には入ると思います。


 最後にもうひとつ個人的な思い出話を。

 この曲、最初に聴いて「リディ・マドナ」に聴こえて驚きました。
 それまで僕はまともに英語の発音に取り組んでこなかったので、「レディ・マドンナ」と書かれている以上"lady"を「レディ」と発音するものだと思っていたからです。
 「レディ・ボーデン」というアイスクリームもありましたし(笑)。
 でもポールは「リディ」と言っているように聴こえる。
 よぉく聴くと実は「レィディ」なんですよね。
 ポールは「レィディ」と発音する時に、「レ」よりも「ィ」を強く発音するのがまた新鮮な驚きでもありました。