CASS COUNTY ドン・ヘンリー新譜 | 自然と音楽の森

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洋楽の楽しさ、素晴らしさを綴ってゆきます。

20151127DonHenley

 ◎CASS COUNTY
 ▼キャス・カウンティ
 ☆Don Henley
 ★ドン・ヘンリー
 released in 2015
 CD-0480 2015/11/27

 ドン・ヘンリーの実に15年振りのスタジオアルバム新作が出ました。
 つまり、今世紀初めてのアルバムということになりますね。

 今作はテキサス州にある彼の出身地からタイトルをとったとのこと。
 15年振りの新作ということでかなり期待して臨みました。

 実際に聴くと・・・カントリーっぽい、いや、ほぼカントリーじゃん。

 断っておきますが、、僕はカントリー系も聴くし、カントリーが嫌いというわけでは決してありません。

 でも、これに関しては、ロック的なガツンとくる手応えがあまりなく、僕の期待と予想とは違うもので、正直最初は戸惑いました。

 新作が出ると聞いた時僕が真っ先に思い浮かべたドンの曲が、AORっぽい雰囲気をたたえたソロ3作目のNew York Minuteであり、そういう都会的な世界を求めていたふしがあったので。
 まあ、ドン・ヘンリーといってその曲を思い浮かべた僕が悪いといえばそれまでですが(笑)。

 ただ、注文時にアルバムタイトルとジャケットっ写真を見て、予感のようなものはありました。
 "county"と"country"を読み間違ったわけではないのですが、特に写真にはそんな雰囲気が。
 でも、ここまで本格的なカントリーとは予想していなかった。

しかし、2回3回と聴き進めてゆくと、これはこれでとても素晴らしいアルバムと思うようになりました。

 イーグルスがそもそもカントリーっぽい音楽ですからね。
 中でも今作は、強いていえば2作目DESPERADOに近い路線ではある、と気づきました。
 カントリーのアーティストが集まったイーグルスのトリビュートアルバムCOMMON THREADもかつて作成されたくらいだし。
 
 ドン・ヘンリーの場合逆に、AORっぽい路線の方が「後付」なのでしょう。
 だから、いつかは本格的なカントリーアルバムを作ってみたいと思っていたことは想像に難くありません。
 音楽面については、すぐに納得しました。
 
 ドン・ヘンリーの歌う歌メロはやはり心地よくて、気がつくと聴き終るごとに数曲を口ずさむようになりました。

 4曲目Waiting Tablesは特にイーグルス2作目っぽくて素晴らしい。
 サビの最後の部分の穏やかに進む歌メロがしみてきます。

 5曲目Take A Picture Of This、これはブルーグラスだな、これも歌メロが素晴らしい。
 分かりやすくいえばイーグルスThe Best Of My Loveの路線。
 この2曲が今作ではいちばん好き、この流れが最高にいい。

 11曲目Praying For Rainもそうですが、高音を引っ張る歌メロが僕は好きだし、ドン・ヘンリーには合っていると思う。
 そして今回、やっぱりドン・ヘンリーの声が大好きであることを再確認しました。

 カントリーの話に戻って、今作はカントリー系の参加ゲストが豪華。

 1曲目Bramble Roseにはミランダ・ランバート。

 2曲目The Cost Of Livingにはマール・ハガード。
 すいません、マール・ハガードの声が最初はエルトン・ジョンに聴こえました。
 貫禄がある落ち着いた歌、そして曲。

 7曲目That Old Flameにはマルティナ・マクブライド。
 エレクトリックギターがリズムを刻むアップテンポの若々しい曲。

 9曲目Words Can Break Your Hearにはトリーシャ・イヤーウッド。
 これもブルーグラス、雰囲気たっぷりの曲で、トリーシャ・イヤーウッド独唱はなくコーラスのみ、でもこれがまたいい。

 そして10曲目When I Stop Dreamingにはドリー・パートン。
 ドリー・パートンの歌声を、最大限の敬意を表しつつ前面に出したワルツ。

 なお、曲順は僕が買った16曲入りDeluxe Editionによるもので、通常盤の間に4曲が入り込んでいるものですが、これらの曲はすべて通常盤にも収められています。

 1曲目Branble Roseは正統派ワルツのカントリー。
 2番にミランダ・ランバートが出てきますが、3番になるとドンとは別の男性の声が聴こえてくる。
 なんと、ミック・ジャガーではないか!
 ミックの声がカントリーとはあまりにもミスマッチで可笑しいくらい。
 多分ミックもカントリーらしく歌おうとはしておらず、当たり前だけど、いつものミックのスロウな歌い方に徹しているだけ。
 ちょっとばかり笑えます。

 でも、僕はここに、ドン・ヘンリーの「ロック魂」を感じました。
 そのミスマッチ感覚こそがロックである、という。
 
 また、この曲でローリング・ストーンズのBEGGAR'S BANQUETを思い出し、カントリーのようでカントリーではないロックというあのアルバムの持つ大きな意味を再確認したのでした。

 最後のWhere Am I Nowはアップテンポでイーグルスっぽいいロックな曲。
 これを最後に置くこともまた「ロック魂」を感じました。

 ひとつ、上記のように音的にロックであること。

 もうひとつ、これが最後という感じがしない曲であり、予定調和的ではないという点でも。
 むしろひとつ前のA Younger Manはいかにもアルバムの最後にふさわしい響きの曲。
 そこで終わるかと見せかけてアップテンポの曲が始まるのは、いかにも人を喰ったドン・ヘンリーらしい。

 この曲が最後にあることで、また新たな幕が開き、次に続く期待感が高まる、そんな曲でもあります。

 このカントリー「的」なアルバム、Wikipediaを見ると、ビルボードのカントリーチャートで1位を獲得しているんですね。
 カントリー「的」というよりは、本物のカントリーと認められたということなのでしょう。
 通常のアルバムチャートでは最高3位で、まあ、大物の新作が必ず上位に来る今では普通のヒットといったところ。
 
 カントリー側からも歓迎されているようですが、一方でそのような「ロック魂」も感じられる素晴らしいアルバムです。

 僕も、最初に抵抗感があった反動で聴く度に好きになり、今年の新譜でTop5入り間違いなし、3位以上かも、というくらいになりました。

 ただ、ですね、メタル好きの弟はやっぱり気に入っていないようでして。
 まあ「メタル好きの」というのは一種のレトリックですが、でも、ドン・ヘンリーに何を求めるかで聴こえ方が違うアルバムであるのは間違いないと、これだけは書き添えて終わります。

 そして今回、僕はドン・ヘンリー自体が好きである、ということも分かりました。


 最後になりましたが、You-Tubeで見つけたTake A Picture Of Thisです。

 ドン・ヘンリー、バンドを従えて歌う姿が様になっていますね。
 いかにも気持ちよさそうなのが印象的。
 これを観ると、やっぱりこのアルバムはこれでよかったんだ。いやこれだからこそと強く思います。