ボビー・ウーマックという人 | 自然と音楽の森

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ボビー・ウーマック Bobby Womack

今僕が凝っていて熱心に聴いている人。
原音により忠実に書くと「ウォマック」だそうですが。

きっかけは、1月に、USMジャパンより、1968年のデビュー作から70年代の創作意欲に満ち充実した頃のアルバム10枚が一気にリマスター盤で発売されてそれをまとめて買ったこと。
すべてを一気には聴けないので、3枚ずつ順番に入れ替えて1週間くらいで取り替えながら聴き続けています。
1枚はライヴだからそれを抜くとちょうど3枚が3組。

これがですね、ほんとうに素晴らしい。

ボビー・ウーマックは高校時代から名前と他の人がカヴァーした幾つかの曲を知っていて、90年代に出た新譜を1枚だけ買い、名盤といわれるPOETの1と2を聴き、ベスト盤も買いましたが、そこから聴き広げることはなかった。

 ところが、一昨年のTHE BRAVEST MAN IN THE UNIVERSE(記事はこちら)が素晴らしく、その年のアルバム1位に選んだほど気に入り、さていよいよ70年代の作品もと思いました。

 しかし、2in1で出ていたり中抜けになったりと、すべてを集めることは難しそうで、保留としていました。

 そこへこのリマスターの情報、すぐに10枚まとめて予約しました。

 まだすべてをよく聴き込んでいないので、ここはひとつ、「ボビー・ウーマックはこんな人」という、これまで僕が聴いた中で全体的に感じたことをさらりとまとめて書いてみました。


 1.ジェイムス・ブラウンに声が似ている
 以前からなんとなくそうは思っていましたが、今回あらためて聴くと、声や歌い方がJBに似ていますね、特に「ヘーイッ」と叫ぶところ。
 音楽はJBほどファンクではないんだけど、でもこの「ヘーイッ」が来ると、切れが鋭く、カッコいい、こっちも気持ちが盛り上がりますね。
 ただ、この10枚の後半になると声がだいぶ荒くなっていて、ボビー・ウーマックらしい迫力がある声になっています。


 2.時々サム・クックが叙情的に顔を出す
 声はJBですが、特にミドルテンポからスロウな曲でサム・クックが顔を出してきます。
 これは当たり前で、サム・クックについて作曲などをしていたのがキャリアの始まりだから、自分の中でも後継者という面があるのでしょう。
 サム・クックがもしあの時殺されなかったら、ソウル音楽はいったいどうなっていただろう、とはよく言われますが、そのことが想像の域を超えて実際の音となって表されている感じもします。
 サム・クック大好き人間としては、それもうれしいところ。


 3.知的である
 ソウルではあるけれど、決して感情が先走らない。
 ロックのような武骨さや不器用さ(いい意味での)もない。
 しかし、確かに感情は伝わってくる。
 押し付けられるのではなく、こちらが感じたいと自然に思う。
 音の響きに、何かこう、知的なものを感じますが、それは、音に対して繊細で、音の出し方、スタジオワークという意味、そこにこだわりがあるのではないかと想像します。
 そもそも外見からして理知的な感じは受ける人ですが。


 4.ものすごくとっつきやすい曲とそうではない曲がある
 まあ、これは、突き詰めて考えるとヒット曲がある人はみなそうですが、彼の場合は印象が強い曲の強さが尋常ではない。
 この中ではUNDERSTANDINGに収録のWoman's Gotta Have It、
 これが僕はいちばん好き、強く印象に残ります。
 ネヴィル・ブラザースのカヴァーでもやっぱりこの曲は「おおっ」と思わせるものがありました。
 ベースが印象的な音を出す曲というのは僕は大好きです。
 もう1曲、Looking For A Love Againは、どうしちゃったのというくらいに浮かれたポップソングで、こういうのもできるんだと感心。
 これ、「知的である」ことの換言ともいえますが、音楽に限らず芸術とは、ほんとうに素晴らしいものは、決して難解ではなく、むしろ驚くほどシンプルで親しみやすいものだと僕は思い、
 それがよく分かるのがボビー・ウーマックという人でもあります。
 ただ、やはり聴いてゆくとみな素晴らしい曲ではありますが。


 5.ソウル音楽としてはかなり時代の先を行っている
 そのような音だから、ソウル音楽としては先進的に感じますが、「ニューソウル」と言われたダニー・ハサウェイとも通じる部分がありますね。
 この10枚の後半はディスコに時代にかかってきていて、一聴するとディスコといった響きの曲も出てきます。
 でも彼の場合は、ディスコが売れるから取り入れたというよりは、自分が持っていたリズム感が時代の波に乗ってディスコになった、だから自分は自分としてやる、といったニュアンスであり、芯がしっかりとしたものを感じます。
 そして、ボビー・ウーマックの後に似たような音楽があまり出ていない、ということにも先進性を感じますね。
 唯一無二、という感覚が強い音楽です。


 6.有名な曲のカヴァーが好きで上手い
 表向きの音楽の分かりやすい特徴はこれでしょうね。
 カヴァー曲はその人の趣向が垣間見えて興味深いですが、この人の特徴は、有名な曲やヒット曲のカヴァーが多いこと。
 「臆面もなくそれをやるか」という曲もあるのですが、しかしそれが見事に自分の色が出ていて素晴らしいものばかり。
 有名は曲であればあるほど、同じにすればコピーでつまらないし、かといって大きく変えすぎると拒否反応が起こりやすいものですが、ボビー・ウーマックのカヴァーはどれも納得させられます。
 或いはオリジナル以上に曲に潜んだ内面をうまく表していて、フィギュアスケートの「曲の解釈」点では最高を得られるでしょう(笑)。
 試しに、この10枚でどれだけ有名な曲のカヴァーがあるかをアルバムタイトル紹介を兼ねて順に書き出してみます。
 →の後がオリジナルもしくはその曲の有名なアーティストです。
 なお、ここでは僕がそらで思い出せるものだけを取り上げますが、もちろん、僕が知らないカヴァー曲もあると思います。

FLY ME TO THE MOON
・Fly Me To The Moon (In Other Words) → フランク・シナトラ
・California Dreamin' → ママス&パパス

MY PRESCRIPTION
・I Left My Heart In San Francisco → スタンダード
・Don't Look Back → テンプテーションズ
・Fly Me To The Moon (In Other Words) 

COMMUNICATION
・Fire And Rain → ジェイムス・テイラー
・Close To You → カーペンターズ

UNDERSTANDING
・And I Love Her → ザ・ビートルズ
・Sweet Caroline → ニール・ダイアモンド

FACTS OF LIFE
・(You Make Me Feel Like A) Natural Man → キャロル・キング
・All Along The Watchtower → ボブ・ディラン

LOOKING FOR A LOVE AGAIN

I DON'T KNOW WHAT THE WORLD IS COMING TO
・It's All Over Now → ボビー・ウーマック(リメイク)

SAFETY ZONE
・I Wish It Would Rain → テンプテーションズ

BOBBY WOMACK GOES COUNTRY & WESTERN

 なんといってもここはビートルズですよね(笑)。
 And I Love Her、オリジナルよりテンポを落としほの暗くしていて、この曲の裏に潜む不安をあぶりだしていて、共鳴しやすい。
 これに比べるとポール・マッカートニーはいささか陽気すぎる。
 まあ、その陽気さはポールならではの強がりなのですが。
 それにしてもこれはビートルズのカヴァーとしても出色のできで、この曲はポールが昨年のコンサートでも演奏してくれたこともあり、余計に気持ちが入ってゆきました。

 Fly Me To The Moon、僕はクリント・イーストウッド監督主演映画『スペース・カウボーイ』で知りましたが、当時話題になりましたよね。
 この曲はついつい口ずさんでしまう歌メロが印象的ですが、ボビー・ウーマックはR&B的に捉えて聴かせています。
 ところでこの曲、2枚続けて同じテイクが収録されているのですが、ライナーノーツを見てもそれがなぜかは分かりませんでした。

 California Dreamin'、これはひとりで切々と訴えかけるような響きで、カリフォルニアが余計に遠く感じられます。

 Don't Look Back、I Wish It Would Rainとテンプスが2曲は嬉しい。
 後者はロッド・スチュワートのカヴァーもよかった。

 もうひとつ僕としてうれしいのがJTのFire And Rain。
 これはベスト盤にも入っていて先に聴いていましたが、オリジナルよりもコクが出ていてより世界が広がった感じがして、JTの曲のカヴァーとしても最上の部類でしょう。
 この曲はアイズリー・ブラザースのカヴァーも有名ですが、当時、いかにシンガーソングライターが流行ったかがよく分かります。
 ところで、JTは後にWoman's Gotta Have Itをカヴァーしていますが、もしかしてそれはこの曲をカヴァーしたことへのお返しかもしれない。

 Close To Youはメドレーの中の1曲ですが、メロディの良さをそのまま生かしています。

 Sweet Carolineはアメリカのケネディ駐日大使が着任する際に、ニール・ダイアモンドが彼女に捧げた曲として話題になりましたが、この曲は逆に軽くなっています。

 It's All Over Now、これはロック人間にはローリング・ストーンズやロッド・スチュワートで有名ですが、すいません、実は、最初にこれを聴いて、この曲だとは分からなかった・・・それくらい違います。
 もしかして同じタイトルで別の曲を作ったのではないかと思いました。
 まあ、この辺はキャリアを積んで余裕が出てきたのでしょうね。
 ちなみにこの曲にはビル・ウィザースが客演しています。

 とまあ、カヴァー曲が面白いしとっつきやすい。
 有名な曲のカヴァーをするというのは、僕は大いに共鳴します。
 というのも、僕の聴き方は、玄人受けするものを聴くのではなく、ヒット曲を自分なりに解釈して自分のものにしてしまおうという姿勢であって、それはボビー・ウーマックのカヴァーと同じだからです。



 さて、熱心に楽しく聴いているのですが、ひとつだけ僕としては「困った」ことがあります。

 それがこの写真

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 何かお気づきになりませんか?

 CDの「背」の部分、ふたが本体についている方の側面のことですが、そこに書いてあるのが日本語なのです。

 本題の前に、CDって普通はこの側を手前に起きますよね。
 少なくとも僕がよく行く店の棚は新品中古すべてそうなっています。
 僕は輸入盤を買うことが多いですが、国内盤でも、ワーナー系と東芝EMIは、かつては「背」が日本語で反対側が英語になっていて、並べると違和感があり困っていました。
 よく見る棚の場合は、反対になるけど英語の側を手前に置いたりも。
 ただ、どちらも5年くらい前からかな、「背」の側も英語表記になったので困らなくなったのですが。
 おそらく、経費節約で向こうのデザインをそのまま使うようになり、CD番号の部分だけ変えるようにしたというのが僕の読みですが、でも、日本独自の企画ものでもそうなりました。
 もうひとつ、こういう部分で日本人は英語になじむようになったこともあるのかもしれない。

 ところが、時代に逆行するかのように、ボビー・ウーマックのこのシリーズは「背」が日本語でした。

 それだけではありません、次の写真を。

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 なんと、反対側も日本語、つまり側面には英語の表記がないのです。
 困った困った、これじゃどちらも立てられない、なんてことしてくれる・・・
 なぜだろう、大いに疑問だし、これだけが小さな不満です。

 余談ですが、「背」が英語であっても、国内盤は、CD番号の入れ方が海外盤に比べると無粋でつまらないとも感じていました。



 ボビー・ウーマックは、一昨年の大晦日のその年のアルバム記事(こちら)でBRAVEST MAN IN THE UNIVERSEを1位にしました。
 USMの担当者は、情報収集の一環としてそれを見たのではないかな。
 これは僕のBLOGだからという意味ではなく、世間での受け止められ方を探るという意味で言っていますが、でもその中に1位にした人がいると驚いてうれしかったかもしれない。
 それならボビー・ウーマックが受け入れられる余地がまだありそうだとなり、今回のリマスター盤につながった・・・
 というのは考え過ぎでしょうけど、僕としては思いが通じたようで大変うれしいです。

 でも、ボビー・ウーマック、今はどうなのだろう。
 これを書くのにアメリカのWikipediaを見ましたが、ほとんどのアルバムは、そのページはあっても内容がまだ書き足されておらず、リンクがないものもあって、情報集積がまだ進んでいないように思いました。
 つまり、評価が固まっていないということ。

 もちろん評価とは関係なく好きなものを聴けばいいのですが、でもボビー・ウーマックほどの大物がそれというのは、なにかこう寂しいというか、物足りないものを感じました。


 ともあれ、ボビー・ウーマックいいですよ!

 この後のアルバムも少しずつ買い揃えて聴いてゆきます。


 最後に、リンクはWoman's Gotta Have Itのライヴ映像です。