◎MUSIC FROM ANOTHER DIMENSION!
▼ミュージック・フロム・アナザー・ディメンション!
☆Aerosmith
★エアロスミス
released in 2012
CD-0315 2012/11/19
エアロスミスの、スタジオ録音の曲による新しいアルバムとしては15作目。
前作はブルーズのカヴァーを基本としたアルバムだから、オリジナルの新曲を中心にした新作は実に11年振り、でも僕はそれはもっと前だと思っていた。
いきなり余談、NINE LIVESは9枚目じゃなかったんだ。
普通はというか、タイトルに数字が入ったアルバムはそのアーティストの何枚目かを表すものでしょう。
ジョージ・ハリスンのCLOUD NINEはソロの9作目、アイアン・メイデンのX FACTORは10枚目、というように。
中にはBEATLES FOR SALEのように"four"と"for"をかけている例もあるけれど、だいたいそういうものだと思っていました。
エアロのそれは12枚目。
まあ、「猫には9つの命がある」という諺にかけただけで、数字としての意味はなくあくまでも感覚でつけたのでしょう。
或いは、数字に惑わされるなというシークレット・メッセージだったのか。
ともあれ、新譜はそこから数えて3枚目だから12枚目、と思い込みで書かないで調べてよかった。
さて、スティーヴン・タイラーが脱退しただの、していないだの、戻っただの、辞めてないのだから戻ったとはいわない、などなど、音楽以外の部分でいろいろと報道があって世間を騒がせたけれど、結局は元の鞘に戻ったエアロスミス。
その騒ぎがあったのは昨年だったかな、僕の感覚としてはそれから割と早くに新作が完成したという感じ。
この新作、そこそこよりはだいぶいい、くらいに良くて僕はなかなか気に入りました。
なんだか抽象的な程度表現が並んでいますが(笑)、少なくともかけている間は、これはいいと思いながら聴いています。
でも1曲目、まるでスター・トレックの冒頭のような喋りのSEから入っているのは、僕からすればエアロスミスにそれは求めてない、いきなり曲を始めてほしかった。
まあでも、「もうひとつの次元からの音楽」というタイトルだから、そういう狙いは仕方ないのかな。
イントロに続いて始まる1曲目Luv XXX、2曲目Oh Yeah、3曲目Beautifulと、エアロスミスらしい明るく楽しく少し崩れたあまり深い意味のないアップテンポな曲が続く。
歌メロのフックはさすがだけど、この辺りは助走といったところ。
4曲目Tell Meはアコースティック・バラード。
5曲目Out Go The Lights、これがいい。
70年代のエアロスミス復活ともいわんばかり、ブルーズロックらしいハードロック。
間に女声コーラスが入ってサザンソウルっぽい感じすらありながら、後半は90年代エアロらしく歌メロが流れてゆく。
シンプルに聴こえるけど実は凝っている。
なにより、ギター低音弦がダイナミックに動き回る曲が僕は大好き、これは最初に聴いてすぐに気に入りました。
僕の中ではここから本番という感じ。
6曲目Legendary Childも歌メロがよく流れてコーラスに凝ったハードロック。
ギターリフがレッド・ツェッペリンのWanton Songに似ているのは偶然だろうか・・・
7曲目What Could Have Been Love、もうこれは90年頃の泣きのバラード路線。
エアロの場合、70年代に売れて、90年頃にまた売れたので、「往年の」という言葉がどちらを指すか分からないけれど、僕は70年代は後追いで復活後がリアルタイムだったから、僕にとってこれは「往年の」バラード路線という感じになりますね。
だって、もう20年が経っているから。
8曲目Street Jesus、最初はとろく歌い始め、途中でレコードの回転数がずれたような音になってからいきなりテンポアップするやはりブルーズロック感覚の疾走系の曲。
歌詞の中にTrain Kept-A-Rollin'と出てくる、意識していないはずがない。
9曲目Can't Stop Loving You、この曲がハイライトということになるのでしょう。
これも「往年の」バラード路線、カントリー系のキャリー・アンダーウッドをゲストに招いてデュエットしていて、力が入っているのが分かります。
曲もかなりよくて、12枚目、13枚目にもバラードは入っていたけど(13枚目には「アルマゲドン」のあれが入っていたけれど)、この曲くらいいいバラードは久しぶり。
今回、カントリー系のゲストを招いて、歌詞にも"Cowboy"と出てくるけれど、そういえば「往年の」バラードはカントリーっぽい雰囲気を感じたな。
キャリー・アンダーウッドは多分初めて聴いたけど、若い割に落ち着いた声の人。
サビの歌詞はこう、"Can't stop lovin' you, 'cos all I wanna do"、この"I"を歌う部分が1音だけとても高いになるところを、スティーヴン・タイラーは最初音がうまくとれないのか出せないのかというくらいに不安定にただ声を上げるだけで、これでいいんだろうかと。
でも聴いてゆくとそれはもちろんわざと、でもその部分の音は1回ごとにファルセットっぽかったりかすれ声だったりで、やっぱり違うんですよね。
適当にやっているようで考えている、でもやっぱりその時のフィーリングかな(笑)、とにかく面白い。
なによりこのタイトル、自ら名曲だと宣言するようなものですね。
10年経ってこの曲がどういわれるようになっているかが楽しみな、今のところの名曲候補。
10曲目Lover Alotは切れのいい曲を目指したロックンロール。
11曲目We All Fall Downはまたバラードだけど少し沈んだ雰囲気。
12曲目Freedom Fighterはジョー・ペリーがどすを効かせようとした声で歌うマイナー調のブルーズロック。
13曲目Closerはまたまたバラードだけど、最初はなんだか重苦しい雰囲気だったのがサビで一転して明るくなる。
でも、暗さを引きずった明るさで、実はアルバムはこの辺、11曲目辺りから少し雲行きが怪しくなる。
14曲目Somethingは再びジョー・ペリーがメインで歌うけれど、これがまた雰囲気を変えることなく重たいままの、ざらざらした手触りのハードロック。
あれ、どうしちゃったんだろうと思ったら・・・
15曲目Another Last Goodbye、アルバム本編最後のこのバラードが、これでいいのかというくらいに重たくひきずるバラード。
先ほど雲行きが怪しくなってきたと書いたけれど、それがついにここまでたどり着いたというところか。
曲としてはWhat It Takesを彷彿とさせる感じなんだけど、あの曲は切ないから重たかっただけ。
Amazingも最初は重たかったけど、途中から光が見えたような曲だった。
一方こちらはなんだか深刻で、ガン宣告を受けたような、悲しげな雰囲気。
タイトルがタイトルだから、エアロスミスもう終わっちゃうの、と思わずにはいられない。
曲としてはとてもいいんです、単純に音楽としてみれば、そこはお間違いのないように。
でも、エアロスミスでここまでやるかというのは、意見が分かれるところじゃないかと。
ただ実際は、思わせぶりにやっておきながら、裏では舌を出して笑っているかもしれない。
しかし、聴けば聴くほど、やっぱりこれは深刻、と思ってしまう・・・
こうした「問題作」を入れてしまうのは、まだまだエアロはロックしていると分かってホッとする部分ではあります。
もしまだ、彼らが続けるつもりであるのなら・・・
お年のせいか、全体的にはなんとなく緩くなっているのは感じますが、それは仕方のないことだと思います。
僕はそれよりも、ギターの音が以前よりもざらついた感覚の荒れた音になっているのが、ちょっと気になりました。
嫌とかそういうことじゃないんだけど、ギターの音が変わるのはギター弾きの端くれのさらに最末端の人間の僕としては、やっぱり気になるところです。
まあしかし、ブルーズロックが好きな僕としては結構良かった、いいアルバムです。
正直、期待値がだいぶ低かったので、その低い期待ははるかにクリアしていてうれしい驚き。
今年の新譜では、よいほうに期待を裏切られた筆頭格かもしれない。
5曲目、9曲目と僕の中では最高レベルもあれば「問題作」もあるし、曲として楽しめるのもよかったです。
エアロスミスは、オリジナルメンバーがすべて存命でいまでもやっていますね。
もう40年、考えてみれば、ロックにおいてこれはとてもすごいことじゃないかと。