◎GREATEST HITS VOLUME I & II
▼ビリー・ザ・ベスト
☆Billy Joel
★ビリー・ジョエル
released in 1985
CD-0296 2012/10/12
今日は急きょ記事を上げます。
また1曲について語りたいので、ベスト盤を選びました。
本題の前に・・・
山中伸弥教授、ノーベル医学生理学賞受賞おめでとうございます!
今朝のスポニチを見ていると、なんだかよく知ったCDの写真が大写しでびっくり。
「ビリー・ザ・ベスト」の写真でした。
話題は、ビリー自身のことではなく、山中教授がジョギングの時に聴いて自分を励ます曲がビリー・ジョエルのPressureであるとテレビで触れてから注目されている、というものでした。
久しぶりに、洋楽好きにはうれしい一般記事を見ましたが、その記事を表記などもそのまま改行だけ僕が施して書き出します(つまらんダジャレも含めて)。
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山中教授効果 ビリー・ジョエルCDに注目
「ジョギング中に聴いている」で売り上げノ~ビル?
ノーベル医学生理学賞の受賞が決まった京都大の山中伸弥教授(50)がジョギング中に聴いている、米歌手ビリー・ジョエル(63)の楽曲「プレッシャー」に注目が集まっている。
ジョエルが所属するソニーミュージックによると、同曲を収録したベスト盤「ビリー・ザ・ベスト 1&2」の発注が増加。
11日は通常の5倍まで増えたという。
同曲はもともと、82年に発表したアルバム「ナイロン・カーテン」に収録。
世の中はプレッシャーばかりだ、でも自分の信念を守って立ち向かっていこう、と背中を押す応援歌だ。
ファンからの人気も高い曲だという。
山中教授は10日にNHK「クローズアップ現代」に出演。
その際に「プレッシャーとどうやって向き合って、乗り越えているのか?」という趣旨の質問を受け、教授は「やっぱり運動ですね。ジョギング、体を動かすこと」と回答した。
続けて、「その時に音楽を聴くんですけれども、聴く曲はビリー・ジョエルの「プレッシャー」という曲。
それを聴きながら”ユー・キャン・ナウ・アンド・プレッシャー”と自分に言い聞かせて、頑張っています」と答えていた。
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ええと、あのう、教授はほんとにそう言ったのでしょうかね。
””の部分、口ずさむ歌詞が文法的におかしくないかなあ・・・
あ、教授に言っているのではなく記者に対してですが、これは、2番のサビの最後の部分、"You cannot handle pressure"を、新聞の編集部の人が聞き間違ったものだと思われます。
記事を読んで、この記者は多分この曲を知らないし、もしかしてビリー・ジョエル自体も知らないくらい若い人かな、と思いました。
まあ、仕方ないですね、もう20年近く新作を出していないのだから。
なんて、文句を言う記事ではないので先に進みます。
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Pressureは、僕が初めてリアルタイムで接したビリーの曲です。
ただ、その頃はビリー・ジョエルは名前を知っていただけで(名前自体は小学生の頃から知っていた)、ビリーが椅子に拘束された重苦しいビデオクリップを何かの番組で見てなんとなく印象に残っていたもので、この時にビリーを好きにはなったわけではなかった。
むしろ、当時はまだビートルズ狂信状態だったから、この曲が入ったNYLON CURTAINがビートルズっぽいと言われていたことに反発してしまい、つまりビリーを嫌いになりました。
しかし、次のビデオクリップが流れた曲、同じアルバムのAllentownを観て曲が気に入り、ビリー・ジョエルってもしかしていいの!? と思いました。
ほぼ同時期にHonesty、My Life、Just The Way You Areをロックの歴史を振り返る番組で見て聴いて好きになり、当時の最新作であったNYLON CURTAINより先に、それらが入った52番街とストレンジャーのLPをすぐに買いました。
その2枚は言うまでもなくとっても気に入り、ついでにというか、ついにナイロン・カーテンも買いました。
ビリー・ジョエルのアルバムはすべて記事にするつもりでいるのでアルバムについて詳しくはまたの機会として、その2枚に比べると、ナイロンは重たいな、と思いました。
◇
Pressureの話。
当時の僕は既に歌詞がラヴソングではない曲を聴くと無条件でいいと思ってしまう人間になっていて、この曲は歌詞がすぐに気に入りました。
ビリーはトップスターになったことで、それこそ精神的な抑圧、プレッシャーを受けていたことは、ビリーのことをよく知らなくても、スターとはそういうものなのだろうなというイメージもあるし、何よりビデオクリップでよく伝わってきました。
この曲は歌詞が聞き取りやすく、最初からなんとなく言っていることが分かりましたが、でも、ビデオクリップというものは、この曲のようにうまく作れば曲のメッセージを最大限引き出すことができるのでしょう。
当時はMTVが広がりを見せつつある頃でしたからね。
ビデオクリップの弊害はよく言われることですが、僕はまさにその年代に育ったので、弊害ばかりではなかった、と言いたいです。
引用した記事では「応援歌」となっていますが、それにしては重たくて暗い曲調。
多分、何も考えていない人にはただ重たい曲でしょうけど、頑張っている人には、底の底を見てもう上しか見るものがない、という、ある種逆境から這い上がるという応援歌なのでしょう。
逆境を見ることである種のロック的なカタルシスも感じますが、要するに、意思がない人には応援歌としては響かない曲。
山中教授はジョギングの時によく聴くということですが、それは偶然なのかな、それにしてはうまくできすぎている。
この曲の歌い出しの歌詞はこうです(引用者訳)
「君は自分のペースというものを学ばなければならない」
歌メロも素晴らしくいいですね、最初から心打たれました。
この曲は、8小節のヴァースと8小節のサビといえる部分の間に4小節のパッセージが入る20小節で1コーラスとなっています。
僕はその短い4小節の部分、"You've only have to run so far, so good"の歌メロ、半音進行でそれこそプレッシャーに押しつぶされて音が下がっていく部分が最高に好き、自分で歌ってしびれます。
さらにそこの2番の歌詞"You turn your tap dance into your crusade"、なんとカッコいい言い回しだろう。
曲の構成という点ではビリーの中でも最高の部類の曲でしょう。
アルバムからの最初のシングルカット曲でしたが、最高位20位と中ヒットで終わりました。
やはり、楽しげな曲ではないですからね。
当時のアメリカ人は、ビリー・ジョエルにはこれは求めていなかったのか。
◇
音楽的にいえば、ギターのうめくような低音、現実を直視しろと叩きつけるようなスネアの音、この2つがプレッシャーを受けている状態にあることを感じさせ、音はやっぱり内容も表すものなのだなと思います。
特にドラムスはかなり強調されていますね。
イントロなどに入るシンセサイザーのラッパのような音もまた印象的。
でも、当時はいかにも時代の音だなと思ったのですが、今聴くとこの曲のキーボードが目立つのは、そこと間奏のオルガン風の音だけで、あの80年代の音とはまた違う響き、あまり古さを感じない。
ピアノがその分あまり目立たないですが、それはきっと、「ピアノマン」であるビリーがプレッシャーに押しつぶされていた状況を音で表したかったのではないかな、と思ったり。
或いは一時的に自分のピアノの音に自信がなかったのかも。
そういえばAllentownでもビリーはギターを弾いてビデオクリップに写っていたのも、決して偶然ではないかもしれません。
余談ですが、イントロのシンセサイザーの音は、後に高校時代のクラスメイトが「東京音頭に似てないか?」と言い出して笑ってしまいました。
似てるといえば似てるかな、そっくりじゃないけど。
しかしおかげで僕はそれからずっと、東京ヤクルトスワローズが点を取った時に客席でビニール傘を広げて「東京音頭」が流れると、この曲が同時に頭の中に流れるようになってしまいました。
今年のファイターズとの交流戦でも目の当たりにしましたし・・・
◇
この曲にはもうひとつ思い出があります。
2008年11月18日、ビリーは、たった一度きりの日本公演であった東京ドームでのコンサートで、なんと、この曲を演奏しました。
その2年前の札幌ドーム公演では演奏しなかったので、客席でこの曲のイントロの音を聴いて信じられない思い、でもうれしかった。
もしかして東京音頭だからやったのか、そんなわけない(笑)。
レコードに忠実に演奏していたと思うのですが、でも正直、ライブで聴くと音圧が足りないような感じもして、オリジナル通りにやるならこれはライヴ向きの曲じゃないのかなと感じました。
そこもまた、ビートルズ的、特に後期、と言われた理由の一つでしょうね。
もっとドラスティックに変えるほうがステージでは映えるでしょう、曲の力はある曲だから。
でもビリーはおそらく、キィを変えたりイントロを伸ばすなど以外は基本的にはレコードの音を変えたくない人なのだと思い、これはこれで仕方ないですね。
曲が終わるところのカウントは、日本語で「イチ、ニッ、サン、シッ、プレッシャー」と言っていてさすがサービス精神旺盛。
それ以上に、予想外に演奏してくれたことがうれしくて、冗談ではなく、涙が出そうになりました。
◇
話をしめる前に、せっかくベスト盤を記事にしたのだから、ここにしか入っていないベスト盤用の新曲2曲にも触れます。
Disc2-13曲目You're Only Human (Second Wind)
ベスト盤リリース時にシングルカットされて最高位9位のヒット。
僕は、このベスト盤のLPは買いませんでした。
当時既にここに曲が収められたアルバム6枚を持っていて、高校生でお小遣いも限られたので、この曲のシングルだけ買えばいいかと。
ただそのあおりで、「ストレンジャー」より前の4曲についてはCDの時代になってから初めてレコード(録音されたものという意味)を買ったのですが。
この曲はレゲェのリズムに乗った明るい曲調のそれこそ応援歌。
ビデオクリップでは、橋の上から少年が飛び降り自殺をしようとしたところで天使のビリーが現れて、人生は大変だけど生きていれば「次の風」が吹いていいことがあるよ、と諭すものです。
諭す、と書くと説教臭くていやかもしれないけれど、ビリーが歌うと説得力があって、プレッシャーなんて曲をやっていたくらいだし、しかも親身に話を聞いてくれている感じがしてよかった。
でも、そういえば「イノセント・マン」の「あの娘にアタック」も若者に恋愛指南をするような歌詞だったから、当時のビリーは、自分の受けた主によくない経験を反面教師として若者に伝えたかったのでしょうね。
ただ、これ、輸入盤のドーナツ盤を買ったのですが当然のごとく歌詞カードがなく、一部分からないところがあって、当時はネットもないし、さてどうしよう、レコード店に行って国内盤のシングルの歌詞カードを立ち読みして覚えたという思い出もあります。
この曲は、曲の中で1回しか出てこない部分つまりブリッジでちょっと雲行きが怪しくなるのですが、そこに入る重たく広がったキーボードの音がセンスがいい使い方ですね。
Disc2-14曲目The Night Is Still Young
曲の前に思い出した、このLPを当時買わなかったもうひとつの理由が、国内盤とアメリカ盤で曲が違ったからです。
当時ビリーの曲でいちばん好きだったHonestyは(値段が高い)国内盤だけに収められ、その代わりに抜かれたのが、よりによって同じくらい大好きなDon't Ask Me Whyで、どちらを買っていいか決めかねてそのままになっていたからでした。
ちなみに、その曲目の違いはCDでも踏襲されています。
さて、この曲もシングルカットされて最高位34位、スマッシュヒット。
ビデオクリップも作られていたけれど、あまりヒットしなかったので数回しか見た記憶がない。
ゴスペル風、ソウル風、とはいわないけれど、重厚な響きのバラード。
夜の初めがこれだから、この先夜はどうなってしまうのだろう・・・
この曲は最初にCDを買った時はあまり好きではなかったのですが、30歳くらいになって聴いた時に突然好きになりました。
あまり若者向けの曲じゃないのかな、というか、ビリーがこの曲を作った実年齢に自分が近づいて漸く曲が分かったのかもしれない。
ちなみにこのベスト盤、「ビリー・ザ・ベスト」という邦題はセンスが良くてうまいですね。
◇
最後はPressureの話題でしめます。
いい曲、いい歌、考え方は価値判断は人それぞれでしょうけど、Pressureは、ビリー・ジョエルの曲の中でも、出来という点では最高傑作の部類に入るのかもしれない。
このアルバムがビートルズ的と言われたのも、そんなところが関係しているのだと思います。
歌詞が持つメッセージも普遍的なものがあり、大スターではあっても苦悩する姿には聴き手が自身の姿を投影しやすいのでしょう。
僕も、何かプレッシャーを感じた時は、心の中で「プレッシャー(ちゃんちゃん)」と口ずさみます。
勢いがあるとさらにクイーン&ボウイのUnder Pressureに流れ込みますが(笑)。
洋楽バカでビリー・ジョエルが大好きな僕としては、ノーベル賞を受賞された山中教授のひとことで、大好きなこの曲が注目されたのはうれしい限り。
山中教授は50歳ということで、もろにビリー・ジョエルを聴いて育った世代ですね。
これからも、音楽以外の日常生活の中で洋楽の話題を見つけた際には、記事にしてゆきたいと思います。