◎CAN'T STOP DREAMING
▼キャント・ストップ・ドリーミング
☆Daryl Hall
★ダリル・ホール
released in 1996
CD-0152 2011/10/30
Daryl Hall-02
ダリル・ホールの4枚目のソロアルバム。
ダリル・ホールのソロの新作が9月に出ると8月に知って予約していたのですが、なぜか当初予定日からひと月ほど遅れて一昨日ようやく届きました。
しかし今回はその新譜ではなく、ひとつ前のソロアルバムであるこちらを記事にします。
新譜の記事ではなくて申し訳ない、新譜はもう少しお待ちください。
実は、このアルバムは買っていなくて、新譜が出ると知ってブックオフで探し始めたところ帯付き国内盤が250円で見つかったので買いました。
CDは背中が多少色焼けしていたけどこの値段なら仕方ない。
1996年当時、僕はダリル・ホールには興味がなかったのかな、そうだな、うん・・・
人間、かつて大好きだったものが好きじゃなくなることってありませんか。
特に10代の頃に好きだったものは、大人になると、なんというのかな、過去を隠したいような心持ちになる。
ホール&オーツはそんな感じだったかな、20代後半はほとんど聴くこともなかったような。
これも出ていたことは知っていたんだけど、当時はまるで気持ちに引っ掛からなかった。
今はもう過去について、一部を除いてだけど、認めながら生きているつもりではあるので、そういうわだかまりはなくなりました。
好きなものは好き、大好きだったものは今でも大好き。
このアルバムを今更ながら買ったのは、正直、申し訳ない気持ちでいっぱいです。
まあしかし音楽には時宜があるというのは僕の持論だから、運命論的にいえば、これはまだ20代だった当時にではなく、40代の今に聴くものであったということなのでしょうね。
その通り、このアルバムはとっても素晴らしい!!
負け惜しみではなく、今聴いたからこそほんとうにいいと思いました。
ひとことで言えばホール&オーツの音を90年代風に少し新しく作り直したという感じで、聴き終わると、ジョン・オーツがいないことが不思議にすら思えてきました。
ホール&オーツは、僕がビートルズ以外の洋楽を聴き始めた最初の数人のひとりだから、僕にとってH&Oはいわば「洋楽デフォルト」のひとつであり、だからほんと素直にこれは僕の心の中に、すぐに入ってきました。
でも、まだ多少若くてとんがったロック野郎を引きずっていた20代の頃に聴くと、逆にこれは過去の遺産にすがっていると捉えたかもしれない。
やっぱり音楽には時宜がある。
1曲目Can't Stop Dreamingはリズムボックスで始まってピアノが三連符を刻む、もうこれだけでH&Oの世界の穏やかなバラード調の曲。
ダリルは"dream"という言葉が好きなんだな、H&Oでもソロでも"dream"と入ったヒット曲があるし。
でも、僕は、ダリルはむしろ"real"のほうが似合う人だと感じているから、ダリルの"dream"はなんだか強そうと思ったり。
2曲目Let Me Be The Oneはサビで歌メロが強烈なマイナー調になる70年代ソウルバラード風。
3曲目Something About Youはアコースティックな雰囲気の中で優しく歌うバラード。
これは名曲級といっていい、とってもしみてくる最高の歌メロで僕もよく口ずさんでいます。
4曲目Cab Driverはほの暗くて微妙にラテンの香りがするブラコン風。
5曲目Never Let Me Goはリズムが跳ねたダンサブルな曲でクラブやディスコでかかっている感じの曲だけどダリルのヴォーカルはその中でもしっかりと響いてきます
6曲目Holding Out For Loveは隙間の多い演奏にコーラスがもわっと広がる、もうH&Oの音としか言いようがないバラード。
そして白眉が7曲目Justify。
80年代のH&O全盛期に出していれば間違いなくTop5に入る大ヒットとなっていたであろう、明るくてポップでサビがとにかく印象的なほんとうに素晴らしい曲。
これだけいい曲がまだ書けたのかというのが驚いた部分でもあり、ますますダリル・ホールが好きになりました。
これはもうあまりにも素晴らしくて逆に言うことが思い浮かばない、僕は時々そういうことがあるんだけどそんな曲ですね。
8曲目What's In Your Mindは泣きのバラード。
7曲目はポップソングとして素晴らしかったけど、そこから一転してこんなすごみのある曲でたたみかけてきて、もうこのアルバムの評価は決まりましたね。
彼女を口説き落としたい曲を集めたCD-Rを作るなら入れたいですね、必殺の1曲。
あ、僕はそれはしたことないしするつもりもないんだけど、喩えとしては分かりやすいかと思って(笑)。
9曲目Hold On To Meはメランコリックなスパニッシュ風のギターで始まるやはりラテン風の曲で、ダリルの声を含めて使われている音の透明度が高い感じがします。
10曲目She's Goneはおなじみホール&オーツの曲のリメイクというかセルフカバーというか。
このアルバムはアコースティック・ギターと打ち込みが中心に作られていて、下手すれば無機質な響きになりそうなところ、ダリル・ホールがやると逆に温かみを感じるのが不思議なところ。
すっかり90年代の音になっていて僕は好きです。
11曲目All By Myselfは「ソウル・トレイン」の世界かな、曲も音ももう涙が出るくらいに徹底した70年代爽やかソウル路線。
12曲目Fools Rush In、最後はこれでもかというくらにH&O風のコーラス。
後半はフュージョン風に展開して盛り上がりながら終わるけど、この終わり方もいいな。
ああ、ほんとに聴きごたえがあって楽しくて素晴らしいアルバムだった。
ダリルは意図的にH&Oっぽく作ったのかな。
90年代に入ってホール&オーツで迷い、枯れたくても枯れきれない、かといって若者に受ける音楽でもないという時を経て、それなら自分がやれるべきことをやるしかないと原点に立ち返ったのかもしれない。
ダリルはソロのこの前作も重たい雰囲気だったし。
ボズ・スキャッグスのところでも触れたけど、1990年代は音楽が落ち着いてまろやかになり聴きやすくなった時代で、それは特にベテランで顕著だったと思います。
一方でこのアルバムは80年代的なサビの押しが強い曲が並んでいて、でも押しつけがましくなくて、90年代のまろやかな音にすんなりとなじんでいてとっても聴きやすいです。
そして僕はほんとうに90年代の音が好きであることも再確認できました。
90年代はいいんですよ。
ダリル・ホールのこれは「快作」と言っていい1枚だと思います。
名盤でも傑作でもないかもしれないけど、そう、「快作」。
大物アーティストはキャリアの後ろのほうにひょっこりととてもいいアルバムが現れるというのが僕の持論だけど、これはまさにそんな1枚でとにかく充実しています。
ただしダリルはまだこの後15年経って新しいアルバムを出しているので、このアルバムはまだ後ろの方というよりは真ん中辺りかもしれないですが(笑)。
ブックオフで安く見つけたらぜひ聴いてみてください(笑)。
90年代はCDが売れた時代でもあるので、CDがたくさん出回っているんですよね。