⑤「礼」―敵の魂をも供養する平泉中尊寺 | ブラタカタ・・・通訳案内士試験に出題された場所の旅道中

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2007年以降、300人以上の通訳案内士を養成してきた通訳案内士試験道場の高田直志です。案内士試験に出題された場所を津々浦々歩いたときの旅日記です。案内士試験受験生は勉強に疲れた時の読み物として、合格者はガイディングのネタとしてお読みください。

⑤「礼」―敵の魂をも供養する平泉中尊寺

「怨親平等」という普遍的価値

極楽浄土を模したという中尊寺金色堂だが、平泉が世界遺産として登録されたのは、単に文化財としての価値からだけではない。世界遺産登録に必要なコンセプトはOUV (outstanding universal value)すなわち、卓越した普遍的価値である。平泉にも、そこに秘められた「恒久の平和」への願いにOUVがある。それは「(おん)(しん)平等」、すなわち死ねば敵味方の区別なく礼を尽くし、供養するという思想である。

中尊寺を開いた奥州藤原氏初代藤原清衡は、11世紀中期の前九年・後三年の役などで多くの血を流してきたことに心を痛めた。そして生きているときには敵味方にわかれて殺し合わねばならないのが運命だったとはいえ、死ねば区別なく、ともに極楽浄土に往生できるようにという想いが、中尊寺を建てさせたのだ。

それまでも菅原道真を祀る天満宮など、葬り去った敵を供養することはあった。しかし敵を葬ることを生業とする武士の中で、敵味方の分け隔てなくともに礼を尽くして菩提を弔うという発想が生まれ、広がっていったのは実に興味深い。

そしてこの発想は後に鎌倉円覚寺や九州北部の各蒙古塚において日蒙両国の兵を祀ったり、南京事件により絞首刑となる陸軍大将松井石根が中国江南の土を用いて熱海に興亜観音をつくり、日中戦争で亡くなった両国の兵を祀ったり、沖縄戦で亡くなった日米および英国、朝鮮半島、台湾など、軍民を問わずあらゆる国の人々の名を刻んだ「平和の(いしじ)」を造るという発想のもとになった。

 

南宋の秦檜と韓国の「破墓法」

「仁」とは思いやりの心である。敵に対しても仁の心を忘れず、礼をもって供養し続けるという美徳は、例えば中国で「宋を敵に売った宰相」として漢奸(かんかん)(売国奴)の第一に挙げられる秦檜が中国でどのような扱いを受けているかと比較するとわかりやすい。

中国一の景勝地、杭州では、祖国南宋を守らんとして背中に「精忠報國」の入れ墨をし、金に徹底抗戦するが、最後には陥れられて亡くなった愛国者の代名詞ともいわれる岳飛の廟がある。しかしその近くに彼を謀殺した宰相秦檜とその妻の像の銅像がひざまずかされて作られており、観光客から棒でたたかれたり、つばを吐かれたりしている。

類例として、韓国ではかつて日本側に協力した売国奴の墓を発掘できるとする「破墓法」が国会で審議されているが、いずれも日本的感覚では「そこまでやるか?」と強烈な違和感を感じないではいられない。

中国や韓国の人々との交流を通して、親切のかたまりのような人に会う機会は、日本に比べるとはるかに多い。しかしそれは自分が「身内」と認められたときであって、実は「部外者」に対しては冷たいことも少なくない。ウチとソトをはっきりと分ける傾向も日本より強いのだ。

それにしても「死屍に鞭打つ」ような行為は「仁」とか「礼」とかいう儒教的基準以前の問題で、日本では白眼視されまいか。これもおそらく日本人の間では、「怨親平等」的死生観が根付いているからなのだろう。

 

「怨親平等」は現状の普遍的価値ではない?

欧米においてもまたしかり。横浜には第二次世界大戦で日本と戦った英連邦の兵士の墓地がある。そこには日本兵の墓がないのは当然としても、米軍や中華民国の墓さえない。釜山にはUN墓地といって、朝鮮戦争の際、韓国を支援した国連軍とその医療従事者の墓地があるが、そこに中ソの兵の墓はない。秦檜や破墓法は論外としても、味方の霊のみ弔うというのが、おそらくグローバルスタンダードなのだろう。

であるがゆえに、怨親平等の精神で敵味方なく往生を祈る平泉中尊寺が世界的な意味を持つのだ。そしてそれが後の武士道に与えた影響は多大である。

 

 

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