「アンノン」型観光地からインスタ映えする観光地へ | ブラタカタ・・・通訳案内士試験に出題された場所の旅道中

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2007年以降、300人以上の通訳案内士を養成してきた通訳案内士試験道場の高田直志です。案内士試験に出題された場所を津々浦々歩いたときの旅日記です。案内士試験受験生は勉強に疲れた時の読み物として、合格者はガイディングのネタとしてお読みください。

「アンノン」型観光地からインスタ映えする観光地へ

「インスタ映え」という言葉が流行語となっている。従来の言葉で言うなら「写真映え」という意味なのだろうが、スマホで撮った写真を簡単に加工して、芸術的な「作品」とし、フォロワーたちに拡散することで賞賛を得るSNS、インスタグラムが観光地の勢力地図を、劇的に塗り替えつつある。

私は2016年まで山口県の「角島大橋」と「元乃隅稲成神社」を知らなかった。厳密に言えば角島大橋の存在は知っていたが、写真を見ても沖縄の古宇利大橋との区別がつかなかったし、元乃隅稲成神社に至っては読み方さえ知らなかった。山陰出身の通訳案内士のくせに恥ずかしいと思い、2017年の夏に仲間と車を運転しながら訪れた日は、曇りがちだった。インスタの中の角島大橋は、エメラルドブルーの珊瑚礁の浅瀬に、白い橋がまっすぐに伸びている。日本海側に位置しながら、黒潮の分流である対馬海流という暖流がこの一帯に流れるため、珊瑚礁が発達しているのだ。しかし珊瑚礁がエメラルドブルーに反射するのは晴れた日だけ。あいにくその日はそれほど美しいとはいえなかったが、そこを目指して来る若者で駐車場は満杯だった。そのナンバープレートを見ると西日本全域から来ているではないか。サイクリストたちもスマホの前で喜びを全身で表わして撮影し、SNSにアップしていた。

その後、日本海に面した棚田の間の細道を運転しながら、元乃隅稲成神社に到着した。ここの駐車場も西日本全域のナンバーの自動車で満杯だったが、ファミリー層が多い。インスタでは紺碧の日本海と露出した赤土の崖、そして緑の木々の中を百本以上からなる赤い鳥居群が蛇行する、実に絵になる風景だ。ここは2015年にCNNの「日本で最も美しい場所31選」となってブームとなった。いずれも北長門海岸国定公園に指定されているが、国家が定めているから人気なのではない。なにかをきっかけとしていきなりSNSを通して世界的観光地になったのだ。ちなみに神社から自動車で5分ほど行ったところには千畳敷という広々した草原のむこうに岬がつきだし、変化に富む海岸線を楽しめる場所があるのだが、ここまで足を運ぶ人はほぼいない。インスタ映えしながらも「発掘」されていないからだろう。

インスタをはじめとする写真系のSNSは、旅のあり方を確実に変えた。この変化は1970年代の「アンノン族」の出現以来ではなかろうか。アンノン族とは当時発刊された女性月刊誌「an-an」「non-no」に掲載される観光地を、20代の女性が少人数で訪れる旅のスタイルである。今で言う「女子旅」だが、それ以前は女性の旅は親か旦那か先生か子どもに連れて行かれるのが一般的だったため、新しい時代の旅のスタイルとして定着したのである。そしてこれらの雑誌が特集するのは萩や津和野、金沢や高山といった小京都が主流だった。

しかし今や近隣の藍場萩や津和野を訪れる観光客は激減している。萩の藍場(がわ)平安古(ひやこ)、菊屋横町などは実にインスタ映えするにも関わらず、賑わいがない。津和野に至っては往事の土産物屋や宿泊施設が廃墟となっている。アンノン時代の「老舗」観光地は、新鮮味にかけるのかもしれない。一方インスタで脚光を浴びたこれらの地に行っても旧態依然とした売店が一、二軒あるだけで、地元にお金は落ちていなそうだ。ゴミや交通渋滞の問題だけ残して帰られても地域振興にはつながらない。これをどう利益につなげるかが喫緊の課題だろう。

 

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