国際疼痛学会(IASP)は2020年7月に疼痛の定義の変更を行いました。

 従来の疼痛の定義は「組織の実質的あるいは潜在的な障害に結びつくか、このような障害を表す言葉を使って述べられる不快な感覚・情動体験」と表現されてきました。

 2020年の改定では次のような定義と付記が記載されています。

 「実際の組織損傷もしくは組織損傷が起こりうる状態に付随する、あるいはそれに似た、感覚かつ情動の不快な体験」

 ・痛みは常に個人的な経験であり、生物学的、心理的、社会的要因によって様々な程度で影響を受けます。

 ・痛みと侵害受容は異なる現象です。感覚ニューロンの活動だけから痛みの存在を推測することはできません。

 ・個人は人生での経験を通じて、痛みの概念を学びます。

 ・痛みを経験しているという人の訴えは重んじられるべきです。

 ・痛みは、通常、適応的な役割を果たしますが、その一方で、身体機能や社会的および心理的な健康に悪影響を及ぼすこともあります。

 ・言葉による表出は、痛みを表すいくつかの行動の1つにすぎません。コミュニケーションが不可能であることは、ヒトあるいはヒト以外の動物が痛みを経験している可能性を否定するものではありません。

 この改定、付記で重点がおかれているのは、通常、コミュニケーションが困難な乳児、自閉症の人や認知機能の衰えた高齢者、動物等にも痛みが存在することが推察できることから、言語化されない痛みの概念まで広く包含されたことにあると思われます。