これまで勤めていた職場には、国家公務員上級甲種採用で、定年後も65才までは働かせるとの約束だったので、退職金を当てにしてマンションを買った。しかし突然の方針転換で60歳で失業。一切天下り再雇用はなかった。銀行も方針転換で退職金でローンの一括返済を迫られた。年金も減額。月14万円ではとても生活していけない。ハローワークに行ったら、再雇用高銀齢者職員から駐車場の整理位しかないと片づけられた。惨めな老後をなんとかしなければと思い、現在政府就職救援事業の商業英語研修講座を受けながら外国貿易実務検定資格取得を目指している。月に4万円ほど稼げれば、すごく楽になるので、派遣登録することにしている。
 職歴を紹介するが、これまで家庭裁判所調査官という仕事を40年近くし、約1万人と面接調査し、ノンフィクションストーリーを1人につき短編小説1冊分位は書き続けてきた。離婚、子の奪い合い、相続、家族虐待、精神障害。少年犯罪、殺人、放火等。司法臨床心理学、精神医学に基づいた人間というものの心の闇の調査。人格診断のためにロールシャッハや主題統覚絵画検査を必死で勉強し、いつしか絵画制作美術批評が趣味になり、カウンセリング技法も習得して臨床心理士資格を取った。マンションを買うついでに宅地建物取引主任者資格を取り、司法書士、司法試験も受けて勉強した。法令調査のほかに経済調査では養育料金額、親への扶養金額、遺産分割金額の算定などに徹夜で報告書を書き上げた。今回の研修中にファイナンシャルプランナーという資格があることを知って、ブックオフで買ってみて、いつでも合格できると思った。ビジネス法務資格検定というのも、合格できると思った。いかに知識があっても資格がないと仕事ができない社会になっていると思った。第二の人生を生き抜くためにも資格を取っておきたいと思った。
 しかし、資格を得て金を稼ぐだけでは、人生そのものを生き抜くことはできないことも知った。20歳前後大学の学園紛争の最中に三島由紀夫の割腹自殺事件、連合赤軍集団リンチ殺人事件を目の当たりにして非常なショックを受け、動けなくなった。裁判記録も読んだ。職についてから、あらゆる人間紛争劇を書き続けるうちに、学生時代に学んだ英文学のなかでも、シェークスピアの偉大さを改めて知らされた。また精神障害を抱えながら、あれほど美しく華麗な日本語を生み出した三島の金閣寺(放火)や豊饒の海(精神の変調)、それに連合赤軍の家族葛藤を淡々と清澄な日本語で見事に描写した円地文子の食卓のない家などを自分の仕事の教科書にした。精神障害の家族を抱えながら社会変革を主題として詩的で美しい小説を書き続けた島崎藤村の破戒、夜明け前、それに千曲川のスケッチに、こころの救いを得る思いがした。また自己の精神的苦悩と戦いながら、日本の清らかな風景と情緒のなかに、人間心理の複雑な深奥を、美しい日本語で綴った川端康成の「山の音」は、自然のなかにいる神の音声のように響いた。定年まで10年かけて読んだ源氏物語は、無駄を一切省いた感性だけで通じ合える日本人と美しい日本語に、音楽のように癒された。谷崎潤一郎の現代語訳を読んで、これほどの美しい日本語訳はないと感動した。また日本人ではないのに日本語の美意識のすばらしさを生涯かけて追求している古典文学研究者ドナルドキーンの説得力のある言葉にも感激した。
 一度も外国には行ったことがなかったが、30年前に取った英検3級を思い出し、今回英会話を半年習ったら、今回の研修講座を紹介された。そこで、英語をネイティブのように話す人もいれば、外国に何度も行っている国際人もいた。自分も英検準2級に挑戦しようと思った。仕事のなかでも外国人花嫁フィリピン女性が異文化葛藤のなかで、自分でこころの支えを見つけ出し、一生懸命に生きようとしている姿が、美しかったことを覚えている。フィリピンなど東南アジアに行ってみたいと思っている。また、精神障害の母がいたからこそ自分は人にやさしくできる人間になることができたという若者の言葉も忘れられない。生き抜くには心の支えとなる「志」が必要だと思った。
 これからの老後を生き抜きたいが、現代は、これまでの地縁血縁社会が崩壊しかけて、新しい人間同志の絆社会を模索している。社会との接点窓口となっているインターネットを始めたばかりだが、ブログ、ホームページをやっていきながら、少しでも人とつながりのなかで、何かひとつでも還元できることがあればいい。できれば感想意見情報交換などできればうれしい。