前回の続きです。


 

学者は辺りを見回すと言いました。

「さて、ニマニマ病についてはもうお分かりかな。循環が大事だということです。これからあなた方は、溜め込んだ似顔絵付き紙切れを使わなければなりません。」

すると赤ちゃんを抱いた母親が言いました。

「でも学者さん。生活必需品は全て買ってしまったし、私はもう使いたい物がないんです。」

学者は言いました。

「それは困りましたな。でもニマニマ病の人は皆口を揃えてそう言うのです。しかし、人間というものは欲深いものです。あなたの心の中にはあるはずです。なかなか手に入らないものだから、あきらめてしまっているものが、きっとあるはずです?・・・では、私の言った通りにしてごらんなさい・・・さあ、目を閉じて、大きく息をして、止めて、ふぅーと長〜くゆっくりと息を吐いて・・・あなたの中にある、欲を吐き出してごらんなさい・・・それは、まばゆいばかりの宝石ですか?それとも絢爛豪華な豪邸ですか?さあ、私を信用して、答えてごらんなさい。内なる欲を開放し、楽になるのですよ。」

母親は、ふぅーと大きく息を吐きおえると目を開き言いました。

 

「私、王子様が欲しいわ!」

 

「はあっ・・・!」と学者は言葉をつまらせましたが、気を取り直し言いました。

「王子様ですか?・・・しかしですな、お母さん。王子様はなななか売ってはいませんぞ。何かお店で売っている物にしてはもらえませんかな?」

「えっ、嫌よそんなの。王子様以外に欲しいものなんて何もないわ。あなたが欲を開放しなさいと言ったのでしょ。私は王子様が欲しいの。どこで売ってるの・・・都会のデパートならどうかしら。素敵な王子様が1ダースほどそろっているんじゃないかしら。」

 

「う〜ん、なるほど・・・ニマニマ病がかなり重症のようですな。いやいや心配なさらずに。私はニマニマ病の名医ですからな。こういう時の対処法もちゃんと心得ておりますからな。ようは相手の話をよく聞き、むやみに否定しないことですからな。な〜に、心配ない、私は名医ですから。」

 

母親は不思議そうに首を傾げると言いました。

「何を一人でブツブツ言ってるの?」

学者はハッと我に返ると言いました。

「いや、いや、失礼、失礼。お母さん、都会だからといって何でも売っている訳ではありませんぞ。さすがに王子様は売っていないかと・・・」

「えっ、そうなの。ではどこで買えばいいの、困ったわ・・・そうだ、最近流行りのM&Aで手に入れるのはどうかしら?」

「はあっ、M&Aですかな?・・・これは、これは、王子様の斬新な入手方法ですな。王子様はいずれ王様になる。王様になってからはでは、資産価値が国家予算並になってしまいとても手が出せない。そこで価値が跳ね上がる前の王子様のうちに敵対的買収を仕掛け手に入れようという腹積もりですな。」

「えっ!どうして敵対的なの。」

「どうしてといって、あなたは王子様に何のパイプもないじゃないですか。」

「あっ、それもそうね・・・それでいくらほどかしら?」

「そこですが、実は王子様は株式上場しておりませんでな。M&Aが仕掛けられないのです・・・」

「えっ、なにそれ。じゃあ手に入れられないじゃないの、役に立たないわね・・・ああ、どうすればいいのかしら・・・」

 

学者は少し考えると言いました。

「そうですな、迷った時は一度原点に帰ってみることですな。お母さん、あなたは王子様にどこかで会ったことがありますか。どこで王子様のことを最初に知りましたか。なぜ王子様に会いたいのですか?」

母親は言いました。

「王子様との出会いは・・・そうね、山の上の大きなお城だったわ。私はかぼちゃの馬車に乗って、お城の舞踏会に出たの。その時、王子様に誘われてダンスを踊ったわ。素敵な王子様と一緒にステップを踏んで夢のようだったわ。でも、運命は残酷。12時を過ぎると魔法が切れて私は平民に戻ってしまうの。急いでお城をあとにしたわ。でもその時ガラスの靴が片方だけ脱げてしまって・・・」

学者は「オホン、オホン。」と咳払いをすると、慌てて止めました。

「いや、いや、もう結構です。シンデレラの絵本の中というわけですな。」

母親はムッとした顔をすると言いました。

「違うわよ!ディズニー映画のシンデレラよ!」

「いや、いや、これは失礼。でも、これで分かりましたぞ。あなたの心の奥底には、子供の頃に観た王子様への強い憧れが強固な理想となり、今もなお消えずに残っている。それも相当に強く燃え盛るように。なぜですか、なぜそこまで王子様に会いたいのですか?」

母親は言いました。

「だってそうじゃない。王子様よ。ハンサムで、お金持ち。優しくて、背は高いし、甘い言葉でダンスに誘ってくれるのよ。それに王子様と結婚したらお妃様よ。王女よ王女。権力も財力も思いのままよ。結婚したくないっていうバカがどこにいるのよ。一度掴んだら逃さない、当然でしょ。」

学者は苦笑すると言いました。

「なるほど。ははは、まさにあなたは欲の塊ですな。いやいや、悪いことではないですぞ。でも理想が高すぎて、どうすればいいか分からず、欲に蓋をしてしまった。そうでしょ。だが大丈夫、ニマニマ病の名医の私がついていますからな・・・と、その前に。あなた

お子さんがいますが、旦那さんが居るのに王子様に会いたいのですか?」

母親は答えます。

「ご心配なく、大丈夫です。つい先日旦那とは離婚して、晴れて、清く、美しくたく、まくしく、美しいシングルマザーになりましたから。王子様からのご期待には、お答えしますわ。」

「うーん、なるほど。美しいが二重に聞こえたように思いますが・・・」

「あら、何のことかしら。」

「いやいや、聞き間違いでしたかな・・・あははは、ニマニマ病ですからな、あははは・・・では、清く、美しくたく、まくしく、美しいシングルマザーよ、いや、ちょっと長くて言いにくいですな・・・」

「あら、そうかしら。でしたら省略して美しいシングルマザーで結構ですよ。」

「あははは・・・なるほど、ニマニマ病ですからな、あははは・・・では失礼して・・・う、美しいシングルマザーよ、まずあなたは、舞踏会で王子様と出会ったわけですな。」

母親は首を傾げると言いました。

「ええ、そうですが。それがどうしたの?」

「ではまず、舞踏会に出なければ王子様には出会えませんぞ。ちなみに舞踏会には何を着ていきますか?」

「そりゃ、ドレスでしょ。」

「その通り。ドレスはお持ちかな?」

「持ってないわよ。舞踏会なんか出ないもの。」

「そこがいけない!なぜ舞踏会に出ようとしないのですか?王子様には会えないではないですか。」

「それはそうですが、どうやったら出れるのかが分からないから。」

「そこですよ、美しいシングルマザー。あなたは、知らず知らずのうちに普通の生活をすることに慣れてしまって、そこから抜け出そうという考えが無くなってしまっているのですよ。」

「はあ、そうなんですか。」

「そうですとも、あなたには高い目標が必要だ。あなたは、これからセレブになるのですよ。」

「えっ、セレブですか?」

「そうですとも、美しいシングルマザー。セレブは夜な夜なパーティーを開いていますぞ。ようは現代版の舞踏会のようなものです。そこにあなたは、眼を見張るような美しいドレスを着てさっそうと現れるのです。それはもう王子様も釘付けですぞ。」

「えっ、本当かしら・・・あら、どうしましょう、王子様に・・・」

「そうです、そうです・・・しかしです!セレブにはそう簡単にはなれませんぞ。ちなみに美しいシングルマザー、コートはお持ちかな?パーティーに行くにも外は寒いですぞ、コートがなくては行けませんぞ。あなたは、似顔絵付き紙切れ何枚で買ったコートをお持ちですか?」

「えっと、あれは紙切れ1万枚でした。」

「それはいけない。いくらなんでも安すぎる。いやー恥ずかしい。」

母親はムッとした顔をすると言いました。

「ほっといて下さい!スーパーのおばさんがこの生地は新素材だから紙切れ100万枚のコートと同じ暖かさだよって言ってました!すごく温かいですからご心配なく!」

「いやいや、あなたは騙されている。いやー大変だ、王子様に会えない・・・これは暖かさの問題ではないのですよ。価値の問題なのですよ、美しいシングルマザー。いいですか、あなたは紙切れ1万枚で手に入るコートと、100万枚で手に入るコートと、どちらを王子様にプレゼントされると嬉しいですか?」

美しいシングルマザーは照れながらも答えました。

「えっ、そおお・・・うふふ、王子様のプレゼントならどちらでもいいけど、100万枚のコートだったらもっと嬉しいかしら。」

「そうでしょ、そうでしょう。だったら紙切れ100万枚で手に入るコートをなぜ手に入れないのですか。なぜ1万枚のコートで満足するのですか。王子様に合うのに1万枚のコートで会いに行くつもりなのですか。それはいけない。」

「それはそうかもしれませんけど・・・そんなことをすれば、預かり所の預かり枚数が減ってしまうじゃないですか。」

「美しいシングルマザーよ、それがニマニマ病というやつなのですよ。」

美しいシングルマザーはハッとした顔をすると「そうだったの。」と言いました。

「そういうことなのですよ、美しいシングルマザー。そういった考えが、王子様と会える機会をなくしているのですよ。お分かりかな・・・あなたはこれから似顔絵付き紙切れ100万枚で手に入るコートを買わなければいけません。それも1着ではいけませんよ。たった1着手に入れたぐらいではセレブとはいえませんからな・・・そうですな、100着は必要ですな・・・美しいシングルマザーよ、あなたの目標は100万枚のコート100着を手に入れセレブになり、王子様に出会い、プロポーズされることですぞ。」

「まあ、素敵な言葉・・・プロポーズ・・・ああ、王子様・・・でも待って!どうやって、100万枚コートを100着も手に入れるの?私の手持ちのじゃ、1着程度しか買えませんよ。」

学者は言いました。

「知りませんよ、そんなもの。それはあなたの収入の問題ではないですか。私は経済学者ですよ。あなたの収入が少ないからといって私に言ってどうするんですか。」

「そんな、王子様はどうなるのですか?・・・どうやって100着も手に入れろというのですか?」

「それは、あなた。収入が少ないのなら、地道に頑張るしかないのでしょうな。」

「なによそれ、地道にって!地道になんかやってたらお婆ちゃんになってしまうじゃないですあか。嫌ですよそんなの、私の王子様はどうなるんですか!・・・どうにかして下さいよ。あなたが欲を開放しなさいって言ったのでしょ。責任取りなさいよ!」

「そんなことを言われまいしてもな。収入を増やしたいのなら、商品を沢山売ることですな。沢山売るから、沢山儲かる。単純な話ですな。まあ、頑張って下さい・・・これでよろしいかな。」

「なによそれ、この役立たず!」

すると和尚様が言いました。

「まあ、まあ、お二人さん。落ち着いて・・・ここは一つ二人で協力してはどうかの。お母さんは収入を増やすため商品の売り方を知りたい、学者さんはニマニマ病を克服させ儲けた紙切れを使って欲しい。だったら、学者さんが商品の売り方を教えてくれれば、収入も増えコート100着を買ってセレブになり王子様に会える。となればニマニマ病患者が減り、学者さんの評判が上がるということではないかの・・・それにわしも、お寺のお守りがなかなか売れんでの、売り方を教えてもらえると助かるのじゃがの・・・ふっひょひょひょ。」

学者は言いました。

「なんですかそれは、お寺のお守りの売り方までは知りませんが。和尚の言うことにも一理あるようですな。よろしい、商品をいかにして売って儲けるかについて、私の知るところをお教えしましょう・・・ところで和尚、そのお守りとは何のお守りなのですかな?」

和尚様は言いました。

「ああ、お守りのう・・・たしか、商売繁盛じゃったかの。」

 

人々は、なるほどなと頷きました。


 

つづく。


 

では、続きは次回としたいと思います。

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