ジュリエット・ポエット(赤糸で縫いとじられた物語) | 空閨残夢録

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デカダンよりデラシネの戯言

 

 『ジュリエット・ポエット』とは、寺山修司自らが名づけた、散文詩とも童話ともつかない不思議な作品の数々。人間が次々と鳥に変身してしまう「壜の中の鳥」、魔法の消しゴムで恋敵を次々と消していく「消しゴム」、10年後の姿を映し出す写真機を描いた「まぼろしのルミナ」など、抒情と幻想がシュールに溶け合った鮮やかな12篇を収録した、ジュリエット・ポエットの代表的作品集である『赤糸で縫いじれられた物語』が代表作である。
  



 女のからだは お城です 

 なかに一人の少女がかくれている

 もういいかい?
 もういいかい?

 逃げてかくれた自分を さがそうにも

 かくれんぼするには

 お城はひろすぎる  
 

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 かなしくなったときは
 海を見にゆく

 古本屋のかえりも
 海を見にゆく

 あなたが病気なら
 海を見にゆく

 こころが貧しい朝も
 海を見にゆく

 ああ 海よ
 大きな肩とひろい胸よ

 おまえはもっとかなしい
 おまえのかなしみに
 わたしの生活は
 洗われる

 どんなつらい朝も
 どんなむごい夜も
 いつかは終わる

 人生はいつか終わるが
 海だけは終わらないのだ
 
 かなしくなったときは
 海を見にゆく

 ひとりぼっちの夜も
 海を見にゆく

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(「踊りたいけど踊れない」寺山修司)より