――何かと忙しくなる、中学3年生の春。
ほとんどの生徒が来年の受験に向けて動き出す。
中には就職するという者もいる。
部活動の最後の大会に向けて、汗を流す者もいる。
しかし、自分のやりたい事、やるべき事を見つけられないまま、
ただ退屈な日々を過ごしている少年がいた。
「・・・ハァ、眠い・・・。」
朝からため息をつくこの少年は、雪見中学校の3年2組、
島崎 竜平(シマザキ リュウヘイ)だ。
昔から勉強も運動も特別できるわけでもなく、背の高さも顔も平凡。
体形はスリムな方だが、鍛えているわけではない。
髪はいつも整えずに、寝癖がついている。
猫背でいつも眠そうな顔をしている。
クラスでも全く目立たずに、どこのクラスでも一人はいる、
いわゆる「空気」の様な者だ。
しかし、そんな彼にも一人、親友と呼べる者がいた。
「―よう、竜平!今日も眠そうだな!」
そう言って彼の背中を叩くのは、竜平と同じクラスの
榎原 大輝(エハラ タイキ)だ。
彼は昔から運動神経抜群で、背が高く体つきはがっしりしている。
顔は中の上で、明るく元気だ。
・・・少し勉強が苦手で、天然なところが玉に傷だが。
「・・・痛い。」
竜平は叩かれた背中を、手の甲でさすりながら振り返った。
大輝は人懐っこい笑顔でこちらを見ている。
「もっと背筋伸ばして歩けよ。下ばかり見てたら何かにぶつかるぞ!」
「・・・うるさいな。」
竜平は頭をかきむしりながらまた歩き出した。
大輝はその右隣についた。
「・・・もう決めたか?」
「・・・何を?」
竜平が右隣を見ると、いつもの爽やかな笑顔があった。
「何をって、来年からどうするかだよ。高校行くのか?それとも、就職するのか?」
「いや、まだだ。・・・そういうお前は決めたのか?」
「ああ。俺は高校行って、これを続ける。」
大輝はそう言って、スポーツバッグから野球で使うグローブを取り出した。
「野球、か。」
「ああ。・・・お前は結局、中学3年間帰宅部なんだな。」
「まあな。オレがスポーツやったって、笑いものになるだけさ。」
竜平は両手を広げて少しおどけてみせた。
「・・・んなこと言ってるから、何もできないんだろ。」
大輝は左手にグローブをはめて、グローブを眺めている。
「・・・何言おうと、オレの勝手だろ。」
竜平は少しむっとした。
「俺がしつこいぐらい野球やろうぜって言ったのに、断り続けたな。」
「・・・野球なんて、疲れるだけだろ。どこが面白いのか全く分からない。」
「・・・やってみれば分かる。」
竜平がちらりと大輝を見ると、真剣な顔つきになっていた。
「・・・野球の事となると、顔つきが変わるのは相変わらずだな。」
「ああ。野球に関しては誰にも負けないっていう自信がある!」
大輝はスポーツバッグにグローブを入れ直すと、腕時計に目をやった。
「・・・やべっ!遅刻するぞ!!」
大輝はそう言って走り出した。
「どうせ間に合わねえって。・・・お前なら間に合うだろうけど。」
竜平は歩く速さを全く変えずに、のんびりと歩いている。
竜平が教室に入ると、まだ授業が始まっていない様子で
ざわざわと騒がしかった。
「・・・何だ、まだ先生来てないのか・・・。」
竜平がのんびりと自分の席に向かうと、
右隣の席で荒くなった呼吸を整えている大輝がいた。
「・・・急ぐ必要なかったな。」
「ハァッハァッ・・・お前、遅刻だぞ。」
「別に良いじゃねえか。まだ先生来てないし。」
「そういう問題じゃないだろ・・・。」
竜平が左隣を見ると、参考書を開いて必死に受験勉強しているクラスメイト
(通称ガリ勉君)の姿があった。
「・・・大輝は勉強しなくていいのか?」
「・・・ん?ああ、俺はスポーツ推薦だから。」
大輝は野球ボールを握ってニッと笑った。
「スポーツ推薦?・・・あー、野球上手いしな、お前。」
大輝は雪見中学校の野球部に所属していて、4番バッター。
ポジションはセンターで、俊足と持ち前の運動神経で相手を驚かせる。
反射神経も抜群で、ボールのコースを見極める能力やボールへの反応の良さはピカイチだ。
しかも、普段はヘラヘラしているくせに、野球の事となると真剣な顔つきになる。
―これがイケメンなんだよな。
竜平は心の中で呟いた。
そんなわけで、大気の周りには自然と人が集まる。
男女関係なく人気がある。
―オレとは、本当正反対だな。
竜平は天井を見つめて、ぼうっとしていた。
「―崎!島崎!!いないのか!!」
はっとすると、いつの間にか教卓の前には先生がいて、周りは静かになっていた。
「――ハイ。」
「何だその気の抜けた返事は!そんなんだから、いつまでも何もできないんだぞ!!」
―ハイハイ、分かってますよ。
竜平はこう言われることに慣れている。
「榎原!お前からも何とか言ってやれ!」
「―はい。後で言っておきます。」
―いや、だから大輝を巻き込むなって!!
竜平はため息をついた。
視線を感じ左隣を見ると、ガリ勉君が何か言いたげにじーっと見ていた。
「・・・何だよ?」
「・・・別に。」
ガリ勉君はふいっと顔をそらせた。
―だったら見るなよ。
またため息をつく。
そうこうしているうちに1限目の国語が終わった。
退屈な授業が終わり、ぐっとのびをしていると大輝がやって来た。
「―悪いな。また巻き込んで。」
「―いや、あの先生が竜平に目を付けすぎなんだよ。」
二人で会話していると、珍しくガリ勉君が近付いてきた。
「―島崎君。」
「何だよ?ガリ勉・・・じゃなくて、今井。」
ガリ勉君こと、今井はずり落ちそうになっている眼鏡をくいっと上げた。
「島崎君。榎原君はとても野球が上手くて、先生からも生徒からも好かれている。
そんな彼に迷惑をかける様な事ばかりして、恥ずかしいと思わないのかい?」
「・・・あのな。」
竜平が自席から立ち上がると、大輝はそれを遮った。
「いや、俺は迷惑だなんて思ってないし、竜平が悪い事をしているとも思っていない。
・・・竜平はただ、スロースターターなだけだ。
始まりは皆よりも少し遅いが、必ず良い結果を出すだろう。」
大輝がこちらを見た時、竜平ははっとした。
―大輝が、野球以外の事で真剣な顔になっている。
・・・というか、そんな恥ずかしい事をそんな顔で言うなよ。
竜平はため息をついた。
「・・・え?何、俺が言った事間違っているか?」
「いや、間違ってるとかじゃなくて・・・。」
オロオロしている大輝を見て、さらにため息をついた。
―オロオロしすぎだよ、イケメン君。
今井は何が何だか分からない、という様な顔で二人を交互に見ていた。
その日の放課後、竜平は何となくグラウンドを見に行った。
「―次、サード!!」
「ハイ!!」
ノックで守備練習をしている様だ。
そのノックを打っているのは、大輝だった。
大輝は野球センスが抜群で、性格も良い。
勉強はあまり得意ではないが、野球の事となるとすごい。
・・・キャプテンとしては申し分ない人材だ。
「次、・・・ん?」
大輝はこちらを見ている竜平に気付いた。
真剣な顔つきだった大輝はニッと笑った。
―・・・オレは別に、野球に興味を持ったわけじゃねえよ。
竜平はきびすを返し、右手をひらひらと振って帰路についた。
「ただいまー。」
自宅のドアを開けリビングのテーブルの上を見ると、何かのパンフレットが
大量に置いてあった。
一番上のパンフレットを拾い上げると、それは有名高校のパンフレットだった。
「―ハア。」
―オレがこんな良い所に入れるわけないだろ。
竜平はパンフレットを置き直した。
すると、一際目立つ黄色と赤色の配色のパンフレットが目に付いた。
「・・・ん?」
他のパンフレットを横に押しやり、そのパンフレットを読んでみた。
「・・・大輝が受ける高校か。」
それは、以前大輝が入りたいと言っていた高校だ。
スポーツが盛んで、文武両道を謳っている。
ただ謳っているだけでなく、実績も残している。
そこからプロの世界に入った者もいるし、有名大学に入った者もいる。
「・・・大輝、こんな所で勉強ついていけるのか?」
思わず一人で呟く。
すると、リビングに竜平の母が入ってきた。
「・・・竜平、帰って来たならただいまの一言ぐらい言いなさい!」
「いや、さっき言ったし・・・。」
竜平はパンフレットを投げ捨てる様にテーブルの上に置いた。
「何、やっと興味のある高校でも見つけたの?」
竜平の母は竜平が読んでいたパンフレットを拾い上げた。
「いや、別に・・・。」
竜平は顔をそむけた。
「・・・こんなにレベルの高い所に行きたいの?」
「いや、だから別に行きたいわけじゃないよ。ただ・・・。」
竜平は大輝の話をしようとしたがやめた。
「ただ、何よ?」
「いや、別に。何でもない。」
「別に別にって・・・。そうやって思っている事を言ってくれないから、
誰も竜平の事を分かってくれないのよ!?」
「だったら、母さんはオレの事が分かるのかよ?」
「・・・もう、何であなたはこう、捻くれているのかしら・・・。」
「・・・知るか。」
竜平はため息をついて、きびすを返した。
「ちょっと、どこへ行くの?」
「・・・自分の部屋だよ。」
テレビでも見ようと思ったのに、うるさくてかなわない。
そんな事を思いながら、竜平は自室がある2階へと上がっていった。
自室の白い天井を見上げながら、竜平は一人自問自答する。
―オレは何をしたい?
勉強もスポーツも、疲れるしすぐに飽きる。
習い事をちょっとした事があるが、三日坊主だった。
野球も幼い頃に少し、キャッチボール程度ならやった事があるが・・・。
ほとんど記憶に残っていない。
勉強は宿題やテスト勉強をちょっとするだけで投げてしまう。
そのせいで提出率の悪さはクラスで、いや、学年で一番だ。
テストの成績の順位は、最下位ではないが下から数えた方が早い。
体育の成績も似たり寄ったりだ。
たまには少し頑張ってみようと思う事もあるが、そういう時に限って必ず失敗する。
体育大会のリレーだって、スタートから靴が脱げて派手に転んで笑われてしまったし、
気合いを入れたテストだって、自分の名前の漢字を間違えて笑いものにされたし、
水泳教室だって、必死さのあまりその場でただ変な踊りをしているだけで、
1cmも進まなくて笑われたし・・・。
頑張って良い事なんて一つもない。
・・・そういえば、一つだけ良い事があった・・・気がする。
だけど、それが何なのかは思い出せない。
そうこう考えているうちに、いつの間にか意識が途切れた。
途中で母の声が聞こえた気がするが、目が開かなかった。
・・・とりあえずここまでは書きました。
続きはお楽しみに・・・してくれなくてもいいです。w(コラ
まあ、自己満足な部分もあるので^^
ではでは・・・ノ