♪~(メッセージ着信音)


 アプリ【ROUTE】 より 一件の着信:八月朔日


八月朔日「召集がかかった。一時間以内に来るように、だと。     文句は受け付けないそうだ」

 ……面倒臭いことになった………


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 ササユリが学校に着き中を見遣ると、捷暉が既に昇降口に立っていた。苦虫を噛み潰したような表情をしている。彼はササユリを見つけると、右眉と右手を軽く挙げ近くに招き、連絡内容を告げた。「学校図書館に集合のようだ」
「あぁ、どうも。今日も渋い表情だね」一方のササユリは同様に挨拶をし、真顔でからかう。「日光は浴びてるかい?」
「俺は渋柿じゃない」捷暉は少し眉根を下げる。「そこまで甘くもないがな」
「ところで、図書館集合ってのは、誰から?」
「こんな巫山戯た紙切れが靴棚の壁に貼ってあった。これを見る限り、図書館で間違ってない」
捷暉が掲げた紙片には、数行の文章が書いてあり、署名等は見当たらない。
『名だたる未来の英雄達よ
 素晴らしき各人の武勇伝は
 佳い選別の材料となった。
 貴殿達の煌びやかな未来への
 鮮やかな架け橋となることを
  約束し、とある試練に御招待する』
「巫山戯ているだろう?こんな馬鹿馬鹿しいことをするのは|目原<さがんばら>先生ぐらいしかいない」
「して、この各行最初の文字の縦読みで合ってるね?」
「あぁ、五十音表に即し一文字分ずつ上にずらす。実に単純で愚直だった」
「…即席で作成したんだろうね。
それでは向かおうか」彼らは連れ立ち、階段を登る。
 その階段がどのような未来に架かっているかも知らずに

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 黒い詰襟の捷暉と白いポロシャツ姿のササユリが図書館に入ると、そこには既に五人の生徒が顔を揃えていた。彼らが通う壱悟学園は制服の種類が複数あり、誰がどのように着ても文句をいわれないことになっている。四人の男子と一人の女子の服装は、ブレザー、ジャージにパーカー等と多種多様だ。黒地に紺色の線が走るトレーナーを着た、細身の男子が二人に話し掛けた。
「やぁ、君たちは?僕は雅楽代金襴、キンラって呼んでよ」
「僕はササユリ。何で呼ばれたかよく解んないけど、取り敢えず宜しく」
「八月朔日だ。はちがつさくじつと書いてはっさくと読む。宜しく頼む」二人が名乗る。その後向かって左から順に三人が名乗るが、右端の壁にもたれ掛かった男子生徒は口をつぐんでいた。捷暉が「君は?」と訊くと、
「名乗る義務は別に無いだろ」と捷暉を睨む。その時、

「無いよ。知ってるもの」
 
 突然、この場の七人以外の声が聞こえた。全員が驚きを隠せず、周りを見渡すが五人以外には誰も見えない。
「…あ、資料室の扉のとこ!」淡色のブレザーを着た女子生徒、が声を上げる。五人がいる部屋には、司書教諭しか入れないとされている部屋の扉がある。そして、扉が開くことなく、一人の女性がその場に突然現れた。

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「時にササユリ」金襴が息を整え、わざと明るく振る舞う。
「何だいキンラ」それに合わせてササユリがおどける。
「目の前に、さっきまではいなかった女の方がいるように思えるんだが…見間違いだね?」
「あぁ、そうであって可笑しく無いんだが… どうやら君のお目目に異常は無いようだよ」
「そりゃどうも。――え?」金襴は未だ信じられぬという面持ちで前方を見やる。目線の先には、先ほど現れた女性が待ちくたびれた様に立っている。好き勝手喋った金襴たちを見、白けた様子で言った。
「もう茶番劇はいい?」
「そりゃもう十分過ぎるぐらいですね」
「だったら黙ってて。皆に集まって貰ったのは、あるお願いをするためよ」
「拒否権は?」ササユリが半開きの目で尋ねる。半開きは生まれつきである。
「無いわ」
「んだよそれ。じゃあ早よ話せよ。どうせ逆らっても無駄なんだろ」先ほど自己紹介を辞そうとした、紫髪の男子生徒が吐き捨てる。
「物分かりが良いのは結構だけど、口のききかたには気をつけなさい」
「五月蝿え。まず掌を指せ」
「あんたが煩いわよ。…まあ確かにお喋りは無駄ね」そう言って女性は語り始める。

「あんたたちには、失せ物探しをして貰うわ」
……
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「詰まり、『桃太郎』の世界に行き、財宝をあるべき場所に戻す。そういうことだな?」女性の話が終わると、まず捷暉が口火を切った。対する藍色の髪の女性、|目原邁南<さがんばらまな>は
「物凄くはしょってるけど、だいたいあってる。わかった?皆」と言い見渡す。彼女のセミロングの髪には、臙脂色のメッシュが入っている。そのメッシュを凝視していた一人の男子、|八重桜林檎<やえざくらえいき>が口を開く。
「あの…俺ら行く体で話進んでるけど…安全の保証はあるんですか?」
「そうね。無いわ。」
「えぇ!?」
「勿論物語の世界は異世界だから、ちょっとやそっとの怪我なら互いに余計な干渉することは無い。だけど、あんたたちがなんかミスって死んだりしたら、私でもどうにもできない」
「命をかけるようなことをするんですか?」ジャージ姿の林檎は身震いをした。
「基本は物探しなんだから、命をかけるようなことではないわ。だけど、詳しくどこにあるかはわからないから、道中に何があるかもわからない。あと、ちょっとした噂があるしね」
「噂?」
「そう。さっきも言ったけど、『マツリ』って言って、物語の動きを滅茶苦茶にしようっていう輩共のこと。物語の世界なんてと思うかもしれないけど、そうもいかないの。変な干渉はしなくても、影響はする」
「…『マツリ』に邪魔されたら、どうするの?憐懸たちに、対処できるん?」図書委員長として活動している紅葉谷憐懸<もみじだにれんか>が質した。
「はい、流石言い質問。『マツリ』の奴らには出会わないのが一番安全だけど、もしものことを考えて、自衛ぐらいはできた方がいい。その準備をこれからして貰うわ。でも、その前に…」そう言って彼女は、
「■■■■」何かを呟いた。その途端、

  ぶちゅっ

 七人の片目が、破裂した。

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「いっだああああああああああ!痛い!痛い!」
 七人は突然のダメージに面食らっていた。
「いや!ねぇ!痛いっしょ!何が楽しくてヒトの目ん玉ぶっ潰してんですか!」何故か饒舌になったササユリがいきり立つ。
「あんた、よく喋れるわね。別に楽しくなんてないわ。同種の血飛沫眺めて楽しめる奴いたら尊敬するわよ」
「ピチュった…」今まで自己紹介以外口を開かなかった生徒、|七草婀支《ななくさあき》が呟いた。
「…これは何が目的だ」[冷静沈着]を信念とする捷暉が、眼窩から血を噴き出しながら問い質す。
「まあ、ちょっと待ってなさい。全員の出血が治まったら話すから」

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「じゃあ、話すわ。全員これで自分の顔面を見なさい」何処からか手鏡を持ち出した目原は、それを七人に手渡し指示した。
「え!?目玉が復活してる!…色も違う…!」先程潰されなかった方の眼球は、憐懸は淡い緋、捷暉はコバルトブルー、ササユリは萌葱とターメリック等と何ら変化は無い。
 然し、再生した方は、各人全て濃い紺色になっていた。

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「はい、それじゃ次ね。」
「あーちょっと待った」金襴が陽気に眉尻を上げる。「ぬぁにが『次』ですかい」
「面倒臭いわね。…今、あんたたちの視界を共有して貰えるようにしたの」
「ファ!?」
「……一瞬よ」言うが早いが、目原の双眸が煌めく。その途端、七人の視界が揺れる様に七重になり、戻った。
「もう良いわね。資料室に来なさい。」そう言って目原は、資料室の扉を開く。

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「さっき自衛ぐらいはして貰うって言ったわよね。これから武器を選び登録して貰うわ。早い者勝ちよ」
「俺は何も持ってねぇぞ。ロクなモンあるのかよ」
先程から何かと突っ掛かる少年、|御縁橄欖<みえにしおれあ>がまた睨む。
「刀が一振り」
「ならそれだ。剣道やってる俺なら遣えんことはねぇ」
「いや何で学校法人経営の付属図書館に日本刀が置いてあるんだよ!」ササユリが目を剥く。目原はそれには反応せず、憐懸の方を向いた。
「あんたは、もう持ってるでしょ?」
「何、のこと?」表情をひきつらせ少女は驚く。
「隠そうとしても無駄よ。あんたの右手、見えてるわ」
 少女は、右手の各指先に包帯を巻いていた。観念した様子の少女は、ゆっくりと包帯を外す。指先の爪には、鮮やかな赤い斑点が浮かんでいた。
「赤い、斑点?」ササユリが驚く。橄欖が何かを思い出す。
「あーそうだ。こいつドッジボールでちょっとした伝説作ってるんだよ。ササユリ、お前は確か中等部からの転入だから知らねぇだろうが。小等部にいたとき、組対抗でドッジボールをした。最初の内は、ヤツも他の女子とツルんで避けたり投げたりしてたが、あるタイミングでボールがヤツの手に当たった。普通なら掠り傷程度で済む威力だったがな、そうはいかなかった。大量の血が噴き出したんだよ。そっからヤツは人が変わったように激しく動き回り、とうとう敵チームを残り一人にしてブッ倒れた。病院に担がれてったが、そこじゃ貧血なんかじゃなく、只の疲労と判断されたらしい。倒れるまでは動く度に血飛沫が出るから、段々御本人も血塗れになってく。それを見た気が弱い女子も次々に倒れた。その惨劇後つけられたお名前が、|韓紅の妖かし女<スカーレット・レイディ>。それからだよなぁ、右指にホータイ巻くよになったのは」
「橄欖、他人の過去を矢鱈と掘り返すな」
「あ?お前のも言ってやろうか、お医者さん」
「黙れ。お前も有ろう、紫鎖」
「ケッ。…早よお前も選べよ」
「ねぇ、勝手に喋らないでよ」じれたような目原が寝目付ける。「もう私が選んでいい?ちゃんと武器に加工して上げるから」
「俺たちの性に合ってるなら問題無かろう。」
「あ、そう。じゃあ捷暉、あんた手袋持ってたでしょ?出しなさい」
「承知した」
「林檎は決まってるのね?…金襴はこれ、婀支、これね。…理由?なんとなくよ」目原がまたいくつか道具を取り出し、順に手渡す。
「ササユリ」
「はい!」
「ごめんなさい。面白いアイテムがあって…渡そうと思ってたんだけど……どっかに置いて来ちゃった。」
「え、えー!ちょっと!?皆立派に持ってるじゃあないっすか!僕だけ体術って?無理がある!空手は段持ってますけど!そんだけじゃ太刀打ち出来ないんだろうなってことぐらいは解りますよ!」再び饒舌になったササユリが喚く。
「…ということで、あんたにはコレあげるわ」そう言って目原が取り出したのは、
「単語帳?」
「安心しなさい。少なくとも範囲は高校以上よ」
「あ、あざっす……いやそうじゃない!何で!確かに単語!中学範囲はだいたい覚えたけど!この2cm×5cmに何が出来るんですか!」
「紙って、結構痛いのよ?栞で闘う殺し屋もいるんだから。それに、会うとも限らないんだし」

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 七人の目の前には、円筒状の機械が据えられてあった。「はい、この中に武器を入れて。加工するから」目原が機械の中心部の引出しを取り出し呼び掛けた。各人が先程指示された物を入れ、取り出す。林檎が不安げに尋ねた。
「外見、変わってませんけど」
「大丈夫よ、機能が追加されただけだし。てか、あんたスマホ入れたの?」
「はい。最早身体の一部ですね」
「まあいいわ。じゃああんたたち。あそこの扉を開いたら、もうスタートよ。そうだ、これも後で付けなさい」
「先生は行かないのか」捷暉が訊いた。
「無理なの。だからあんたたちに頼むのよ。…初任務、行ってらっしゃい」
「承知した」捷暉が扉を開くと、七人は光に包まれ、扉の向こうに引き寄せられた。