※これはフィクションです

地元仲間とのパーティと止まらない薬物接種はA子の怒りを加速させる。

「だって俺たち付き合ってないじゃん」

なんて一言言えれば楽だけど、居候させてもらっている身でそんなことは口が裂けても言えない。

まず、争いたくない。

DV親父とヒステリック持ちの母親のサラブレッドとして産まれた僕は親父への恐怖から自分の人格を少しでも父親に近づけまいと努力し、結果として人当たりが良く気を遣えるが信じられないほどのお豆腐メンタルとなってしまった。


人から怒られた瞬間、それ以降その人と話すときは怒った顔がチラついて機嫌を伺わないと話せない。

"優しい人でいる"ということは相手のためを思ってではなく、出来るだけ争いごとが起きないようにする為の手段でしかないのかもしれない。


ドライブ中に来た突然のお怒りラインですっかりバッドに入った僕はA子に謝罪をすると、A子は酔っ払って寝ていたようで、既読はつかなかった。

面倒事が後回しになったのでニコニコで錠剤を食べた。


こんな時に毎回思う。

みんなでジョイントでも回しながらオープンカーに乗って海沿いを走れたらどんなに楽しいだろうか。

残念ながら僕らにはそんなことをできる資金は無いので、扉から音が漏れまくる田舎の個人店のカラオケで季節外れの夏祭りを全力で歌った。


翌日、離脱感により人生で一番絶望的な朝を迎えた。

そもそも何故こんな日に朝起きる必要があったのかと言うと、隣で完全によれてダメになっている男が今日父親になるからだ。

とりあえずはケミカルの重さを紛らわすためにみんなでジョイントを回し、初対面する赤ちゃんへの期待を膨らませた。

当たり前のように退院予定時間を1時間ほど遅刻して到着すると、嫁さんと赤ちゃんが乗り込んできた。

昨日の出来事は夢だったのではないかと錯覚するほど重く絶望的な車内の空気が、"赤ちゃん"一人の存在で塗り替えられた。


生命ってすげーーー!!!って言いながら皆んなで恐る恐るちょっと触って、みんなちょっと泣いた。