・夏の思い出

 

月島伊吹はたくさんの屋台の前に立っていた。

 

夏休みの間、近所で夏祭りが開かれているのだ。

 

金魚すくいや射的、輪投げなど様々な企画が用意されていて、町は活気にあふれていた。

 

多くの友達や恋人などが見える。

 

一方、伊吹は今日は独りだ。

 

普段つるんでいる友達とは一緒に来なかった。

 

いつも一緒にいるからと言って彼女たちと気が合うという訳ではない。

 

伊吹の姿は青春真っ只中の女子高校生のように、彼女のクラスメイトの目には移った。

 

それもその筈、彼女は普通の女子高生を演じるために、誰よりも努力を積み重ねたのだから...

 

流行のファッションを取り入れたり、お洒落を研究したりと女子高生らしく過ごすための努力を怠らなかった。

 

その密かな努力は半分は報われ、半分は報われなかった。

 

伊吹は学校ではテンションが高い明るい人柄だが、それは本来の彼女ではない。

 

一見活発に見える彼女だが明るいのはほとんどうわべだけだ。

 

「空元気」という言葉がある。

 

「うわべだけ元気があるように見せかけること。」という意味だ。

 

正に彼女の普段の様子は、「空元気」と形容するのに相応しい。

 

1人でわたあめを食べていると後ろから声を掛けられた。

 

「こんなとこで何してんだ、姉貴。」

 

「大晴、テメェこそどうしてこんなところに!?」

 

彼の名前は、村上大晴。

 

伊吹と同じ太田高校に通う1年生だ。

 

現実の世界に嫌気がさしていた伊吹は、一時期ネットの世界にのめり込んでいた。

 

そこでとても気の合う友達ができたのだ。

 

2人の仲は次第に深まっていき、実際にリアルで対面しようと酔う話になった。

 

ネットは便利な反面、悪用する人も沢山いるし、実際に会ってしまって大丈夫なのだろうかと少し緊張しながら待ち合わせ場所に向かった所そこには1つ年下の青年が立っていた。

 

通っていた学校まで同じだったということを知り、運命を感じた。

 

これが2人の出会いである。

 

伊吹はそれ以来ネットの世界にはのめり込んでいない。

 

リスクを冒すのはこれが最後、そう決めたからだ。

 

大晴も伊吹と事情は違うが、日常生活に問題を抱えている。

 

自閉症スペクトラム、これが彼を苦しめている障害である。

 

発達障害の1つであるこの障害は、人とのコミュニケーションが苦手・物事に強いこだわりがあるといった特徴を持つ。

 

そのため、コミュニケーション能力が必要とされる学校という空間に適応するには苦戦を擁していた。

 

だが、そんな彼もネットの世界を通じて知り合った伊吹とはすぐに仲を深めることができた。

 

お互いがマジョリティからは外れた存在であるということは、2人だけの秘密である。

 

大多数から外れたマイノリティとして生まれてしまったら、目立つようなことをせず、マジョリティに適用しようというのは誰もが考えることであろう。

 

「今日は姉貴の誕生日なんだろ。俺が欲しいものを何でも買ってやるよ。まあ、屋台で帰る者限定だけどな。」

 

そう言って微笑む大晴に伊吹は言う。

 

「おぅ。サンキュー! でも、気持ちだけで十分だ。それとな、俺のことは兄貴って呼びな。」

 

2人は顔を見合わせて笑った。

 

その時、彼らの前を小学生くらいの男の子が通り過ぎた。

 

目には涙を浮かべていた。

 

理由は楽しい夏祭りの筈なのに友達と喧嘩をしてしまったからだ。

 

伊吹は「ちょっとトイレに行ってくる。」と大晴に告げると男の子を追いかけた。

 

追いつくと彼の心の中に入り込む。

 

「俺、いや、私があなたの不幸を減らしてやるよ。」

 

その時、心の異変にすぐに気が付いたものがいた。

 

白石梨乃である。

 

彼女もまた夏祭りに来ていたのだ。

 

暫く立ち止まってから彼女は呟いた。

 

「今日は、あの子たち来ないのね。じゃあ、あたしがやるしかないか。」

 

そう言って、男の子の心の中に入り込んだ。

 

「ミラクルフィーチャーチェンジ!」

 

彼女の身体が黄金の光に包まれていく。

 

「一瞬で決めるわよ。」、魔法少女に変身した彼女が呟いた。

 

その頃、自室でうとうとしていたほのかにセイちゃんが言った。

 

「遠くに不幸の残骸の気配を感じる。」

 

「ミラクルフィーチャーフィニッシュ!」、梨乃は魔法の弓を弾いて必殺技を放つ。

 

不幸の残骸は一瞬で光となって消え去った。

 

ほのかが男の子の心の中に到着した際には、不幸の残骸はすでに倒されていた。

 

ほのかとセイちゃんは首を傾げる。

 

セイちゃんが言った。

 

「おそらく何者かがうちらより先に不幸の残骸を倒したんだ...」

 

「私と恵理と湊音君以外の誰かが...」、ほのかは心の中で呟いた。

 

この前の闘いの後、変身を解除した3人はお互いの正体を知ったのだ。

 

そして自身がデューグリュックになった経緯や使える能力を共有した。

 

3人で協力して不幸の残骸を倒そうと誓ったのだ。

 

少し遅れて湊音と恵理もやって来た。

 

2人も不幸の残骸がほのか以外の誰かによってすでに倒されていたと聞いて驚いた表情をした。

 

手がかりもないため、その日はすぐ各々の家に帰ることにした。

 

大晴が椅子に腰かけながら祭りの演奏を聞いていると後ろから声を掛けられた。

 

振り向くと伊吹の姿がそこにあった。

 

「もう、姉貴ったらどこ行ってたんだよ。」

 

「ごめんごめん。」

 

そして2人は祭りを最後まで楽しんだ。

 

その日の終わりにはメインイベントの打ち上げ花火を2人で何も言わずに見つめた。

 

彼女たちから少し離れた場所で、1人で少し寂しそうに花火を見つめている者があった。

 

ほのかたちの中学校、レーヴェ中学校に転校してきた優等生、白石梨乃である。

 

浴衣姿の少女には、夏の花火が良く似合う...