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これ程悲しくございますまい。」
 素戔嗚は色を変へて、須世理姫を睨
にら
みつけた。が、それ以上彼女を懲

らす事は、どう云ふものか出来なかつた。
「悲しければ、勝手に泣くが好い。」
 彼は須世理姫に背を向けて、荒々しく門の内へはひつて行つた。さうして宮の階段
きざはし
を上りながら、忌々
いまいま
しさうに舌を打つた。
「何時ものおれなら口も利かずに、打ちのめしてやる所なのだが……」
 須世理姫は彼の去つた後も、暫くは、暗く火照
ほて
つた空へ、涙ぐんだ眼を挙げてゐたが、やがて頭を垂れながら、悄然
せうぜん
と宮へ帰つて行つた。
 その夜素戔嗚は何時までも、眠に就く事が出来なかつた。それは葦原醜男を殺した事が、何となく彼の心の底へ毒をさしたやうな気がするからであつた。
「おれは今までにもあの男を何度殺さうと思つたかわからない。しかしまだ今夜のやうに、妙な気のした事はないのだが……」
 彼はこんな事を考へながら、ロシア 結婚青い匂のする菅畳の上に、幾度となく寝返りを打つた。眠はそれでも彼の上へ、容易に下らうとはしなかつた。
 その間に寂しい暁は早くも暗い海の向うに、うすら寒い色を拡げ出した。

       九

 翌朝もう朝日の光が、海一ぱいに当つてゐる頃であつた。まだ寝の足りない素戔嗚は眩
まぶ
しさうに眉をひそめながら、のそのそ宮の戸口へ出かけて来た。すると其処の階段
きざはし
の上には、驚くまい事か、葦原醜男が、須世理姫と一しよに腰をかけて、何事か嬉しさうに話し合つてゐた。
 二人も素戔嗚の姿を見ると、吃驚
びつくり
したらしい容子であつた。が、すぐに葦原醜男は不相変
あひかはらず
快活に身を起して、一筋の丹塗矢
にぬりや
をさし出しながら、
「幸ひ矢も見つかりました。」と云つた。
 素戔嗚はまだ驚きが止まなかつた。しかしその中にも何となく、無事な若者の顔を見るのが、悦
よろこ
ばしいやうな心もちもした。