外国人・外国法人向けの登記業務の中で、
英語や中国語で作られた、外国の会社に関する登記事項の証明書を手にすることがあります。
このような外国の会社が日本で不動産登記・会社登記の当事者となる場合、
当該会社の、実在性、特定性、代表者の資格・氏名・代表権があること、(場合によっては代表者の押印・署名の様式も)を、日本の登記官に対し立証するため、
英語や中国語で作られた、外国の会社に関する登記事項の証明書の原本と、その日本語訳文を提供する必要があります。
どう訳すか、厳密に考えると、なかなか難しく、面白い問題を含んでいます。
最初の方に出てくる重要項目、会社名(商号)、まずこの時点でいろいろと考えてしまいます。
例として、中国語の「〇〇〇〇股份有限公司」の商号をどう訳すか、考えてみます。
「〇〇〇〇」の部分は日本語の文字を用いてそのままでいいとして、
「股份有限公司」を日本語らしく「株式会社」と訳してよいものでしょうか。
「〇〇〇〇股份有限公司」(中国語)を、
「〇〇〇〇株式会社」という日本語に訳すと、
日常的な日本語の感覚としては、しっくりくる印象を受ける人が多いかもしれません。
しかし、会社法の規定を前提とすると、疑義があります(賛否両論あろうかとは思います)。
日本の不動産や会社の登記制度は、日本の会社法も前提に運営されています。
会社法における「会社」とは、会社法の規定により日本で成立する「株式会社、合名会社、合資会社又は合同会社をい」います(2条1号)。
「会社でない者は、その名称又は商号中に、会社であると誤認されるおそれのある文字を用いてはならない。」という規定もあります(7条)。
「株式会社」とは、会社法25条~103条の規定により日本で設立された会社です。
すると、外国で設立された「〇〇〇〇股份有限公司」は、
日本の会社法の「株式会社」には、当たらないことになりそうです。
また、「(会社法7条の)規定に違反して、会社であると誤認されるおそれのある文字をその名称又は商号中に使用した者」は、「100万円以下の過料に処する」(会社法978条2号)という、何とも恐ろしい規定もあります。
この過料制裁が実際に発動するかどうかは裁判所の判断によりますが、
依頼者の利益のためには、過料に該当するおそれがあることは、
過料発動の見込みが薄くとも、極力最初から避けておくべきです。
そこで、私が日本での登記申請のために訳文を作成する場合は、
「〇〇〇〇股份有限公司」の「股份有限公司」部分は、そのまま「股份有限公司」と訳文に反映するようにしています。
もっとも、個別の事案において「株式会社」と翻訳されている場合であっても、登記官の審査において、趣旨は十分に伝わることから不相当な翻訳との評価を受けなければ、
申請された登記が訳文の不備を理由に補正や却下の対象とはならず、登記手続が順調に進む例もあり得るとは思います。
実際、日本で登記された外国会社の日本語の名称に「株式会社」がついている例もあり、現実的にはあまりこだわる実益はないところかもしれません。
法律実務家としては、外国の会社・法人の日本語訳文が、会社法の規定に照らし相当であるか否かも考慮しつつ登記の添付書面をチェックするべきであるとの考えに基づき、執務にあたっています。
司法書士 山口岳彦