母が旅立つ前に、

少しでも食べたい物を

食べさせてあげたいと思いました。


あと何回食事ができるだろう、と思いながら

少しでも何か食べられるかしら、と思いながら


その前日に

「牛すじの煮込みを売っていた屋台があって

美味しそうだったな」という思い出話を

聞いたので


牛すじを買いに行き、

圧力鍋で煮て

甘辛く味付けしたものと、

しないものを作りました。



八百屋さんで

「甘い」と書いてあったトマトと

母の好きな苺と

甘そうな柑橘の果物を買って


パン屋さんで

コーヒー牛乳と、

コロッケパンと

あんこクリームのパンを買って


スーパーで

母の好物の筋子を買って。


昼に母の所に着いたので、

妹と私で、母のベッドの側で

一緒に昼ごはんを食べました。


この日のこれが、

最後の家族揃っての食事でした。


コロッケパンとあんこクリームパンと

コーヒー牛乳とトマトを用意したら

「うーん、なんか違うな」

とトマトは気に入らず、


コーヒー牛乳を

「美味しい、コーヒー牛乳大好き」

とストローで50ccくらい飲んで


パンは一口も食べられませんでした。

コロッケパンも、

あんこも大好きなのにね。


食べられなかったパンを

捨てるのかと心配していたので

「私が食べる」と言ったら安心していました。


夕飯には、楽しみにしていたので

私が作った牛すじの煮込みを

食べさせたら


「…なんか違う…味付けてない方に

お醤油かけて、七味かけてくれる?

そしたらご飯食べられそう」と

いうので

醤油と七味をかけた牛すじを食べさせたら


「うーん、これはこれで

コンビーフみたいだけど、なんか違う」

「えー、そうなの?ダメだった?(苦笑)」

「うん、悪いわねーもういいや

お腹いっぱいになっちゃうから

薬のもうかな」と


この日最後の薬を飲んで

まずいまずいといいながら

リーバクトゼリーを食べて


口直しに、ほんの小さな苺を1粒半だけ

小さく切ってあげたのを食べて


これで母の人生最後の食事はおしまいでした。


この後意識がなくなって、

眠って過ごすことに

なりました。


「やだなー」っていいながら

たくさんの薬を飲む母に、

もう薬なんか飲まなくていいよって

すごく言いたかったけど

回復するつもりの母に

そんなことは言えなかった。



母の好物の筋子も

甘い柑橘の果物も

結局

私と妹で食べました。


妹は私の作った牛すじの煮込みを

「これ、すごく美味しいけど…

お母さん気に入らなかったんだね」

といいながら、

たくさん食べてました。


人には迷惑をかけたくないという母で

最後の最後まで、

自分でできることはやって

やり切って行った母ですが


私にだけは、

結構ワガママをしっかり言って

体調を崩して

私をちょっとだけ困らせて


私はその度に

「やってくれるじゃん」となんだか笑えてきて

介護や、看護や、看取りということを

学ばせてもらえているんだなあと思いました。


ワガママも全然嫌じゃなかった。

楽しかった。


母の人生最後の食事は

牛すじの煮込みを二口と

苺1粒半でした。

牛すじはお口に合わなかったみたいですが、

苺を食べたからいいかな。


(母の棺に苺を入れました)