動物病院には野生の鳥が連れてこられる事もたびたびあるのですが、
その中には、その"保護"ってどうなの?
と言いたくなる様な場合も含まれていたりします。

中でも昔、「それどうなの?」と言いたくなったのが、
「タカにおそわれていた鳥を"保護"して連れて来た」
という症例です。

話を聞いてみると、車で通りがかったところ、
おそわれている鳥と同じくらいの大きさのタカが、
ハトを襲っていたという事で、
車を降りてあわてて駆け寄ってみると、
タカはビックリして逃げて行ったとのことです
(近くに避難して様子をうかがっていたかもしれないですが)。

残された鳥を見ると、どうやら怪我をしているので
(タカにおそわれたので当たり前ですが)、
かわいそうということで動物病院に連れて来たという事でした。

人間は怪我をしていてかわいそうと思ったかもしれませんが、
タカの側から見れば、完全な「獲物の横取り」です。

タカが獲物を捕まえて食べようとしていたのであれば、
そのまま放っておいてあげて下さいよと言いたいところですが、
それにしてもかわいそうなのは、いきなりやって来た人間に、
横から獲物をさらわれてしまったタカの方です。

体と頭にざっくり大きな傷がありましたので、
手当をしても助からず、そのまま亡くなってしまいました。

その症例で通りがかった人がどうするべきだったかと言えば、

なにもせず、そのまま通り過ぎてタカの食事を邪魔しない

という事であったと思います。

冬場の辛い時にせっかくやっとの思いで捕まえた獲物なのに、
それを取り上げられると言うのは、タカにとってはずいぶんひどい事です。

食物連鎖の中で自然に起こっている事については、
人間は手を出さない、というのが一番だと思います。
猛禽類におそわれている動物を見つけるたびに、
捕食を妨害して、おそわれている動物を助ける事が正しい事かと言えば、
言うまでもなく、自然の摂理を無視している正しくない行為です。

もちろん、人間が車ではねてしまったなどというのであれば、
人間社会にとっての罪滅ぼしのためにも積極的に保護をするべきだと思いますが、
そうでない場合は、なるべく介入するべきではないと思います。

おそわれているからかわいそう、と言って獲物を取り上げてしまうと、
タカにたいしては、そちらの方がかわいそうです。

タカにやられておそわれている場合、
爪で握られていれば、それでもう致命傷をもらっている場合が多いですし、
それを取り上げる事により、今度は逆にタカが餓死してしまう可能性もあります。

また、獲物を取り上げられたために、
タカが今度は別の鳥を捕まえて食べるということになれば、
死ななくてすんでいた別の鳥が捕らえられて死んでしまう、
ということを意味しています。

明らかにおそって食べていたのを横取りする、というのは論外ですが、
僕としては、基本的には、
冬、野外で弱っている動物がいたとしても、
交通事故などでなく自然に弱っているのであれば、
そのまま自然に任せておく方が好ましいのだと思います。

なぜなら、自然状態では、その動物はたとえ死に至ったとしても、
その死は無駄になる事はないからです。
死んだあと、そこに残された亡きがらは、
他の鳥やキツネ、タヌキなどの食料となります。

冬場は、どの動物にとっても、食料を見つけるという事は大変な時期です。
そのまま放置されていれば、貴重な冬場の食料として、
他の動物達の命をつなげるための命の糧となります。

それをそこから持ち去ってしまうと、
それを食べる事により救われたはずの別の命が失われる、
ということにもなり得ます。

もちろん状況により、動物の種類により、一概に言える事ではありませんが、
野外で野生鳥獣を見つけた場合は、
その鳥獣を保護するということによりどうなるのか、
保護しなかった場合はどうなるのか、
ということをよく考えてから、保護した方が良いのだと思います。

※動物と飼い主さんの設定と描写には、修正を加えています。
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