外国支社に勤務して三年が経とうとしている。
一週間前、幼稚園から高校までの幼馴染のAが、出張がてら僕の働くワシントンに遊びに来るという知らせを受けた。
Aとは今日の夜、食事を一緒に摂ろうということになっている。
軽めの昼食を済ませて、デスクに戻った僕の元に、同僚のトニーが何やら袋を持ってやってきた。
トニーは笑顔で「欲しいか?」と言いながらその袋を俺に見せてきた。
四角く細長いウエハース状のお菓子。その個包装には“サラバンド”というカタカナの文字。
昭和チックなレタリングが懐かしくて、興奮のあまり強引に個包装を破った。
そいつをパキッと半分ほど齧る。
口には甘くねっとりとしたクリームと、クッキーとも煎餅とも言えないような皮の風味が一気に広がった。
懐かしい。
学校帰りAのうちに行った時、よくAの祖母がおやつにこいつを出してくれたのを思い出した。
中学生に上がった頃、反抗期だった僕達は出してもらったおやつを無視してコンビニにカップ麺を買いに行った。
その時の茶受け皿にこいつも並んでいたような気がする。
高校時代、夜遅くまでテスト勉強をして、暗闇の台所、お菓子箱から探りあてて、無心に何袋も食べ続けたのもこいつだった気がする。
後から聞いた話、会社の受付で僕の部署を探していたAのそばをトニーが偶然通りかかったらしい。
Aは僕に渡して欲しいと、こいつをトニーに託したそうだ。
Aなりのちょっとしたサプライズだったようだが、とてもシュールで笑ってしまった。
「おかえり」の味、懐かしい味、思い出の味。
僕にとってのこの味はちょっとした故郷であった。