日曜日は参議院選挙の投票日でした。
この選挙についていくつか頭の体操をしてみたいと思います。
まず、選挙では必ずといっていいほど問題になる 『一票の格差』についてです
日曜日に選挙が終わったばかりですが、早速月曜日には、選挙無効を求めて弁護士が裁判所に訴えを起こしました。 (時事ドットコム )
原告の金尾哲也弁護士らのグループは、「・・・参院の議員定数は人口比で配分されておらず、選挙権の平等に反すると主張している。・・・全国民に平等に配分された議員が国会に出るべきだ」と述べた。
有権者あたりの議員数が等しくなければ、憲法第14条に定められた「法の下の平等」に反する、というのが、原告の弁護士グループの主張です。
憲法第14条
1.すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
実際、どのくらいの格差があったかというと、総務省に有権者数の一覧 があります。
北海道 定数2 有権者数 4,623,468人
鳥取 定数1 有権者数 489,825人
格差 (4,623,468÷2)÷(489,825÷1) ≒ 4.72倍
自分の一票が「軽い」と言われたら、誰でも良い気分はしませんし、議員から見れば重要ではないということなので、政策などで不利な扱いをされかねず、問題です。
では、実際のところ、選挙区によってどのくらい「議員を選ぶ力が」が違っていたのでしょうか?
1.比例区をあわせて考える
投票にいった人にはご存じのとおり、参議院選挙では都道府県ごとの選挙区の他に、全国区の比例代表にも投票できました。この2票をあわせたものが、その人の「総選挙力」であったと言えます。この「総選挙力」で比較してみたらどうでしょうか?
比例区の定数は48人、都道府県ごとの選挙区の定数は合計73人です。
全国の総有権者数は101,236,029人でしたので、北海道の百万人あたりの「総選挙力」は
(2÷4,623,468+48÷101,236,029)×1,000,000 ≒ 0.907
同じく、鳥取の百万人あたりの「総選挙力」は
(2÷489,82+48÷101,236,029)×1,000,000 ≒ 2.516
です。(鳥取県には百万人もいませんが)
そして、「総選挙力格差」は
2.516÷ 0.907≒2.77 倍
となり、4.72倍よりずっと安心できる(?)数字になります。
さて、4.72倍と2.77倍という2つの格差がでてきました。実際に問題にすべき数字はどちらでしょうか?
こういう場合、極端なケースを考えることが、数字の意味を探る手がかりになります。
たとえば、比例区の定数が100万人だったらどうでしょうか?
都道府県ごとの格差は4.72倍のままですが、「総選挙力格差」はほぼ解消しますし、(参議院は半数ずつ改選されるので)200万人の参議院議員のなかで、都道府県選挙区で選ばれた146人の議員など、ほとんど誤差でしかなく、その格差などどうでもいいでしょう。
つまり、問題にすべきは「総選挙力格差」の2.77倍の方です。
2.選挙区の定数の違いは無視していいの?
都道府県ごとの選挙区は、東京の定数5人、大阪、神奈川の定数4人もあれば、31の選挙区では定数1人です。
定数あたりの有権者数という尺度で比較することは、とりあえずのチェックとしては意味があるでしょう。
しかし、それは「選挙力」そのものと言えるでしょうか?
ここからはある程度前提条件を考える必要がでてきます。
今回の選挙では、民主党が壊滅してしまいましたが、少なくとも前回までは、「二大政党制」、つまり、自民党と民主党が選挙で政権を争う、というシステムにするんだ、と言われていました。
たとえば、政党A、B、C、D、Eがあるとして、AとBはだいたい35%くらい、C、D、Eは10%くらいの支持があるものとします。
その時の状況によって、実際の得票数はこの±数%だとして、各政党の選挙対策委員長になったつもりで各選挙区をみてみましょう。簡単のため、「一票の格差」はないものとします。
まず、定数1の場合、AかBどちらかの政党が議席を獲得します。31ある1人区が一色に染まると、31議席がAとBで行ったり来たりしますから、1人区の状況が「政権交代」につながります。政党A、Bにとって、超重点選挙区と言えます。
定数2の場合、まあよほどのことがなければ、Aが1議席、Bが1議席を獲得し、常に「無風区」となります。
選挙だけを考えたら、どうでもいい選挙区です。
定数3以上の場合、マイナー政党が議席を獲得するチャンスが出てきます。C、D,Eにとっては、候補者を立てる価値がある数少ない選挙区です。
A、Bからすると、複数候補を擁立するか判断が難しい選挙区です。上手くすると2議席を獲得できますが、下手をすると共倒れでC,D,Eに議席を奪われてしまいます。複数とれそうな場合は重点選挙区、そうでなければ候補を1人に絞って、放っておいて大丈夫な選挙区となります。
定数ごとに有権者がどの程度の「選挙力」をもつか考えてみましょう。
定数1の選挙区にいる人は、政権を左右できる、大きな「選挙力」を持っています。ただし、マイナー政党支持者は常に妥協を強いられます。
定数3の選挙区は、A、Bが複数候補を立てた場合、政権交代に対して、定数1の選挙区と同程度のインパクトをもちます。有権者数が3倍なので、一人当たりの選挙力は1/3です。
複数候補を立てない場合は、A、Bの候補は確実に受かり、残りの議席をマイナー政党である政党C、D、Eから、選べるだけです。
もっとも悲惨なのは2人区の有権者です。彼らの選挙力は事実上ゼロです。
つまり、「一票の格差」が無くても定数の違いにより「選挙力の格差」は残ります。
ここで一つパラドックスがおこります。
定数2人の選挙区を定数1に削減すると、「一票の格差」は2倍に開いてしまいますが、「選挙力格差」の方は、ゼロ分の1の無限大から、2に改善します。
3.選挙制度はいろいろあります
たとえば、「頭の体操」としてアメリカの大統領選挙をみてみます。
アメリカ大統領選挙は、各州の有権者が「大統領選挙人」を選び、選挙人が大統領を選びます。ただし、選挙人は事実上誰に投票するか事前に決まっているので、「オバマに入れる人」に投票するのは、オバマに投票するのと何も変わりません。大統領選挙人は、各州ごとに上下院の議員数と同数が割り当てられます。
おもしろいのは、ほとんどの州で、「勝者総取り方式」つまり、カリフォルニア州でいえば、共和党か民主党のどちらか勝った方が、55人の選挙人を独占して、負けた方は0人だということです。
一見、これは非常に不公平なように思います。49%の有権者が共和党に入れても、51%が民主党に入れたら、49%の意見は無視されてしまうのです。
ですが、「選挙力」という観点ではどうでしょうか?
大統領選挙人の総数は535人ですから、もしカリフォルニアを落とせば、10%以上の票を失うことになります。大統領候補から見て、カリフォルニアはどうしても落とせない選挙区となり、自然、カリフォルニアは政治家に重視されます。
もしこれが、有権者投票に比例した選挙人を割り当てる制度であれば、カリフォルニアの「選挙力」は数分の一に落ちてしまいます。
民主党、共和党、それぞれの支持者からしたら、少しでも自分の贔屓の党に票を入れたいところですが、あえて同じ「カリフォルニア人」として同盟を結び、勝者総取り方式とすることで、自分たちの「選挙力」を高めているとも言えます。
(現実的かどうかは別として)日本の2人区も「勝者総取り方式」として、常に2人の候補セットで選ぶことにした方が、「選挙力」があがるかもしれません。
4.「一票の格差」だけみていてもダメ
「定数あたりの有権者数」は、選挙の公平性の一つの一つの指標ではありますが、万能ではありません。
杓子定規に「○.○倍なら違憲で選挙は無効だが、△.△倍ならセーフ」、というのではダメです。
また、いろいろな角度から「選挙力」を考えることで、より地域の実情にあっていながらが、公平性の高い選挙制度を考えることもできるかもしれません。
この選挙についていくつか頭の体操をしてみたいと思います。
まず、選挙では必ずといっていいほど問題になる 『一票の格差』についてです
日曜日に選挙が終わったばかりですが、早速月曜日には、選挙無効を求めて弁護士が裁判所に訴えを起こしました。 (時事ドットコム )
原告の金尾哲也弁護士らのグループは、「・・・参院の議員定数は人口比で配分されておらず、選挙権の平等に反すると主張している。・・・全国民に平等に配分された議員が国会に出るべきだ」と述べた。
有権者あたりの議員数が等しくなければ、憲法第14条に定められた「法の下の平等」に反する、というのが、原告の弁護士グループの主張です。
憲法第14条
1.すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
実際、どのくらいの格差があったかというと、総務省に有権者数の一覧 があります。
北海道 定数2 有権者数 4,623,468人
鳥取 定数1 有権者数 489,825人
格差 (4,623,468÷2)÷(489,825÷1) ≒ 4.72倍
自分の一票が「軽い」と言われたら、誰でも良い気分はしませんし、議員から見れば重要ではないということなので、政策などで不利な扱いをされかねず、問題です。
では、実際のところ、選挙区によってどのくらい「議員を選ぶ力が」が違っていたのでしょうか?
1.比例区をあわせて考える
投票にいった人にはご存じのとおり、参議院選挙では都道府県ごとの選挙区の他に、全国区の比例代表にも投票できました。この2票をあわせたものが、その人の「総選挙力」であったと言えます。この「総選挙力」で比較してみたらどうでしょうか?
比例区の定数は48人、都道府県ごとの選挙区の定数は合計73人です。
全国の総有権者数は101,236,029人でしたので、北海道の百万人あたりの「総選挙力」は
(2÷4,623,468+48÷101,236,029)×1,000,000 ≒ 0.907
同じく、鳥取の百万人あたりの「総選挙力」は
(2÷489,82+48÷101,236,029)×1,000,000 ≒ 2.516
です。(鳥取県には百万人もいませんが)
そして、「総選挙力格差」は
2.516÷ 0.907≒2.77 倍
となり、4.72倍よりずっと安心できる(?)数字になります。
さて、4.72倍と2.77倍という2つの格差がでてきました。実際に問題にすべき数字はどちらでしょうか?
こういう場合、極端なケースを考えることが、数字の意味を探る手がかりになります。
たとえば、比例区の定数が100万人だったらどうでしょうか?
都道府県ごとの格差は4.72倍のままですが、「総選挙力格差」はほぼ解消しますし、(参議院は半数ずつ改選されるので)200万人の参議院議員のなかで、都道府県選挙区で選ばれた146人の議員など、ほとんど誤差でしかなく、その格差などどうでもいいでしょう。
つまり、問題にすべきは「総選挙力格差」の2.77倍の方です。
2.選挙区の定数の違いは無視していいの?
都道府県ごとの選挙区は、東京の定数5人、大阪、神奈川の定数4人もあれば、31の選挙区では定数1人です。
定数あたりの有権者数という尺度で比較することは、とりあえずのチェックとしては意味があるでしょう。
しかし、それは「選挙力」そのものと言えるでしょうか?
ここからはある程度前提条件を考える必要がでてきます。
今回の選挙では、民主党が壊滅してしまいましたが、少なくとも前回までは、「二大政党制」、つまり、自民党と民主党が選挙で政権を争う、というシステムにするんだ、と言われていました。
たとえば、政党A、B、C、D、Eがあるとして、AとBはだいたい35%くらい、C、D、Eは10%くらいの支持があるものとします。
その時の状況によって、実際の得票数はこの±数%だとして、各政党の選挙対策委員長になったつもりで各選挙区をみてみましょう。簡単のため、「一票の格差」はないものとします。
まず、定数1の場合、AかBどちらかの政党が議席を獲得します。31ある1人区が一色に染まると、31議席がAとBで行ったり来たりしますから、1人区の状況が「政権交代」につながります。政党A、Bにとって、超重点選挙区と言えます。
定数2の場合、まあよほどのことがなければ、Aが1議席、Bが1議席を獲得し、常に「無風区」となります。
選挙だけを考えたら、どうでもいい選挙区です。
定数3以上の場合、マイナー政党が議席を獲得するチャンスが出てきます。C、D,Eにとっては、候補者を立てる価値がある数少ない選挙区です。
A、Bからすると、複数候補を擁立するか判断が難しい選挙区です。上手くすると2議席を獲得できますが、下手をすると共倒れでC,D,Eに議席を奪われてしまいます。複数とれそうな場合は重点選挙区、そうでなければ候補を1人に絞って、放っておいて大丈夫な選挙区となります。
定数ごとに有権者がどの程度の「選挙力」をもつか考えてみましょう。
定数1の選挙区にいる人は、政権を左右できる、大きな「選挙力」を持っています。ただし、マイナー政党支持者は常に妥協を強いられます。
定数3の選挙区は、A、Bが複数候補を立てた場合、政権交代に対して、定数1の選挙区と同程度のインパクトをもちます。有権者数が3倍なので、一人当たりの選挙力は1/3です。
複数候補を立てない場合は、A、Bの候補は確実に受かり、残りの議席をマイナー政党である政党C、D、Eから、選べるだけです。
もっとも悲惨なのは2人区の有権者です。彼らの選挙力は事実上ゼロです。
つまり、「一票の格差」が無くても定数の違いにより「選挙力の格差」は残ります。
ここで一つパラドックスがおこります。
定数2人の選挙区を定数1に削減すると、「一票の格差」は2倍に開いてしまいますが、「選挙力格差」の方は、ゼロ分の1の無限大から、2に改善します。
3.選挙制度はいろいろあります
たとえば、「頭の体操」としてアメリカの大統領選挙をみてみます。
アメリカ大統領選挙は、各州の有権者が「大統領選挙人」を選び、選挙人が大統領を選びます。ただし、選挙人は事実上誰に投票するか事前に決まっているので、「オバマに入れる人」に投票するのは、オバマに投票するのと何も変わりません。大統領選挙人は、各州ごとに上下院の議員数と同数が割り当てられます。
おもしろいのは、ほとんどの州で、「勝者総取り方式」つまり、カリフォルニア州でいえば、共和党か民主党のどちらか勝った方が、55人の選挙人を独占して、負けた方は0人だということです。
一見、これは非常に不公平なように思います。49%の有権者が共和党に入れても、51%が民主党に入れたら、49%の意見は無視されてしまうのです。
ですが、「選挙力」という観点ではどうでしょうか?
大統領選挙人の総数は535人ですから、もしカリフォルニアを落とせば、10%以上の票を失うことになります。大統領候補から見て、カリフォルニアはどうしても落とせない選挙区となり、自然、カリフォルニアは政治家に重視されます。
もしこれが、有権者投票に比例した選挙人を割り当てる制度であれば、カリフォルニアの「選挙力」は数分の一に落ちてしまいます。
民主党、共和党、それぞれの支持者からしたら、少しでも自分の贔屓の党に票を入れたいところですが、あえて同じ「カリフォルニア人」として同盟を結び、勝者総取り方式とすることで、自分たちの「選挙力」を高めているとも言えます。
(現実的かどうかは別として)日本の2人区も「勝者総取り方式」として、常に2人の候補セットで選ぶことにした方が、「選挙力」があがるかもしれません。
4.「一票の格差」だけみていてもダメ
「定数あたりの有権者数」は、選挙の公平性の一つの一つの指標ではありますが、万能ではありません。
杓子定規に「○.○倍なら違憲で選挙は無効だが、△.△倍ならセーフ」、というのではダメです。
また、いろいろな角度から「選挙力」を考えることで、より地域の実情にあっていながらが、公平性の高い選挙制度を考えることもできるかもしれません。