ある祝日の日。


飲食店で勤務する私、いつものように仕事をしていた。

仕事に追われ、いっぱいいっぱいになった瞬間があり。

外を見て一旦落ち着こうと頭を上げた。


窓の外には公園がある。

そこでイベントをしていた。


キグルミがウロウロ歩いていて、それを眺めていると、

目の前に男の人が現れた。


その人を何となく見てみると、、、


下岡先生だった。



驚き過ぎて、思わず変な声が出た。

窓が開いていた。


声に気づいたか、彼はこちらを見た。


そして「おっ!」という感じで驚いた素振りを見せた。


昔と変わらないリアクションだった。



彼とは20歳くらいの頃、ふとしたことで気まずくなった。

それから彼が結婚し、連絡が取れなくなった。


以来5年ほど、連絡を取らないでいた。

彼を見掛けることはあったけど、彼は気づいていない。

そんな5年間だった。


この先、会うことがあっても話すことはないんだろうし、

無視されるのかも知れないとさえ思っていた。


だから昔と変わらない彼のリアクションが妙に嬉しかった。



この時は私が再び仕事に戻り、気づけば彼はいなかった。


話すことはなかったけど、お互いの存在に気がついた。


次というものがあるかは分からないけど、何だか嬉しかった。


秋。

ようやく仕事が決まった。

喉から手が出るほど欲しかった、正社員の仕事。


短大時代にとった資格を使える職場。


次に辞める時は、寿退社だ!

そう思いながら仕事を始めた。


ある日のこと。

彼氏との約束を蹴って、私と会ってくれようとした絵美。
デート3日前に彼へ連絡して、そうしてくれようとしたのに、
ギリギリになって「彼に言いだせなかった」ということで、

話は流れた。


大事な用事があったわけじゃないからいいけど、

言いだせなかったというか、言いださなかったんじゃない?


「また別の日に相手してあげるから」という、

よく分からない上から目線にイラっとした。


そんな些細なことにイラッとする自分に、

余裕がないなあと思いながら、考えてしまった。


友達と彼氏の優先順位。


別に彼氏と会うのは自由だけどさ。

彼氏と友達を天秤に掛けられて、彼氏を取られると、凹む。

まあまた機会はあるけど。


智世は私と同じように彼氏がいない。

仕事第一、でも人付き合いはいい。

時々私を誘いだしてくれる。



本当は、絵美と会う日、先輩のことを相談しようとしてた。

一歩前へ歩き出すべきか、目の保養に留めておくか。


絵美の意見を採用するってわけじゃないけど、参考程度に。


だけど、もういいやって思った。

先輩に惚れたことも、黙っておこう。



って。

いつも絵美と会えば私がせっせと車を出す。

彼女は車を持っていないし、ペーパードライバーだから。


彼女に誘いを掛けるのは私からが多いけど、

その分、色々計画して、いろーんな場所へ連れ出すのも私。


彼女が「○○へ行きたい」とか食べたいとか、

そんなことを言った時、リサーチするのも連れて行くのも私。


車のない彼女と会う時、彼女の送迎までするハメになる。

そういう所は甘え上手な子だから。

うちから彼女の家まで車で1時間くらいかかるのに、

わざわざ迎えに行くことになる。



私から誘いを掛けた分には仕方ないのかもしれないけど、

あれだけ色々とやっても、

彼女からしたら「相手してあげてる」っていう解釈なのか。


バカバカしい。


しばらく絵美と距離を置くことにした。

先輩に車を整備してもらった後。

色々と考えながら家路に着いた。


ふと気がついた。


私、先輩というものに恋をしたことがないな。

そもそも同世代とか同級生にどうこうってのもないな。

憧れたことがなかったわけではないと思うけど。

でも憧れから恋へ発展することがなかった。

大人になった今も。


先輩と同じ部活にいた頃は、殆ど話したことがなかった。

けれど、話しやすい人で、何だか楽しかった。

もっと話したかったなぁ。


初恋も、その次も、先生が好きだったっけ。

先生フェチではなく、好きになった人が先生だっただけ。



って私、何でこんなことを考えてるんだろ?



と我に返る。


前に先輩と再会してから、やたら先輩のことが気になる。

店に行くと、先輩を探し、ふと目で追ってしまう。

話す機会があればいいなぁ、なんと思う。

どうしてだろう、今までこんなことはなかったのに。


この時、初めて自分の気持ちが分かった。



私、先輩のことが好きだ。



村山先生のことをモヤモヤ考えてしまう自分がいて、

「好きなだけ思い出してしまえ月間」を制定してたのに、

それが終わらないうちに、先輩。


これでいいのか?と思う自分。

やっと他の誰かを好きになれたと安心する自分。


何だか複雑で、何となく遠回りをして家に帰った。

いつもの車屋さんでオイル交換をしたら。

例の中学の時の先輩がやってくれた。

とても丁寧に、言葉を選んで分かりやすく話してくれた。


その後、異音がする箇所を直してもらって、

直ったかどうか、2人で走って確かめた。

遂に… 愛車の後部座席に、男子が初めて乗車。

先輩が巨体過ぎて、助手席には乗れませんでしたとさ。

しかも、初めて自分の車で異性とドライブ(私の運転で)。
ドキドキだったなぁ。
7月26日は異性とドライブ記念日。 

ま、5分くらいだけど。

ドライブしながら、今しかない!と思って、聞いてみた。

私「あの、○○中学校でしたよね?」
先「そうです。何で知ってるんですか?」
私 「○○部でしたよね?私も実は少しだけ部にいて」
先輩「そうなんだ!○○は…女の子がするモンちゃうよな…」
楓 「痛いですしね。そういえば今は○○されてないんですか?」
先輩「うん。高校までだね」

こんな会話をした。
残念ながら覚えられてはなかった。
でも。
整備も会計も終わって、別件で保険の担当者を待ってたら。
まだいたのか!ってビックリしたんだろうね。
先輩が「お会計済んでますか?」って気にかけてくれた。

ふと思ったけど。

前の行きつけの車屋さんにいた、好みのお兄さんとは、

3年くらい顔なじみだったのに、
しかも3年くらいずーっと気になってたのに!

考えたらプライベートな話とか、全くもってしたことがない!
今日暑いですね、的な話もした記憶がない!
オイルがどうだ、異音がどうだ、の話しかしたことがない!
あんなに好きなのに(まあ目の保養的なノリもあるけど)だ!

どんだけ奥手だ自分。

それなのに何故先輩にスルスルと話しかけ、ドライブまでできたのだ?

謎。

新しく「行きつけ」にした、車屋さん。

以前その経緯を綴ったけれど。


実はそのお店、中学時代の先輩がいることに気付いた。

わたわたと働く整備士さんの中に、彼はいた。


小・中学時代の1つ年上の先輩。


私がいた中学はマンモス校。

先輩はおろか、同級生でも全く知らない人が多々いた。


そんな中で、何故先輩のことを覚えていたかと言うと…

少しの間だけ同じ部活だったことがあったから。


運動音痴の私が、運動部に入り。

しかも女子は1人。


ま、数ヵ月後には退部するんだけども。

その数ヶ月の間、同じ部活だった先輩。

好きとか思ったことはないけど、いつも真剣に練習していた。

その姿を覚えてる。

顔は全く変わってなくて、すぐに分かった。



車屋さんには整備士さんが何人もいて、

美容室みたいに指名制でもなくて、先輩と関わりがなかった。


でも、大人になり、コツコツと仕事をしている先輩を見て、

昔と変わらず黙々と取り組む姿を見て、何だか感慨深かった。

親かよ!っていうツッコミが入りそうだけど。


高卒で働いていれば、私も社会人7年目なのか。


作業をする先輩を遠巻きに見ながら、ふとそんなことを思った。

久し振りに、いずみとランチをした。


結婚することになったいずみと、あれこれ長話。


その帰りのこと。

いつものルートで家路に着いたら、村山先生と同じ車を見た。

ナンバーを見るのが癖だけど、その時はナンバーが見えず。


サングラスをかけていたこともあり、そっと運転席を見た。


彼そのものだった。



時々、会いたいなとは思っていた。

好きとかどうとかではなく、先生として。

仲良しだったし、懐かしいなと思って。


でもこうして不意打ちで会うと、何だかドキドキしてしまう。

どんな意味合いのドキドキかは、一言で言えないけれど。



彼はきっと私が彼を見るより早く、私だと気づいていたんだろう。

私が彼を見た時、私の車を思いっきり見ていた。



彼には、いろんなことを相談し、弱音を吐きまくってきた。


私が弱さを強さに変えられる人ならば、

笑顔で乗り切れる人ならば、

今はまた結果が違ってたかな?


なんて思ってみたりする。

彼の前でいつもニコニコ元気に振る舞ったなら、どうだっただろう?

今の状況もまた違ってたかな?


ま、今更だけどね。

仕事が決まらず、好きな人もいない。

そんな25歳。


仕事か恋か、せめてどちらかうまくいってもいいものだけど。

甘くない。



絵美が仕事を辞めて地元へ戻ってきた。

有給消化で、しばらく遊んで暮らせる絵美。

実家住まいで、彼氏も傍にいる。


素直に羨ましい。


体調を崩しながらも頑張ってきた絵美。

こうして戻ってきたことは、ご褒美かも知れない。


会えば、彼と早く結婚したいと話す。

幸せそのもの。


頑張ってきたからこその、今の幸せ。

大切な友達が幸せでいるということは、嬉しい。



けど。

自分に余裕がなくなると、それが少し妬ましい。

人の幸せを素直に喜んであげられなくなる。

私だけだろうか?


彼氏との話を聞く度、腹立たしかった。


「杏にも誰か紹介してもらおう!」ってあれだけ言ってたのに。

結局何も起こらない。


社交辞令だろうと思ってはいるけれど、気にはなる。


自分だけが幸せならそれでいいんだね。

ちょっと皮肉りたくなる。


勿論、口には出さないけれど。

私自身にもっと余裕があったなら、思わないことだから。

煮詰まり過ぎてこんなことを思ってしまうんだろう。


イヤなヤツだな、私。



と思っていたら。


ある日、絵美からメールが来た。


またそのうち、ハローワークに連れてって欲しい。


私、明日行くけど、一緒に行く?


そう返すと、明日はデートだから今度ね!と言われた。



何だかちょっとイラッとしてしまった。


別にデートするのはいいけどさ。

ハローワーク、絵美の家の最寄り駅から電車で行けば、

乗り換えもなくスッと15分で行けるのに。

絵美は車がなく、私も行くと思って声を掛けただろうけど、

どう考えても自力で行った方が速い。


頼られるのは嫌いじゃないけど。



ふと冷静に考える。

私もかつては絵美と同じような苦労をしながら頑張ったのに。

なのに何故私には幸せが訪れないんだろう。


辛くても、誰も助けてはくれなかったのに。

誰かに傍にいて欲しいと思ったけど、誰もいなかった。


のに何で、この子はこんなに恵まれてるんだろう。


考えても仕方ないけど、ズルイ。



私って何なんだろう。

余計に考えてしまった。

車に乗り始めた当初から通い続けた、車屋さん。

ガソリンスタンドに整備スペースを併設しているのが便利で、

初めて整備をしてもらってから、ずっと行きつけだった。

お気に入りのお兄さんもいて。

数ヶ月に1度しか行かないけれど、ちょっとしたオアシス。


だったけど。

ちょっと腕を信じられないなと思うことがあり、

1度だけメンテナンスをしてもらったことのある、

別のお店を新しく行きつけにすることにした。


お兄さんは悪くなかったけど。

他の人(しかも店長)の時に整備不良を起こされて。

その時は友達の車を見てもらったのだけど、

私が行ってもいつもその人が担当。

担当制・指名制じゃないけど、たまたまいつもそうで。

不良があった時、新しく行きつけにした別の店で救われた。

その一件以来、だんだん整備の腕を信じられなくなり、

疑うくらいならと、店を変えた。


新しい行きつけの店は、整備工場のあるお店。

以前のお店とは、規模も人数も比べ物にならないし、

受付のお姉さんや整備士さんの感じのよさ、

経験の多さがあり、安心して任せることができた。


ある日、そのお店に整備を頼んだ。

以前メンテナンスをしてもらった人が担当してくれて、

他の直すべき個所についても色々と話をした。


30代かな?という感じのその人。

結構好みだった。


でも、積極的にどうこうという感じにはなれない。

以前の行きつけの店のお兄さんと同じ感じ。

年齢が少し上だからだろうか?



あなたは、好みの人を見つけたら、どうしますか?


自分をアピールするのか。

個人的な話をするまでの関係を築くか。

何度か通って、メールアドレスをゲットしたりするのか。


心底好きなわけでない、いいなと思ってる程度の人に。

好きだけど、告白したいわけでもない人が、年々増える。


そういう人は、どうすればいいんだろう。


数打ちゃ当たるの方式で、とりあえずガンガンいくのか。

目の保養に留めるのか。



ガンガンいけば、心底好きになる日がくるんだろうか?


それを夢見て突き進めばいいのか。



中学生じゃないけど、そんな簡単なことが分からなかった。

「彼に誰かいい人を紹介してもらおう」


絵美に何度も言われていた言葉。

彼女の彼のつてで、誰かいい人がいれば。


そう言ってくれた。


期待したい気持ちはある。


でも、社交辞令だろうなと思ったりもした。


実際、

彼の仕事が忙しいとか、

絵美自身が県外にいて、彼と会う機会が少ないこと、

仕事関係でちょっとバタバタしていたりして。

なかなか紹介はなかった。


期待せずに4ヶ月は待ったけど、いい連絡はなかった。


改めてその話題を振ってみてもいいのだけど。


彼の仕事が落ち着いた頃。

県外で働いていた絵美が地元に戻ることになった。

引っ越しだの退職だの。

そんな中でこの話ができるほど、私はやり手でない。

「落ち着いたらね」の一言が返ってくるに決まってるさ。


ただ、絵美が落ち着くのを待っていれば、夏になってしまう。


そうなると、その頃にはこの話を余計しにくくなるんだろうな。

今更、みたいな。


25歳。

同級生はぞろぞろと結婚し始め、子供がいる人も増えた。


そんな中、

私は結婚を考える人はおろか、

まだ誰とも付き合ったことがなく。


今更誰かを好きになって、とか、誰かに出会って、とか。

そんなことはないんだろうなって思った。


22歳の頃、当時の職場の先輩と、よく当たる占いに行った。

そこでは25歳で結婚の波が来ると言われた。

それを逃せば30歳。


25歳が無理だとしても、30歳までなんて待てないよ。

すぐなのかもしれないけどさ。


何となく、結婚しないかもなって思った。


そう遠くないうちに絵美は結婚をして、

智世にも素敵な人が現れて、結婚して。

じきに子供が生まれて。


その時々に「おめでとう」と声をかける自分は、

きっと1人のままなんだろう。


誰かの隣で生きていくことは、

自分の隣で一緒に生きていってくれる人に出会うことは、

ないような気がした。