なぜ僕はここまでしてこの塀に囲まれた施設から脱走したいのか。
はじめからこの雇用社会という塀の中に入らなければよかったのではないか。
塀の中に入って、僕は幾度も考えた。
塀の中に入った理由は僕なりに考えそうしたのだけれど、
やはりいい知れぬ不安がつきまとう。
でも僕は脱走しなければ見えぬ景色があることを知っていた。
実に単純なことなのだ。
人間としてこの世に生まれたからには、
様々な国を見て回りたい。
将来に不安を覚えず、暮らしていきたい。
自分の両親、兄妹、子どもたちを守っていきたい。
ただそれだけ。
それだけのことなのに、現在の日本社会がそのような期待すら
持たせてくれないのだ。
戦後の人々(現在の70から80、それ以上の世代の先人)が
何もない荒廃した土地から、日本経済を成長させながら、強固な壁を
築き上げてくれた。
誠にありがたいことに、そのおかげで、今は世界の中で類をみない
安定した国家が生まれた。
しかし、壁とその中の施設は老朽化と解体が徐々に進行している。
いつ崩壊してもおかしくはない。
僕ら若い世代は今ではない、10年後、20年後、30年後を見据えて
行動しなくてはいけない。
塀の中では生き抜くための力すら得られない可能性がある。
ただ、自分が望んだように安心して、暮らしたいだけなのに。
だから僕は行動することを選んだのだ。
たとえ塀が崩壊して、野にさらされても生きる術を身につけるために。