くろだのぱん「クリームドーナツ」 (室蘭市母恋北町)
幼稚園の坂を下り、
バス通りをすこし行ったところに、その店はあった。
まだ看板も見えないうちから、
ぷぅ~んと、パンの焼ける、
香ばしい、わくわくするような匂いが鼻をくすぐる。
幼い私はひそかにそれを、
「幸せのにおい」
と名づけていた。
家に帰るルートは他にもいくつかあったけれど、
私は「幸せのにおい」をお目当てに、
毎日この道を選んで帰ったものだった。
時折、母が迎えにきてくれる時がある。
そんな時は、ここぞとばかりにおねだりをした。
「くろださんに寄ってさぁー、パン、かって帰ろーよぉー」
買ってもらうのは、決まって「クリームドーナツ」。
この店には勿論、
アンぱんもメロンパンも、他にもたくさんのパンが売っていたけれど、
一番のお気に入りは、この「クリームドーナツ」だった。
しかも、我ながら生意気だったことには、
他のお店のクリームドーナツではダメなのだ。
砂糖をまぶしたフワフワのパンに、
甘さを控えたカスタードクリームの程よいバランス。
このお店のカスタードクリームは、
時々母が手作りしてくれたシュークリームの中身の味と、似ていた気がする。
きっと、
卵をたっぷり使って、丁寧に手作りした、風味豊かなクリームだったのだろう。
私にとっての「ひいきの店」の第一号は、
この、「くろだのぱん」だったような気がする。